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【特集】2024年秋 紫金山・アトラス彗星がやってくる!

2024年の秋、夕方の西の空に明るい彗星「紫金山・アトラス彗星」が見えると期待されています。観察や撮影の方法を参考にして、一期一会のめぐり逢いを存分に楽しみましょう。
制作協力:山野泰照(写真家、写真技術研究家)

いつ、どこに見える?

紫金山(ツーチンシャン、またはシキンザン)・アトラス彗星(C/2023 A3)は、10月中旬以降に、夕方から宵の時間帯に西の空に見えます。
※9月末から10月初めに明け方の東の空にも見えますが、日の出30分前の高度が10度未満ととても低いので、ここでは解説を省略します。

10月15日ごろから、日の入り1時間後(東京で18時5分ごろ)の高度が10度を超え、20日ごろには30度近くまで高くなります。日を追うごとに少しずつ暗くなっていきますが、高くなることで薄明や街明かりの影響が軽減されるので、探しやすくなるでしょう。

背景の星々に対する紫金山・アトラス彗星の位置。金星や1等星のアルクトゥールス、2等星のラスアルハゲ、アルフェッカなどが、方位や高度の目安になります

日の入り1時間後の紫金山・アトラス彗星の方位と高度。おおむね、西南西の方角の高度20~40度あたりに見えます。これより早い時間帯は左上に、遅い時間帯は右下にずれます

どんなふうに見える?

彗星の明るさの予想はとても難しいものですが、10月中旬から下旬の紫金山・アトラス彗星は2~4等級ほどの明るさになるとみられています。空の暗いところであれば、肉眼でもじゅうぶん見える明るさです。

ただし、恒星や惑星のような点光源とは異なり、彗星は少し広がりのある、ボンヤリとした姿に見えます。この見え方の違いは「彗星と恒星とを区別する」方法の一つでもありますが、ハッキリ見えないために「これが彗星かどうか自信が持てない」と迷ってしまうことにもなります。点光源には見えずボンヤリしている、ということを意識しましょう。

彗星は「ほうきぼし」とも呼ばれるように、尾が見えることが特徴であり魅力です。尾の見え方もまた、明るさと同様に予想が難しいのですが、左上方向に伸びているはずなので確かめてみてください。5度(満月10個分、腕を伸ばして指2本分の幅程度)くらいまで伸びていれば「彗星らしい」姿を楽しめるでしょう。

双眼鏡(視野7度)での見え方の例

大きい注意点として「飛行機や飛行機雲と見間違えない」ように気をつけてください。夕方の西の空で飛行機雲を伸ばし太陽の光を受けて輝く飛行機は、一見しただけでは彗星だと思ってしまいがちです。彗星と見分けるポイントはいくつかありますが、最もわかりやすいのは「短い時間で移動しているかどうか」です。時間が経つと、彗星は太陽や星と同じように日周運動によってだんだん高度を下げていきますが、数十秒から数分程度で目に見えてわかるほど位置が変わることはありません。短時間で位置が変わっていれば、彗星ではなく飛行機の可能性のほうが高いので、移動の様子を確かめましょう。

どうやって観察する?

先述のとおり、紫金山・アトラス彗星が期待どおりに明るくなれば肉眼でもじゅうぶん見えますが、しっかり観察するには双眼鏡を使うのがお勧めです。双眼鏡は肉眼よりも暗い天体まで見ることができ、とくに夕空の薄明が残っている時間帯に彗星を探すときには強力な助けになります。

レンズの口径は30~40mm、倍率は7~10倍程度が使いやすいでしょう。詳しくはニコンイメージングジャパンのウェブページで紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

ニコン双眼鏡 MONARCH HG 10x42。広視界かつ視野周辺までシャープな見え味で、天体観察に適しています。

双眼鏡を使用する際には「目幅を合わせること」「左右それぞれでピントを調整すること」が必要です。明るいうちに遠くの景色などを眺めて練習や調整をしておきましょう。そのうえで、「星はシャープに見える(ピントが合っている)が、彗星はボンヤリ見える」という違いを実感してみてください。

双眼鏡の倍率とレンズの大きさ、視界は、双眼鏡の基本的なスペックなのでボディに記載されています。倍率とレンズの大きさは型番からもわかります(たとえばMONARCH HG 10x42なら「10倍」「42mm」です)。
出典:Nikon 双眼鏡総合カタログ

