ニコンのカメラにはFXとDX、2種類のフォーマットがあります。この2つの違い、なんとなくはわかるけれど、詳しくは理解できていないかも……という方、実は多いのではないでしょうか。
今回は、フォーマットの基礎知識やFXとDXの特徴、違いなどを学びながら、撮影シーンによって便利に使い分けるコツをご紹介します。
撮影監修:斎藤勝則
デジタルカメラには写真を撮るための装置「撮像素子(イメージセンサー)」が内蔵されています。
撮像素子には様々な大きさがあり、ニコンでは2種類の大きさを使用しています。
ひとつ目は35mmフィルムの大きさに準じたサイズ(フルサイズ)で作られた「FXフォーマット」、もうひとつがそれよりも小さなサイズで作られている「DXフォーマット」です。
FXフォーマットとDXフォーマット、撮像素子の大きさの違い
よく「これはFXのカメラ」、「これはDXのカメラ」というような言いかたをしますが、それはつまり「FXフォーマットの撮像素子を搭載したカメラ」、「DXフォーマットの撮像素子を搭載したカメラ」ということになります。
そしてレンズにもFXフォーマット用、DXフォーマット用のものがあります。それぞれのフォーマットに合わせて最適な画が撮れるよう設計されています。
FXとDXではフォーマットによって被写体の写る範囲が異なります。こちらはFXフォーマットのカメラとレンズ、DXフォーマットのカメラとレンズを使い、同じ場所から同じ焦点距離で撮影した写真です。
FXフォーマットの方がより広い画角(広角)で、DXフォーマットの方がより狭い画角(望遠)で写っているのがわかります。
同じ35mmなのに、なぜ写る大きさに違いが出るのでしょうか。それは、FXフォーマットとDXフォーマットの撮像素子の大きさが違うからです。それぞれのフォーマットで撮影したとき、写し込む範囲は以下の図のようになります。
DXフォーマットはFXフォーマットの約1.5倍、被写体を大きく写します。
DXレンズの説明文などによく、「35mm判換算で●●mm相当」という記載がありますが、これは「35mmフィルム判=FXフォーマットでいうと、●●mm相当の画角で写ります」という意味になります。焦点距離の話をするときには、35mm判であるFXフォーマットを基準に説明されることがほとんどです。DXフォーマットのカメラやレンズで撮影するときにはこういった記載も参考にしながら、35mm判換算ではこれくらいの焦点距離になるな、という感覚を身に着けておくと良いですよ。
FX、DXフォーマットのそれぞれのカメラとレンズは、自由に組み合わせて使うことができます。ただし、組み合わせによって以下のように写るフォーマット(大きさ)が変わりますので覚えておきましょう。
FXフォーマット対応レンズ | DXフォーマット対応レンズ | |
FXフォーマットのカメラ | ①FXフォーマットのサイズで写る | ②DXフォーマットのサイズで写る |
DXフォーマットのカメラ | ③DXフォーマットのサイズで写る | ④DXフォーマットのサイズで写る |
②の場合、撮像素子はFXフォーマットのサイズなのですが、レンズの画角がそれよりも小さくなるためDXフォーマットのサイズに写ります
カメラとレンズを組み合わせて使う上でもう1点、「マウント」について覚えておきましょう。
マウントとは、カメラとレンズを装着する部分の規格サイズのことです。ニコンのカメラには一眼レフカメラに使われている長い歴史を持つ「Fマウント」と、ミラーレスカメラZ シリーズとともに誕生した「Zマウント」の2種類があります。
規格サイズが違うマウントのカメラボディーとレンズはそのままでは使用できません。マウントサイズの違いを補う「マウントアダプター」をカメラボディーとレンズの間に装着することで使用できるようになります。ZマウントのカメラにFマウントのレンズを着けたい、といった場合には注意しましょう。
撮像素子はレンズから入ってきた光(画像情報)を受け取る窓口であり、同時にそれを処理するカメラの頭脳のような役割を果たしています。ここからは撮像素子の大きさが違うことでカメラにはどのような影響があるのか、FXフォーマットとDXフォーマットの違いを比較しながら、賢く使い分けるヒントをご紹介します。
同じ絞り値で撮影しても、撮像素子の大きなFXフォーマットの方が被写界深度が浅くなります。つまり、よりボケた写真を撮ることができます。被写体の背景をより大きくボカしたい、といったシーンではFXフォーマットの方が有利になります。
撮像素子が大きければその分より多くの光を取り込むことができるため、高感度で撮った写真でもノイズの少ない、細部までより精細に捉えた写真を撮ることができます。暗いシチュエーションの中、手持ち撮影をするといったシーンではFXフォーマットの方がより高精細な写真を撮ることができます。
