「ズームレンズ」は1本で写る範囲を拡大したり縮小したり、被写体に寄ったり引いたりして撮ることができる便利なレンズです。一眼レフカメラとセットで販売されていることも多く、初心者にとっても馴染みのあるレンズといえるでしょう。
そこでLesson1となる今回はズームレンズの特徴を踏まえながら、レンズを知る上で基本となる「広角」「標準」「望遠」の違いについても学んでいきましょう。
ズームレンズに限らず、レンズは大きく「広角」「標準」「望遠」の3種類に分けられます。これらにどんな違いがあるのか、まずはそれぞれのレンズで撮った写真を比べてみましょう。撮影位置を変えずにレンズだけを交換し、背景に建物の見える場所で人物を撮影しました。
同じ位置から撮っていても、レンズを換えることで写り方が変わっているのがわかると思います。広角レンズで撮られた写真は手前から遠くの風景までを広々と写し、人物や背景の建物などが小さく写っています。逆に望遠レンズは風景の中の一部分を切り抜いたように狭い範囲を写しており、人物も建物も大きく写りました。標準レンズは人物、建物ともに、広角レンズと望遠レンズの中間くらいの大きさで写っています。
なぜ広角レンズ、標準レンズ、望遠レンズで写り方に違いが出るのでしょうか? それは、それぞれの「撮影範囲(撮影できる角度)」が違うからです。
上の図は、この写真を撮ったときの広角、標準、望遠それぞれのレンズの撮影範囲の違いをあらわしたものです。撮影範囲の広い広角レンズは周囲を広々と写すことができますが、撮影範囲に対して人物は小さくなります。逆に望遠レンズは撮影範囲が狭いため一部を切り取る形となり、人物も大きく写ります。標準レンズは広角と望遠の中間くらいの範囲を写すことができ、おおよそ人間の視野に近い画を写すことができます。
このことから広角レンズは広い範囲を写したいときに、望遠レンズは遠くのものを大きく写したいときに、標準レンズは目で見たイメージに近い範囲を撮りたいときに向いているということがわかります。
では、広角レンズでは望遠レンズのように人物を大きく撮ることはできないのでしょうか?
答えは簡単、人物に撮影者が近づいて撮れば、広角レンズでも人物は大きく写せます。ということで今度は広角レンズと標準レンズを使い、望遠レンズで撮影したときと人物が同じくらいの大きさに写るように位置を変えながら撮影をしてみました。
この写真で注目したいのは、背景の写り方です。人物は同じ大きさなのに、広角から標準、望遠になるにつれ手前の人物に背景が近づいてきているように見えます。変えたのは撮影位置とレンズだけ、人物の位置は変わっていないのにも関わらず、なぜこのような違いが出るのでしょうか?
実はこちらも、レンズの撮影範囲が関係しています。
上の図はこの写真を撮ったときの広角レンズ、標準レンズ、望遠レンズそれぞれの撮影位置と撮影範囲の違いをあらわしたものです。広角レンズでは人物を大きく写すために近づいて撮影をしていますが、撮影範囲が広いため背景はやはり広い範囲を写していることがわかります。人物が大きくなっても背景にある建物などは小さいまま写る、この大小の差により遠近感が強調され背景が遠くにあるように見えるのです。
このように、広角レンズには手前のもの(レンズの近くにあるもの)はより大きく写り、遠くのもの(レンズから離れているもの)はより小さく写るという性質を持っています。これを「遠近感(パースペクティブ)」といいます。
逆に、撮影範囲が狭い望遠レンズでは背景も狭い範囲しか写らないため、遠くにある建物も大きく見えます。近くの人物と遠くの建物の大きさに差がなくなるため、遠近感がなくなり背景が近づいたように見えるのです。
このように、望遠レンズで撮影したとき背景が近づいたように写ることを「圧縮効果」といいます。
なお、標準レンズは広角と望遠の間くらいの範囲を写しますので、遠近感も人間の目で見たイメージに近い見え方で写っているのがわかります。
「広角」「標準」「望遠」の写り方の違いがわかったところで、ここではそれぞれのレンズでどんな写真を撮ることができるか、レンズごとの特徴や使い方を写真とあわせて紹介します。
広角レンズといえばやはり、その撮影範囲の広さを活かした広がりある風景写真が撮れるというのが大きな利点です。人間の視野よりも広く写すことができるため、目の前に広がる風景をそのままに、さらに見た目以上の広大さで捉えることができます。
撮影者の近くにあるものから、遠くにあるものまでを一緒に写したいときには広角レンズが便利です。たとえば大きな建物の前や展望台で風景をバックにしての記念写真を撮る際など、人物と背景を広く画面に入れて写すことができます。
自宅やカフェなどの室内では被写体から十分な距離をとって撮ることができません。そんなときも広角レンズであれば室内でのスナップ写真や複数人の記念撮影なども余裕を持って撮ることができます。広角レンズと標準レンズを比べてみれば、その写り方は一目瞭然です。また教会やホールなど天井の高い場所では、室内の雰囲気を広く写すことができます。
「パース」とは、遠近感(パースペクティブ)を略した言葉です。「近くのものはより大きく、遠くのものはより小さく写る」という広角レンズの特徴を活かすことで高さや奥行きなどの遠近感がより強調され、ダイナミックでインパクトのある、風景の広がりを感じさせる写真を撮ることができるのです。
パースをつけて撮るコツは、手前から奥まで連続している被写体(高層ビル、街並みや道路、トンネル、並木道など)を画面内に入れること。手前から奥へ、また画面の端から中心へと向かってギューッと収束するように写ります。
広角レンズと望遠レンズの間くらいの撮影範囲を持つ標準レンズ。中でも標準ズームレンズはとても使い勝手がよいレンズです。