双眼鏡を使う前に目幅を合わせましょう。また、ピント調整は左右の眼それぞれで行います。
出典:Nikon 双眼鏡総合カタログ

肉眼で彗星が見えていればその方向に双眼鏡を向ければ良いだけですが、肉眼で見えていない場合には「探す」ことになります。明るい星を手がかりにしたり地上風景(方位と高度)を目印にしたりして、丁寧に探してみてください。たとえば10月21日であれば、「2等星のラスアルハゲから、双眼鏡の視野を3つ分ほど下に動かした辺り」というたどり方や、「山や木で西南西の方角を確認し、地平線から30度くらいの高さ(日の入り1時間後)」という見当の付け方ができるでしょう。このとき、双眼鏡の視野(視界)の広さを知っておくことも重要です。また、双眼鏡を三脚に取り付けておけば、動かす量をコントロールしやすくなります。彗星を見つけた後に双眼鏡の視野から外れないように固定しておくのにも便利でしょう。

10月21日 日の入り1時間後の西の空の様子(場所の設定は東京)。双眼鏡の視野を7度として「ラスアルハゲから下に視野3つ(緑の円)」「金星から右に2つ、上に4つ(黄の円)」と動かして探します。天体を使わずに方位と高度を頼りにする方法もあります。

視界が限られていたり地上の光が眩しかったりすると彗星が見えませんので、西の空の見晴らしが良く街明かりなどの影響が小さい場所を、あらかじめ見つけておきましょう。場所選びはこの後に紹介する「彗星の撮影」でも重要なポイントです。

撮影する方法は?

これまでに天体写真を撮影したことがないという方でも、夜景の写真を撮るのと同じような要領で、彗星の写真を撮ることができます。カメラの設定など、撮影のポイントを紹介していきましょう。

必要な機材

スマートフォンのカメラでも彗星を写すことは可能ですが、撮影にはやはりデジタル一眼カメラが適しています。最近の製品は高感度性能に優れているので、特にハイスペックのものでなくても大丈夫です。

レンズは、ふだんお使いの標準ズームレンズでも良いのですが、効率的に、かつ暗い部分まで確実に写すためにF1.8などの開放F値が小さい(いわゆる「明るい」)レンズがあると、より安心です。焦点距離が50mm、85mm、135mmなどの優れた単焦点レンズが良いでしょう。こうしたレンズは今回の彗星の撮影だけでなく、ふだんのフォトライフにおいても写真表現を広げることができますので、この機会に追加することを検討してみてはいかがでしょうか。

このほか、カメラがぶれるのを防ぐために三脚も必須です。また、カメラに直接手を触れることなくシャッターを切ることができるリモートコードなどのアクセサリーがあれば便利でしょう。

(左)Z6+NIKKOR Z 24-70mm f/4 Sにリモートコード(MC-DC2)を取り付けた例。(右)Z9+NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sにリモートコード(MC-36A)を取り付けた例。
レンズは開放F値が小さい(明るい)方が良いですが、標準ズームでも写せます。できるだけ丈夫な三脚にしっかり取り付け、エレベーターはなるべく低くしましょう。

構図、フレーミング

彗星のみかけの大きさと使用するレンズにもよりますが、ポイントは「地上の風景を入れるかどうか」です。地上の風景が魅力的な場合や、地上の風景との関係で彗星の大きさをイメージしてもらいたい場合は地上の風景を入れたほうが良く、彗星だけをしっかり見せたい場合は地上の風景を入れない方がすっきりします。

次の画像は、2013年3月に撮影したパンスターズ彗星(C/2011 L4)の作例です。

24-70mm f/2.8のレンズで焦点距離を26mmにして撮影。
ニコン D800+AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED(26mm、ISO 800、f/3.2、露出3秒)

1枚目と同じ条件で撮影し、彗星部分をトリミングしたもの。

70-200mm f/2.8のレンズで焦点距離を200mmにして撮影。
ニコン D800E+AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II(200mm、ISO 1000、f/2.8、露出1.3秒)

