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山下裕之 × PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D
PC-E 85mm f/2.8。静謐(せいひつ)なる都市を記録する。
超高層ビルや高速道路から雑居ビル、民家に至るまで、多種多様な建築物の解体と構築が繰り返される都市。その変容を捉え記録し続けたい。撮影はいつも、人の営みが静まり建築物の純粋な姿が際立つ深夜に行う。
レンズは、像の歪みなどを制御するアオリ機能で、被写体の水平・垂直をより正確に写すことができるPC(パースペクティブコントロール)レンズが必須である。今回の撮影は、PC-E 85mmで都市を切り取り、さらに中望遠の圧縮効果による凝縮感の演出を狙った。
ボディーは高画素機の中でも、特に優れた総合画質を持つD810である。神宮外苑や日比谷、御茶ノ水、浅草橋のほか、都内数ヵ所で夜の静寂に染まる被写体と向き合った。その中の一枚が、日本橋とその上を走る首都高速道路の生み出す風景。明治時代に建造された石橋と、昭和の高度経済成長期に急造された鉄の高架橋は、東京という超過密都市の象徴でもある。
三脚に機材をセットした後、川面の鏡面反射による映り込みも活かすためにレンズを下方向へシフト(フォール)して撮影した。それによって、水中から垂直に立ち上がり首都高速を支える橋脚や、画面を水平に横切る日本橋を歪なく捉える。撮影ポイントから橋までは約120mで、首都高速がカーブした左の先までがほぼ300m、さらにその奥に見えるビルまで約500m。
狙い通りの圧縮効果がその間の距離を凝縮する。街灯の光や水面の反射も多かったが、ナノクリスタルコートがゴーストやフレアを抑え、周辺までの高い解像力をより揺るぎないものにした。これからも、静謐なる都市を見つめ撮り続ける ―― 私のNIKKORで。
INTERVIEW MOVIE
PHOTOGRAPHER
NIKKOR
BEHIND THE SCENE
これまで続けてこられた作品撮影のフィールドは東京が中心、そして時間帯はほとんどが深夜です。常に車や人で混雑する都心も、1時ごろには終電の時刻を迎え、2時前にはタクシーの利用も落ち着き、そこから3時過ぎまで最も静かな顔を見せます。まさに真夜中、三脚に機材をセットしてじっくりと被写体に向き合い、主に長秒露光での撮影に臨みます。動くものや過剰な光などが少ない分、構造物の純粋な存在感がはっきりと浮かび上がってくるとのことでした。山下先生が夜の東京を撮影し始めたのは2012年から。前年の震災を契機に、以前から感じていた『巨大な建築物も永遠にそこにあるものではない』という想いを強くし、変化する東京の姿を記録していこうと決めたそうです。そこで必要となったレンズが、被写体を歪みなくより正確に捉えることができるPCレンズでした。現在、PC-E 24mm・45mm・85mmの3本のNIKKORレンズを状況や撮影の狙いによって使い分けているそうです。
撮影に使用したレンズは、PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8Dです。通常、建築物を被写体とする場合は広角系のレンズを用いることが多いのですが、今回の撮影ではあえて85mmを選択。その理由は、より狭い画角で都市を切り取りたいと考えたこと、さらに中望遠の圧縮効果を活かして、切り取った都市風景をさらに高密度に表現することを主な狙いとしたからです。カメラボディーは、有効画素数3635万画素を活かす広いダイナミックレンジや優れた画像処理エンジンなどで、高画質を得ることができるD810です。そしていよいよ撮影を開始。最初のポイントに機材をセットした後、レンズを操作し慎重に構図を決め、ライブビューで画面の隅々まで被写体の垂直・水平やピントを詳細に確認。液晶画面で見ても、このレンズの解像力の高さが伝わってくるように感じました。そしてすべての準備が整い、リモートコードのレリーズボタンが押されます。静寂の中、小さなシャッター音が心地よく耳に伝わりました。
夜がさらに深くなるころ、メインカットとなった日本橋の撮影に向かいました。道に人影はほとんどなく、行き交うタクシーもまばらです。そして到着したのは日本橋の川上に架かる橋。ちょうど干潮のピークとなり、川の流れが止まっています。しかもほぼ無風で水面は鏡のよう。今回、この状況を狙って撮影プランが立てられていたようです。川下には巨大な首都高速道路の下に日本橋が見え、その途中に高速を支える柱が並んでいました。山下先生は橋の欄干ギリギリに機材をセッティングし、慎重に構図を決めピントの確認を行います。そして水面をより多く入れるためレンズを下にシフト(フォール)してシャッターをきりました。上に高速道路、下に鏡の水面、その狭いスペースの奥に厳かに佇む日本橋。このレンズは石組みの一つひとつまで克明に描写し、橋の存在感を際立てました。周囲の照明や水面の反射による光の悪影響もナノクリスタルコートの効果で見事に抑えられています。そして、途中の柱やカーブする高速道路、周囲の建築物などを圧縮効果によって凝縮し、緻密な世界を静かに浮かび上がらせました。
こちらに掲載されている情報は、2016年5月現在のものです。
比較作例による、
PCレンズの効果の紹介
PCレンズの特長のひとつであるシフト機構の効果をご覧いただくため特別に撮影をお願いしました。PCレンズは、シフト機構によって鏡筒を上にシフト(ライズ)したり、下にシフト(フォール)したりすることができます。作例は、ビルを見上げる位置から「被写体に対しカメラを斜め上に向ける場合」、「カメラを傾けず鏡筒のみを上にシフト(ライズ)した場合」の比較です。
通常撮影
見上げるようにカメラを上に向けて撮ったもの。通常のレンズの場合このような撮影方法になりますが、ビルの上部がすぼまって、形状を正確に捉えることができません。
シフト撮影
カメラを正対(真っ直ぐ)にした状態で、 PCレンズのシフト機構を使い鏡筒のみを上にシフト(ライズ)して撮影したもの。ビルの上部のすぼまりがコントロールされ、より正確に被写体を捉えることができます。
DATA
- 写真家:山下裕之
- レンズ:PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D
- カメラボディー:Nikon D810
- キーワード :その他