たとえばこちらの写真は「AF-P DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」という標準レンズで、広角側と望遠側で撮った写真を比べたものです。建物の全体を大きく写し込んだり気になる一部を大きく切り取ったりと標準ズームレンズは1本でさまざまな表現が楽しめるレンズなのです。
実はレンズには、「望遠になるほど大きくボケる」という特徴があります。1本のズームレンズでも広角側より望遠側の方がボケた写真が撮れるのです。
さっそく、撮影位置を変えずに花を標準ズームレンズの広角側、望遠側で撮り比べてみました。背景のボケ具合が、望遠側の方がより大きくなっているのがわかります。標準ズームレンズは、1本でここまでボケ具合を変えた写真も撮ることができる便利なレンズなのです。
旅行などどこかへ出かける際にカメラを持って行くなら、なるべく荷物は軽くしたいものです。1本でさまざまなイメージの写真が撮れる標準ズームレンズは比較的軽いものも多く、持ち歩くのには最適です。また人間の目に近いイメージで写すことができるので、旅先で目にして「撮りたい」と思った瞬間をそのまま切り取ることができる、スナップ撮影に適したレンズです。
かわいい雑貨やおいしそうな料理、スイーツ、キレイに飾られた花などいろいろな“もの”の写真、いわゆる「テーブルフォト」を撮るのにも、標準レンズが便利です。目で見たままのイメージで写せ、被写体に近い位置からも無理なく撮影することができます。
被写体にどれくらい寄って撮ることができるかはレンズごとに違うのですが、見たままのイメージで寄った写真を撮りたいときは標準レンズがおすすめです。
遠くのものにググッと寄ることができる望遠レンズ。遠方の風景を大きく写したいときや、近寄ることのできない被写体を大きく写したいとき、たとえば木の上にいる鳥や花壇の中など入れない場所に咲いている花を大きく捉えたいときなどはとても便利です。
望遠レンズには500mm、800mmといった超望遠レンズもありますが、一般的には135~300mmくらいあれば望遠レンズらしい表現を活かした写真を撮ることができます。
こちらは「AF-S DX NIKKOR 55-300mm f/4.5-5.6G ED VR」という望遠ズームレンズを使って、広角側と望遠側で撮り比べたものです。広角側では標準レンズに近い風景を写すことができ、望遠側ではここまで大きく寄った写真を撮ることができます。写り方の特徴や使い方を知ることで表現の幅をぐんと広げてくれるレンズです。
遠くの建物が大きく人物に近づいたような記念写真が撮れたり、花の中に包まれたような写真が撮れたり、背景が近づく圧縮効果を利用すれば、望遠レンズならではの記念写真を撮ることができます。
圧縮効果の写真を撮るには、奥行きがある場所であることが必須です。撮影者と人物の距離がある程度離れていること、さらに人物と入れたい背景にも距離がある方がより圧縮感のある写真になります。
望遠になるほど大きくボケるという性質を持つレンズ。望遠レンズを使うとピントを合わせた被写体の背景を大きくボケさせたり、または手前をボカして幻想的な1枚を演出したりといったボケを活かした写真を撮ることができます。
なるべくレンズの望遠側で撮り、またピントを合わせる被写体とボケさせたい被写体の距離が離れているとより大きくボケます。
遠くのものが大きく写せる望遠レンズ。被写体の周囲に写したくないものが映り込みそうな場所で良い部分だけを切り取ったり、建物や動物などの一部を切り取ってみたり、望遠レンズの場合は遠近感も小さくなるため、よりデザイン的で面白い画づくりをすることができます。
カメラとレンズの間に装着することで、さらにレンズを望遠にすることができるアタッチメントレンズです。装着したレンズを1.4倍、さらに2倍に写すことができるものもあり、コンパクトなため持ち運びも便利です。たとえば「300mm」のレンズで2倍のテレコンバーターをつけると「600mm」で写すことができるという、ひとつあると面白いレンズです。撮影状況や被写体に応じて使い分けるとよいでしょう。
そのレンズが広角か、標準か、望遠かを見分けるにはレンズ名をチェックしてみましょう。レンズにはそれぞれ「28mm」、「50mm」、「100mm」といった数値が振られており(この数値を「焦点距離」といいます)、数値が小さいほど撮影範囲が広く、数値が大きいほどレンズ撮影範囲は狭くなります。
おおよその目安としては、35mmくらいまでが広角レンズ、50mm前後が標準レンズ、85mm以上が望遠レンズ(望遠の中でも中望遠、望遠、超望遠という分け方をすることもあります)となります。
ズームレンズの場合は「18-55mm」というように一番広く写せる撮影範囲から一番狭く写せる撮影範囲の両端を数値で表しており、目安となる数値を中心に含むレンズがそれぞれ広角ズームレンズ、標準ズームレンズ、望遠ズームレンズとなります。なお、広角から望遠までの撮影範囲を1本で写すことができるズームレンズもあり、これを「高倍率ズームレンズ」といいます。
1点注意したいのは、レンズには「DXレンズ」と「FXレンズ」というサイズの違う2種類のレンズがあり、上記で挙げた目安となる数値は「FXレンズ」を基本としています。レンズ名に「DX」と記載がある場合には、その数値を1.5倍にしたものを目安にしましょう。
たとえば「AF-P DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」というレンズ。「18-55mm」は1.5倍すると「27-82.5mm」となり、50mm前後の数値を中心にした標準ズームレンズということがわかります。