3枚目と同じ設定で、地上風景を入れて撮影したもの。

1枚目(焦点距離26mm)は彗星よりも上にある月も入れて星景写真として狙ったものです。彗星はかろうじて写っているものの、雲が邪魔していることもあって、拡大しないとほとんど確認できませんでした。2枚目は同じ条件で撮影した一連の画像の中からトリミングして、月を入れずに彗星を目立たせてみたもので、ようやく彗星が確認できるようになりました。3枚目と4枚目は焦点距離200mmで、彗星だけを拡大したり、天空に浮かぶ彗星の様子だけでなく地上の風景も入れてみたりしたものです。これらの画像から、どういう見せ方をしたいかによって、構図やフレーミングをその場で考えるのが楽しくなることがおわかりいただけるでしょう。

構図やフレーミングで画像の印象はずいぶん変わるので、撮影の際にはいろいろな撮り方をしてみてください。デジタルカメラの画素数はじゅうぶん大きいので、仕上げ時にトリミングすることもできます。撮影後に「もっと広い画角で撮っておけばよかった」ということにならないようにしておきましょう。

撮影設定

撮影モード

撮影モードは、被写体が暗いため絞り優先モードなどの自動露出(AE)は使用せず、マニュアルモード(M)を選択することをお勧めします。レンズの絞りやカメラのISO感度設定、露出時間を自分で決めて撮影するのは大変だと感じるかもしれませんが、試写後に画像を確認して満足する結果が得られていなければ設定を変えて撮り直せば良いので、難しく考える必要はありません。自分の意思で露出を制御できることを実感できるモードでもあります。

露出時間

カメラを三脚に固定して撮影する場合、長い露出時間をかけると暗い天体までとらえられますが、天体が日周運動で動くことによって線状に写ってしまいます。今回の紫金山・アトラス彗星の条件では、目安として「150÷焦点距離(mm)」秒以内の露出時間なら、彗星や周りの星をほぼ点像に撮影できるでしょう。たとえば焦点距離が50mmのレンズなら、3秒以内であれば流れない、ということです。撮影後に画像を拡大して確認し、もし流れが気になるようなら露出時間を短く、気にならなければもっと露出時間を長くしてみましょう。

レンズの絞り

基本は開放ですが、画面周辺などの画質が気になる場合は1段程度絞ると良いでしょう。NIKKOR Zレンズ、特にS-Lineシリーズは開放からの描写性能が優れていますから、一般的な目的においては安心して絞り開放に設定することができます。

ISO感度

空にまだ明るさが残っているときには、ファインダーや画像モニターに表示される露出インジケーターを見ながら、0〜-1段程度になるように設定するという方法があります。試写後の画像を見て、狙ったイメージになっていなければ調整しましょう。

空が暗くなってからの露出条件については、以下の表を参考にしてみてください。たとえば焦点距離が24mmのレンズなら、露出時間は先の計算式に従って6秒とし、絞りをf/2.8で撮影するならISO感度は10000に設定する、ということです。まずこの設定で試写してみて、画像の明るさや画質などの結果によってISO感度の設定値を変更し、本番の撮影に入りましょう。

天体が線状にならずに撮影できる設定(焦点距離と露出時間の関係)の例と、レンズのF値に応じたISO感度の例。最終的には試写の結果を見て調整しましょう。

その他の設定

ピント合わせ

オートフォーカスが機能する場合もありますが、ピントは手動で合わせるほうが確実なので、フォーカスモードを「マニュアル」にします。露出条件を設定した後、液晶画面に明るい星や遠くに見えるライトなどの点光源を入れて、その場所にフォーカスポイントを合わせます。次に+ボタンを押して画面を拡大し、レンズのフォーカスリングまたはコントロールリングを回して、最も光の像が小さくなるように調節してください。

いよいよ撮影

リモートコードなどを使用して撮影中にカメラがぶれないように気を付けながら、まず1枚撮影してみましょう。

試写の結果を見ながら、構図や露出条件が適切かどうかを判断し、必要なら設定を変更して本撮影に入ります。彗星の高度や空の明るさだけでなく、雲の有無や大気の透明度によって見え方はどんどん変化していきますので、何枚も撮影することをお勧めします。自分でタイミングを見計らって都度シャッターを切るのも良いですし、メモリーカードに余裕があればインターバルタイマー撮影や連続撮影という方法もあります。一定間隔で多くの枚数を撮影しておけば、最良のショットを選択して1枚の静止画作品に仕上げるだけでなく、タイムラプスムービーを作ることもできます。

