平野 はじめHajime Hirano
NIKKOR Z50mm f/1.8 S
「精細な被写体を余さず捉える解像力」
踏まれても立ち上がる、その生命力に魅せられて麦を撮り続けている。NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sは開放絞りからとにかくシャープで、拡大したらまるで顕微鏡でのぞいたかのような立体感とキレがあることに驚いた。細い麦のノギさえも鮮明に写し出す解像力、さらに開放絞りから得られるなめらかなボケ。思わず再生画面を長く見てしまうほど撮影時の手応えがあった。また、逆光で撮影するシーンも多いが、ゴーストやフレアが極限まで抑えられていて、ストレスなく撮影に集中できた。麦単体から遠景まで、どう切り取っても抜かりのない画作りは、さらに私の写欲を高めてくれる。気軽に質の高い写真をものにできるなんとも優秀なレンズだ。
北海道の丘陵地帯・美瑛。麦畑を探し求める途中で見つけた場所。時が止まった廃バスの錆びた鉄の質感に、波打つ麦畑をフレームインすることで、静的でありながら動的要素も取り入れた。バスの下に咲く小さな花々まで繊細に解像していることに驚きを隠せなかった。
ある晴れた午後、北海道の空の雄大さが伝わるシチュエーションを探していた。その際に目に飛び込んできた木々と雲をグラフィカルにフレーミング。拡大すると青空のわずかなグラデーションまでナチュラルかつ精密に描写できていることに気付いた。
静まり返る網走の草原。最短撮影距離ギリギリまで寄ってマクロ風な表現を試みた。わずかな光が麦をなぞり、柔らかなグラデーションが生まれた。雨後の小さな水滴さえ見逃さないレンズの描写力と麦の躍動感に思わず「すごい!」と声を発した。ピクチャーコントロール「トイ」で色合いを整えた。
なかなか夕日を拝めない日が続く中、何度も通って得られた1枚。優しい光条が印象的なシーンだが、ナノクリスタルコートによってゴーストやフレアが極限まで抑えられ、写し出される画には心地良さまで感じられた。
平野である故郷・佐賀では見ることのできない、火山灰が堆積した北海道ならではの風景。「HEAVEN」という言葉を連想するほど空に近い麦畑だった。50mmという焦点距離ではあるが、広角的用途としての可能性も存分に感じさせてくれる。砂漠を思わせる赤い麦に浮かぶ雲は、白昼夢。
風により倒伏している麦を降りしきる雨に見立て、テンガロンハットでしのぐ様子をトリック的に表現してみた。影の長さや質感を考慮して朝に撮影した。暗い部分もつぶれることなく自然かつ立体的に写し出される画は、ニコン特有のシャドーの強さとレンズ性能のたまものだろう。
夕空に浮かぶ1本の木。どこか寂しげだが私を強く惹きつけ、わずかに色づき始めた麦畑の穂先は天に昇る階段のようだった。奥へと続く麦のレーンさえも細かく描写され、全体を引き締める解像力は、リアルさの中にパステル画のような空気感も閉じ込めてくれる。
南富良野の見事な大麦。麦の後ろからのぞく夕日の柔らかな質感と、気持ちまで優しくなれるような、なめらかな後ボケ。これらと解像力がうまく融合することでドラマチックな1枚になった。
麦グラファー
平野 はじめ(ひらの はじめ)
自分探しのため20代で渡米した際、写真に深く魅了される。帰国後、舞台撮影経験を経て広告案件を主とするプロ写真家として独立。日本有数の麦の産地・佐賀市を拠点とし、麦を愛するあまり商標登録「麦グラファー」を取得する。7年で7万枚超の麦を撮ったうちの1枚が「ソニーワールドフォトグラフィーアワード2023」日本部門賞第1位を獲得。翌年は同部門第2位を受賞。PX3やIPAなど、世界的なフォトコンテストで受賞多数。「日常に非日常がひそみ、廃にも美が存在する」をコンセプトに一瞬を切り取る。モデル・タレント活動など、自身の姿を通した表現も模索。