フォトジャーナリズムからウェディングフォトグラフィーへの転身
写真家として生計を立てるようになってから30年になりますが、ありとあらゆるテーマを撮影してきました。1981年、小さな新聞社でフォトジャーナリストとしてキャリアをスタートさせ、2年間経験を積んだあと、フィラデルフィア・インクワイアラー紙で15年間フォトジャーナリストを務めました。その間担当した撮影は6000件。1997年に退社し、ウェディングの撮影を始め、これまでに800組のカップルを撮影。アメリカン・フォト・マガジン誌選定によるベストウェディングフォトグラファーの10名に選ばれています。
静的なウェディング写真から物語性のある写真へ:中判カメラから35ミリデジタルSLRへ機材の変化
ウェディング写真はこの2~30年で大きく変化しました。以前は静的な撮影が主流でした。いつも同じスタイルで撮るというのが相場で、大きな木の背後から新郎新婦がカメラを見つめているだとか、あずまやに佇む新郎新婦といったような設定です。撮影機材が中判カメラから35ミリカメラに変わり、フォトジャーナリズム的なテイストがウェディングに持ち込まれるに連れて、演出を抑えた自然な表情の写真が求められるようになりました。写真で場面を物語ること、つまり瞬間を切り取ることが重視されるようになったのです。フォトジャーナリスト出身の私にとって瞬間の切り取りは何より大切です。現在ウェディング写真では何が求められていると思いますか?被写体が表す感情、家族との関係、ウェディング写真の表現はどのように変わってきたのでしょう。現在のウェディング写真は、新郎新婦の愛情表現をテーマにするもの、母と娘の関係を扱うもの、新郎とその家族を描くものなど、結婚式の一日を通して飾り気のない感情を自然に撮影する、それが最も大切な部分を占めています。ウェディングフォトグラファーの仕事は、結婚式の一日を芸術的に解釈し表現することが大きな位置を占めています。家族の集合写真、新郎新婦の全身像、カメラを見つめる新婦などの昔からのスタイルは健在ですが、現在では芸術性により重きが置かれています。
独自のスタイルの確立
私の写真が他の人とどう違うのかを説明するには、私の撮影スタイルが独特だということをお話ししなければなりません。他に相応しい言葉が見当たらないのですが、私が身に付けたテクニック、つまり光とレンズとカメラの独特な使い方が違いを生み出しているのだと思います。光を操作して質感や奥行きや雰囲気を作り、ドラマチックな写真にします。画になる瞬間を捉え、さらに美しい光を加えることで魅力を増すのです。フォトジャーナリストの勘と光を美しく使う能力を組み合わせて写真を撮るのが私のスタイルです。勿論、機材を良く理解することが全てのベースとなります。技術的な要素が身体の一部と言える程度にまで身に付いていることが前提です。そうでなければ、人をハッとさせるような写真は撮れません。技術のベースがあって、創造性が生きるのです。二つが組み合わさって初めて優れた写真が生まれます。
ウェディング写真と高画素カメラ
メインの機材はD3Sです。これから何が自分のメイン機材になるかは、まだ分かりませんが、D800を使ってみて、その画質に文字通り衝撃を受けました。ファイルのクオリティーには心底驚きました。その画質、鮮鋭感、解像度はどれもこれまでに見たことがないくらい素晴らしい。どれだけ大きく引き伸ばしても鮮鋭感を失うことがない画質で撮影できる訳です。一日のなかではポートレートを撮影する場面があるので、そんな場面では必ず使いたいカメラです。
かつてウェディングが主に中判カメラで撮影されていたころ、35ミリカメラが少しずつウェディング業界に入ってきたことを覚えています。中判のクオリティーは今もその頃も勿論素晴らしいものでしたが、35ミリは手早く撮影できるなど中判では得られない利点がありました。D800であれば、もはや何に妥協することも必要なくなります。ウェディングをこのカメラ1台で撮影すれば、初めから終わりまで全て中判カメラの画質で撮影することも可能です。個人的には、私はD3Sをメインで使い、ポートレートなどの撮影でD800を使いたいと思います。高解像度が何にも代え難い場面は様々にあるので、中判を使っていた頃のことを思い出しますが、このカメラなら撮影の手早さやISO感度性能でも妥協がありません。以前は35ミリを使っている写真家は見下される場合がありました。でもこのカメラならどうでしょう。35ミリタイプでありながら中判の画質なのです。
今までずっとやりたいと思いながら十分時間がとれずにいたのがポートレート撮影をサイドビジネスとして始めることだったのですが、このカメラはうってつけです。中判の画質を持つ35ミリカメラを自由に使うことができるようになりました。かつて中判カメラが果たしていた役割をD800が果たすようになるでしょう。
このカメラを使うことで、撮影の準備に何らかの変更が起こるかというと、答えはノーです。私の仕事の流れ、そして私の仕事の仕方に難なく取り入れることができます。どうやって使えばよいのかを考える必要もありません。D800が必要なときには、すぐにピンと来る。そのくらいプロにとって自然に使えるカメラなのです。
プロフィール
クリフ・モートナーは30年を越すキャリアを持ち、アメリカン・フォト誌からウェディングフォトグラファーとして世界のトップ10の一人に選出された。キャリアの最初の17年間をフォトジャーナリストとしてフィラデルフィア・インクワイアラー紙で活躍し、その間に6000件の撮影を手掛ける。ウェディングの撮影はこれまでに800件を越す。独自の視点と技術を活かしたカップルの最も大切な日を記録する彼の作品はWPPIグランプリなど各種の著名な賞を獲得している。