2013年3月15日に撮影したパンスターズ彗星(C/2011 L4)。画面の中に月と彗星があれば綺麗と思い、撮り始めた構図。雲に邪魔されたり、期待したほど彗星が明るくなかったりしたものの、彗星が雲に隠れるまで撮り続けてタイムラプスムービーに仕上げました。
2013年3月15日 18時44分~49分 ニコン D800+AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED(26mm、ISO 800、f/3.2、露出 各コマ3秒)

紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)を、天体望遠鏡(焦点距離2500mm)を用いて連続撮影し、タイムラプスムービーに仕上げました。星の間を動いている様子がわかります。撮影時(2024年5月10日)はまだ太陽から遠い場所にあり10等級ほどの明るさでしたが、すでに尾が確認できます。太陽に近づいたときにどんな姿を見せくれるか、期待が高まります。

撮影後の画像処理

画質モード「RAW」で撮影したファイルは、ニコンから無償提供されているソフトウェア「NX Studio」を用いて開くことができます。このソフトで様々な補正や調整を行ったうえで、JPEGなど一般的な画像形式に変換し、SNSに公開したり印刷したりします。

具体的な手順については割愛しますが、以下のような情報を参考にしてみてください。

彗星の楽しみ

星座や星雲・星団といった天体は、季節の変化はあるものの何回も見ることができます。また、月や惑星も何回も見る機会があります。一方、なかなか見ることができないものとしては皆既日食や皆既月食などの天文現象がありますが、これらは何年も前から計算で見え方を予測することが可能です。

彗星もなかなか見ることができない特別な存在です。有名なハレー彗星などの周期彗星は数年から数十年ごとに太陽に近づくので人生で何回か見ることができますが、紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)は9月下旬に太陽に最接近した後は遠く飛び去ってしまうため、今回が最初で最後の観察チャンスです。似たような彗星が次にいつ現れるのかは予想も付きません。

彗星はそれぞれに個性があり、明るさの予想が難しいものも少なくありません。この難しさが面白いところでもあり、一喜一憂しながら変化を追ったり見守ったりするわけです。また、彗星は何と言っても尾を持った独特な形がたいへん印象的です。明るくなった彗星、長大な尾を伸ばした彗星は、とくに写真に記録しておきたいという衝動にかられるでしょう。

筆者(山野)はいろいろな天体に興味があり、特別に彗星ファンというわけではないのですが、天文ファン、天体写真ファンになった1970年ごろに見ることができたベネット彗星(C/1969 Y1)や、バースト(突然の増光)したことによって大きく形を変えたホームズ彗星(17P/Holmes)などは、偶然撮影するチャンスに恵まれたこともあって強く印象に残っています。

ベネット彗星(C/1969 Y1; Bennett)。明け方の空に大きな彗星が、肉眼でも見えたのが印象的でした。赤道儀にカメラを搭載して、懸命に星を追尾しながら撮影していた時代です。
1970年4月5日 4時25分 フィルムカメラ 55mm F1.7(f/2.8、露出数分)、フジカラーR100

ホームズ彗星(17P/Holmes)。バーストしたことで、頭部(コマと呼ばれる部分)が太陽の直径ほどにも広がりました。一般的なほうき星とは異なる姿を見せてくれたのが印象的でした。
2007年12月14日 天体望遠鏡(口径105mm 焦点距離670mm)、ニコン D3(ISO1600、露出240秒、2枚合成)

振り返ってみれば、注目される彗星の撮影をするたびに、撮影機材の進化や画像処理技術の進化によって、さらなる高画質での記録や新しい表現にチャレンジできていることに気が付きます。今回の紫金山・アトラス彗星がある程度明るくなってくれれば、これまでにない高画質の静止画が得られるだけでなく、より高精細なタイムラプスムービーも制作できるでしょう。また、リアルタイムで撮影する動画作品としても楽しいものができるかもしれません。そのような挑戦意欲を掻き立ててくれるということからも、綿密に計画を立てて撮影にチャレンジしたいものです。あとは期待通り、あるいは期待以上の、明るく大きい姿を見せてくれることを祈るばかりです。

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