DXフォーマットのカメラは撮像素子が小さい分だけ軽量・コンパクトに設計されています。カメラ同様、レンズもコンパクトに設計されているため携行性、機動性に優れており、持ち歩きながら撮影するときや旅行に持っていくときなどにもおすすめです。またFXフォーマットの機材に比べてリーズナブルなのも魅力のひとつです。
DXフォーマットのカメラはFXに比べ一回り小さく作られています。レンズは標準ズームと望遠ズーム、ほぼ同じ焦点距離を持つレンズを2本ずつ並べていますが、大きさの違いは一目瞭然です
ズームレンズの広角側で比較したとき、同じ焦点距離でもDXフォーマットのレンズの方がFXフォーマットに比べ最短撮影距離が短くなります。つまりDXフォーマットの方が、被写体によりぐっと寄った写真を撮ることができるのです。
同じ絞り値で撮影しても、DXフォーマットの方が被写界深度が深くなります。つまり、FXフォーマットに比べ奥の方までピントの合った写真を撮ることができます。たとえば風景を入れた記念写真。背景の様子までしっかり写したいけれど、曇りや夕方など暗めのシーンでは手ブレを防ぐため絞りをあまり絞ることができません。それでも、DXフォーマットであればさほど絞らなくても、遠くまでよりハッキリと写すことができます。
望遠画角のレンズとなると、FXフォーマットではそれなりに大きく重くなります。その点、DXフォーマットのレンズは軽量で、望遠であっても持ち歩きがしやすく便利です。さらにFXフォーマットよりDXフォーマットの方がより望遠で写すことができるのは上でも述べた通りですので、たとえば運動会や発表会、飛行機や鉄道を撮影するときなど重宝するシーンは多いのではないでしょうか。
またFXフォーマットのカメラにDXレンズを装着することもできますので、望遠画角のレンズのみDXフォーマットを持っていくといった選択もできますね。
こちらの風景を、同じような画角を持つズームレンズ「NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR」と「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」で撮り比べてみましょう
上の作例では、FXフォーマットの望遠ズームNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sを使って撮影しましたが、FXフォーマットでこれよりさらに望遠の画角で撮影したいと思ったら、さらに上の大きなレンズを使わなければいけないのでしょうか。それ以外にもいくつか方法があります。
[撮像範囲設定]を変える
「クロップ」とも呼ばれる設定で、撮影する画像の一部分を切り出すことで撮影サイズを変更することができます。[DX(24×16)]に設定すれば、FXフォーマットのカメラとレンズでもそこから1.5倍の焦点距離を得ることができます。70-200mmのレンズであれば、300mmまで大きく写すことができるというわけです。
ただし、FXフォーマットの一部分を大きく拡大しているため、画像の解像度が下がります。DXフォーマットのカメラとレンズで撮影したものと比べても、[撮像範囲設定]で撮った画像の方が解像感が下がっていることがわかります。
テレコンバーターを使用する
レンズを増やさず、解像度も下げたくないというのであれば、「テレコンバーター」を使用しましょう。テレコンバーターとは、カメラのレンズの間に装着することで焦点距離を増やすことができるアタッチメントレンズのこと。さほど大きくなく持ち運びも便利ですので、もう少し望遠で撮りたいシーンが出てくるかもしれない、という場合には準備しておくのがおすすめです。
DXフォーマットのカメラとレンズで撮影したものと比べてみても、解像度はFXフォーマットを保ったまま、解像感ある写真が撮影できています。
FXフォーマットの望遠レンズを準備するのは、重さの上でも、値段の上でも手軽ではないかもしれません。そんなときには、自分が撮影したい写真はどの程度の解像度が必要なのかを考慮しながら、ご自身に合った機材を選んでみてください。
今回の記事は、どちらのフォーマットのカメラを買ったらよいのかな? と迷っている方にも参考にしていただけたらと思います。解像度の高いカメラのラインナップを揃え、また豊かなボケ表現や暗いシーンに強いなど表現力にこだわりたいならFXフォーマットはおすすめですし、また、軽量・コンパクトでありながら望遠にも強く安定した画質が得られるDXフォーマットは、オールマイティーに使っていただけます。
撮りたいイメージ、被写体、シーンに合う最適なフォーマットを選んで、さらに撮影の楽しみを広げていってくださいね。