宵の明星・金星の輝きが夕空で目立ちます。あまり高くはありませんが、火星や1等星レグルスと大接近する光景が楽しみです。宵空ではこと座やさそり座が見やすくなり、夏の訪れが感じられます。
星空写真
田原市 太平洋ロングビーチにて
このたび星空写真を隔月担当させていただくことになりました愛知県東三河在住の石橋直樹と申します。どうぞよろしくお願いします。第1回目は、薄明が始まる太平洋に昇る夏の天の川です。月齢26の逆三日月もかわいく昇ってきました。
2020年3月21日 4時46分
ニコン D810A+AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED(14mm、ISO 6400、露出15秒×8枚を合成、f/2.8)
撮影者:石橋 直樹
2日(金) | 下弦(夜半に東の空から昇り、明け方に南の空に見える。下弦~新月は夜空が暗く、星が見やすくなります) |
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3日(土) | このころ、夕方~宵に金星とプレセペ星団が大接近(「今月の星さがし」で解説) |
6日(火) | 未明~明け方、細い月とプレアデス星団が並ぶ |
7日(水) | 七夕(「今月の星さがし」で解説) 未明~明け方、細い月とアルデバランが接近 |
8日(木) | 明け方、細い月と水星が接近 |
10日(土) | 新月(下弦~新月は夜空が暗く、星が見やすくなります) |
12日(月) | 夕方~宵、細い月と金星、火星が接近(「今月の星さがし」で解説) |
13日(火) | このころ、夕方~宵に金星と火星が大接近(「今月の星さがし」で解説) 夕方~宵、細い月とレグルスが接近 |
17日(土) | 上弦(日没ごろに南の空に見え、夜半ごろ西の空に沈む) 夕方~深夜、月とスピカが並ぶ |
20日(火) | 夕方~翌21日未明、月とアンタレスが接近 |
22日(木) | このころ、夕方~宵に金星とレグルスが大接近(「今月の星さがし」で解説) |
24日(土) | 満月。次の満月は8月22日です 宵~翌25日明け方、月と土星が接近 |
30日(金) | このころ、夕方に火星とレグルスが大接近(「今月の星さがし」で解説) |
31日(土) | 下弦(夜半に東の空から昇り、明け方に南の空に見える。下弦~新月は夜空が暗く、星が見やすくなります) |
20日ごろまで、明け方の東北東の低空に見えます。
日の出30分前(東京で朝4時ごろ)の高度は上旬には約9度で、比較的見つけやすいでしょう。とはいえ、目印になるような天体が近くにないので、スマートフォンのアプリなどで位置をよく確かめて、見晴らしの良いところで探してみましょう。中旬から下旬には5度ほどまで低くなりますが、空気が澄んでいれば見つけられるかもしれません。早起きした日には探してみてください。
8日に月齢27の細い月と接近して見えます。この日は月を目印に、月の下に並ぶ水星を見つけてみましょう。
「宵の明星」として、夕方から宵の早い時間帯に西北西の空に見えます。
日の入り30分後(東京で夕方19時30分ごろ)の高度は約12度で、先月までと同様に低いままですが、とても明るいため、建物などの陰になっていなければ肉眼でも簡単に見つかります。さらに30分後には約7度まで高度が下がりますが、空が暗くなるので金星の輝きの印象は強くなります。背景の空とのコントラストが楽しめそうです。
上旬に「かに座」のプレセペ星団と大接近、中旬に火星と大接近し12日には月齢2の細い月も接近、下旬に「しし座」のレグルスと大接近と、今月の金星は大忙しです。「今月の星さがし」を参考に、できるだけ多く観察してみてください。
「かに座」から「しし座」へと移っていきます。日の入り1時間後(東京で夜20時ごろ)の高度は9度(上旬)から3度(下旬)と低く、金星ほど明るくもないのであまり目立ちませんが、その金星と中旬に大接近する光景は見ものです。
12日には月齢2の細い月も加わった3天体の集合も起こります。月や金星に比べるとかなり控えめな見え方ですが、見逃さないように注意深く観察してみましょう。
「みずがめ座」にあります。21時ごろに昇ってきて、0時ごろに南東の空、2時ごろに南の空に見えます。明るさは約マイナス2.7等級でよく目立ちます。木星の右には土星も見えます。
比較的早い時間に昇り、あまり夜更かしをしなくても観察できるようになってきました。天体望遠鏡で縞模様や4つのガリレオ衛星を観察しましょう。条件が良ければガリレオ衛星は双眼鏡でも見えるので、お持ちの方はぜひ木星に向けてみてください。
