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岡田 敦 × AF DX Fisheye-Nikkor 10.5mm f/2.8G ED
DX Fisheye 10.5mm f/2.8。世界を包み込むレンズ。
人物を被写体として作品を制作していた20代のころから、30歳を過ぎたら自分の原点である北海道を撮ろうと決めていた。多くの人がまだ触れていない景色を、この地の新たな印象をつくっていきたいと思っている。現在、主な撮影を道東の根室半島で行っている。多様な自然の宝庫である春国岱(しゅんくにたい)、特有の地形を有する落石(おちいし)、そして野生馬の棲息する無人の島、ユルリ島などである。
この作品は春国岱(しゅんくにたい)の夕景。春国岱は、根室湾と風蓮湖(ふうれんこ)の間に横たわる8kmほどの細長い砂州である。約300種の野鳥と、砂丘上のアカエゾマツの森で有名なこの地にも、6年間通い続けている。今回の撮影はAF DX Fisheye-Nikkor 10.5mm f/2.8G EDで臨んだ。
180°の画角を持つこの魚眼レンズで、世界を切り取るのではなく包み込もうと考えたからだ。ボディーは高速性能、優れた画質、高い機動力と耐環境性能を持つ最強のDXフォーマット機、D500である。軽量・コンパクトなこのレンズとの組み合わせで、根室の自然により深く分け入って撮影することができた。
その中のひとつがメインカットとなった夕景である。昼過ぎに貝などを獲る小舟が漁に出たことを確認し、夕暮れに戻ってくる時刻を待った。やがて潮が満ち、凪の水面に森と空が映る幻想的な景色が広がる。
そして日没間際。夕日を背にして舟が還ってきた。同時に野鳥の群れが空を横切る。魚眼レンズのデフォルメ効果を活かし、水平線と地平線を湾曲させて撮る。宇宙へとつながる空の広さ、大自然の奥深さ、多様な生命の尊さ、そしてささやかな人の営みを一枚に描ききることができた。これからも、自らの原点に向き合う
―― 私のNIKKORで。
INTERVIEW MOVIE
PHOTOGRAPHER
NIKKOR
BEHIND THE SCENE
『自然を撮る前に、まず“人”を撮ろう』。写真を始めたころから、いずれは自分が生まれた北海道の自然を撮影しようと決めていた岡田先生は、そう考えたそうです。『人と向き合いその深さを知ることで、自然に対しての姿勢も変わるだろう』という思いからでした。そして20代は主に人物を撮り続け、30代になった6年前から、自らの原点である北海道を撮り続けています。主な活動場所は道東の根室半島や野付半島など。特に根室半島は人と自然の境界が曖昧で、街のすぐ近くに深く力強い自然が広がっているとのこと。今回の撮影も根室半島で行われました。半島の根元あたりにある春国岱(しゅんくにたい)という砂州、南側にある落石(おちいし)の海岸に沿った牧場、そしてその対岸に位置する落石岬近辺が主な撮影場所でした。最初に訪れたのは春国岱。3,000年から1,500年をかけ堆積した3列の細長い砂丘には、海岸、草原、湿原、森林など多様な環境が形成されています。またここは日本の野鳥の半数以上が確認される、全国屈指のバードサンクチュアリでもあります。
今回の撮影では、AF DX Fisheye-Nikkor 10.5mm f/2.8G EDが使用されました。35mm判換算で16mm対角線魚眼レンズに相当する、180°の広い画角を持つ魚眼レンズです。さらに写るものが大きくゆがむデフォルメ効果が特長。先生はその超広角とデフォルメ効果を活かして、広大な自然風景を包み込むように撮りたいと考えました。広い風景だけでなく足元の小さな被写体を包み込むこともできます。このときには0.14mという最短撮影距離が威力を発揮。被写体に思い切り寄って、小さな宇宙を演出することもできます。また小型・軽量なこのレンズはDXフォーマットのボディーとの組み合わせで、非常に高い機動力をもたらします。春国岱では、より深く森へ入ることができましたし、その次に向かった落石の牧場や落石岬でも広大な草原などを歩いて移動する際の大きな助けになりました。ちなみに落石近辺の地形は海岸線のほとんどが断崖。スコットランドを彷彿させるその眺めは、まさに絶景です。そしてこの場所から沖に見える島が、現在は無人島となっているユルリ島。岡田先生は根室市からの委託で、この島の野生馬を撮影・記録しています。かつて昆布を崖の上に引き上げるため島に連れていかれ、人が去った後に野生化した馬たち。いま、島には牝馬しかいません。やがて滅びゆくその姿を先生は撮り続けています。
天候などを見ながら数日間にわたった今回の撮影。その中で先生は再び春国岱へ。今度は森の奥ではなく、より広大な風景を捉えることができる場所での撮影です。いくつかのポイントをチェックしながら撮影を続けていると、お昼過ぎに干潮時の水路を抜け、小舟が漁に出るところが見えました。浅瀬でアサリやホッキ貝を獲るようです。先生は潮が満ち始める夕方にその舟が戻ってくるところを撮ることにしました。日の沈む方向を調べ、撮影ポイントを探り、構図と演出を吟味します。特に魚眼レンズ特有のデフォルメの演出は、わずかな角度の差で雰囲気が大きく変わります。そして理想の撮影ポイント、構図、演出を決めた後、日暮れを待ちました。やがて潮が満ち始め、凪の水面には鏡のように森と雲と空と夕日が映ります。さらに時が過ぎ、夕日が森の向こうに沈む寸前、小舟が戻ってきました。しかも野鳥の群れが目の前を横切ります。先生は手持ちで微妙に角度を調整しながらデフォルメをコントロールし、この素晴らしい情景を撮りました。粘り強く歩き、深く観察し、慎重に考え抜いた結果、導き出された撮影の狙い。その思いに、優れたレンズと奇跡のような幸運が応えた最高の一枚となりました。ユルリ島での撮影を始め、先生の旅はこれからも続きます。新しく、懐かしい北海道の印象を形づくっていくために。
こちらに掲載されている情報は、2016年7月現在のものです。
DATA
- 写真家:Atsushi Okada
- レンズ:AF DX Fisheye-Nikkor 10.5mm f/2.8G ED
- カメラボディー:Nikon D500
- キーワード :風景・自然