「やぎ座」にあります。20時ごろに昇ってきて、1時ごろに南の空に見えます。明るさは約0.3等級です。土星の左のほうに見える木星よりは暗いものの、「夏の大三角」を構成する星々と同じくらいの明るさなので、肉眼でも楽に見つけられます。
木星と同様、比較的早い時間に昇るおかげで、観察しやすくなってきました。天体望遠鏡で環を眺めてみましょう。
24日の宵から25日の明け方、月齢15の丸い月と接近して見えます。この様子は肉眼や双眼鏡でもじゅうぶん楽しめるので、晴れていたらぜひ月と土星の共演を見上げてみてください。
宵の明星の金星が、1か月かけて4つの天体に接近していきます。日ごとに相手の天体や並び方が変わる様子を楽しみましょう。
夕方、西の空に輝く明るい星は、宵の明星の金星です。非常に明るいので位置さえわかれば日の入り後すぐでも見つけられますが、日の入りから30分ほど過ぎて空が暗くなり始めたころ以降が見やすいでしょう。あまり遅くなると金星が低くなって少し見つけづらくなるので、1時間後くらい(東京で20時ごろ、大阪で20時30分ごろ)までがチャンスです。空の色や明るさの変化にも注目してみてください。
今月、金星は次々に他の天体との共演を見せます。並ぶ様子、位置が変わる様子を追いかけてみましょう。
まず最初は、「かに座」の中央付近に広がる星の集団「プレセペ星団」への接近です。最接近は3日ごろです。明るさが残る空の中ではプレセペ星団の星々は見づらいので、双眼鏡で観察するのがおすすめです。金星に双眼鏡を向け、その周囲に暗めの星が群れている光景を眺めてみてください。プレセペ星団には先月下旬に火星が接近していましたが、今回はその火星よりもずっと明るい金星が近づくので、見え方の印象はかなり違うでしょう。
続いて5日ごろから金星と火星が近づき、双眼鏡の同一視野内に入るようになります。金星も火星も惑星なので、地球からは背景の星々に対して動いていくように見えますが、今の時期、金星と火星は見かけ上同じ方向に動いており、金星のほうが見かけの動きが大きいので、私たちから見ると金星が火星に近づき追い越していくような光景になります。金星が火星に追いつく、つまり最接近するのは13日ごろで、天体望遠鏡の狭い視野内でも同時に見えるほどの大接近になります(実際には低空かつ火星が小さいので、望遠鏡での観察には適していません)。
金星と火星は22日ごろまで双眼鏡で同時に見えます。並び方の変化を追いかけるのも面白いでしょう。途中の12日(金星と火星の最接近前日)には月齢2の細い月も近づき、3天体の共演が見られます。地球の衛星、地球の1つ内側の惑星、1つ外側の惑星が並んで見えるわけですね。眺めるだけでなく、地上風景を入れた写真撮影もおすすめです。
中旬以降、金星は火星との間隔を広げていく一方で「しし座」のレグルスへと近づいていきます。レグルスは1等星ですが、低いので肉眼では見つけにくいかもしれません。金星を頼りにして位置を確かめ、これも双眼鏡で観察すると良いでしょう。最接近は22日ごろで、前後数日間は双眼鏡の同一視野に見えます。また、火星も後を追うようにしてレグルスに近づいていき、30日ごろに最接近しますが、とても低いうえに火星が約2等級と暗めなので、注意深く探してみましょう。
このように今月の金星は、順番に様々な天体を紹介していくナビゲーターのような活躍ぶりです。月以外の共演相手はあまり明るくないので、金星のおかげで見つけられ、引き立てられているともいえるかもしれません。宵の明星の輝きを中心とした夕空の接近現象を、ぜひ長期にわたってお楽しみください。
7月7日は七夕。秋のお月見とともに、日本で古くから人々に親しまれている天文行事です。七夕伝説では一年に一度この日だけ、「織り姫星(織女星:しょくじょせい)」と「彦星(牽牛星:けんぎゅうせい)」が川を渡って会うことを許されていますが、伝説に登場する「織り姫星」は「こと座」のベガ、「彦星」は「わし座」のアルタイルという星です。
ベガとアルタイルは「夏の大三角」と呼ばれる星の並びを形作っています。七夕のころ、夜21時ごろに東の空に見える3つの明るい星のうち、一番高く一番明るいのがベガ、ベガから右下に離れたところにあるのがアルタイルです。ベガの左下にあるもう一つの星は「はくちょう座」の1等星デネブで、この3つの星で夏の大三角です。3つとも1等星なので、街中からでも見つけられるでしょう。
日付や時刻が変わると3つの星の高さや位置関係が異なって見えることがあります。「3つのうち一番明るいのがベガ、ベガから遠く2番目に明るいのがアルタイル、ベガに近く一番暗いのがデネブ」と覚えるとわかりやすいでしょう。
この夏の大三角を通り抜けるように天の川が流れています。七夕伝説では、織り姫星と彦星は川の反対岸にいることになっていますが、実際の空でもベガとアルタイルの間に天の川が流れているというわけです。街明かりや月明かりがない条件がそろえば、天の川も見えるでしょう。
多くの地域では7月7日は梅雨の真っ最中なので、当夜は晴れていないかもしれませんが、織り姫星と彦星は七夕以外の日にも見えます。晴れた夜には空を見上げ、2つの星や夏の大三角を探してみてください。なお、旧暦に基づいた「伝統的七夕」(日付は毎年変わり、今年は8月14日)のころには梅雨が明けて晴れることが多いので、織り姫星と彦星がさらに見つけやすくなります。
夜21時ごろ、南の空の低いところに赤っぽい1等星アンタレスが輝いています。アンタレスは「さそり座」の星ですが、そのさそりを踏みつけるように「さそり座」の上に大きく広がっているのが「へびつかい座」です。
「へびつかい座」は大きな将棋の駒のような五角形に星が並んでいます。五角形の一番高いところにあるラスアルハゲと、アンタレスに近いところにあるサビクの2つが2等星で、比較的見つけやすいでしょう。
ところで、「蛇遣い」ということは当然「へび」も近くにいます。「へび座」は「へびつかい座」の右左に伸びる星座で、右(西)が頭、左(東)が尾とされています。全天88星座の中で唯一、領域が分断されているという珍しい星座です。それほど目立ちませんが、「へびつかい座」の五角形から伸びる星の列をたどってみましょう。
「へびつかい座」のモデルとなっているのは神話に登場する医者のアスクレーピオスとされています。蛇の脱皮が再生や成長を思わせることから、蛇は医術の象徴とされており、蛇やアスクレーピオスの杖は医療機関のシンボルマークなどに使われています。
「へびつかい座」には多くの球状星団があります。球状星団とは数十万個の星がボール状に集まっている天体で、一見しただけではどれも同じように思えますが、大きさや星の集中度、形などにそれぞれ個性があります。
星図には「へびつかい座」の五角形の中央あたりにあるM10(Mはカタログの符号)と、「へび座」の頭側にあるM5の位置や拡大画像を掲載しています。この写真のような姿を見たり撮ったりするには性能の良い天体望遠鏡などが必要ですが、丸くボンヤリとした姿を見るだけなら双眼鏡でもじゅうぶん楽しめます。より詳しい星図で位置を確かめて、ぜひ探し出してみてください。
「へび座」の尾側にあるM16には「わし星雲」という愛称があり、天体写真では鳥が翼を広げたような形に見えます。その正体は、宇宙空間にあるガスが星の光を受けて光っているものです。
このような星雲ではガスを材料として新しい星が作られています。学術的な観点でも興味深い天体であり、とくに1995年にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された星雲中心部の構造「創造の柱」の画像が有名です。全体像から創造の柱まで、ぜひ事典やインターネットでご覧ください。
夜遅く帰ってくる人のため、ちょっと夜更かしの人のため、真夜中の星空をご案内しましょう。
図は7月中旬の深夜1時ごろの星空です。8月中旬の深夜23時ごろ、9月中旬の夜21時ごろにも、この星空と同じ星の配置になります(惑星は少し動きます/月が見えることもあります)。
南の空に並ぶ木星と土星の輝きが目を引きます。一般的に惑星は恒星に比べてまたたきが小さいので、落ち着いた光り方に見えるでしょう。またたきが小さいのは、点光源である恒星と異なり惑星にはわずかながら見かけ上の面積がある(面積があると像の揺らぎを感じにくい)ためです。
恒星のほうで目立つのは、頭の真上あたりに広がる「夏の大三角」を形作る3つの1等星です。「今月の星さがし」でご紹介した「こと座」のベガと「わし座」のアルタイル、それに「はくちょう座」のデネブの3星は、どれも白っぽい色で輝いています。木星・土星と色や明るさ、またたきぐあいの違いを確かめてみましょう。また、1等星を目印にして、それぞれの星座の星もたどってみてください。
夏の大三角のあたりには天の川が流れています。双眼鏡で眺めれば、街中でも意外と多くの星が見え、天の川が星の集まりであることを実感できます。梅雨の中休みや梅雨明け直後に、ぜひお楽しみください。
季節の星座や天体の動きを観察する星空観察。実は、ちょっとした知識や下準備で、得られる楽しさが大きく変わります。ここでは、流星の見つけ方や星座の探し方、場所選びや便利なグッズなど、星空観察をよりいっそう楽しむためのポイントをご紹介します。