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vol.20 さまざまなシーンから検証する、Nikon D4Sの実力。

3. ハイライト部に豊かな階調。

ヌケが良く、粘り強いハイライト部。

作例Eの写真は、何を試したものなのでしょうか?

■作例E

写真:作例
AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G
1/160秒 ISO100
メインのモデルに対し、背景に僅かな階調を残す露出バランスで撮影。背景の階調の状態はほぼ同じだが、このときD4Sの露出はf/6.3、D4はf/8。
写真:作例
モデルの描写を比較しても、D4Sは明るくクリアな印象。

写真:作例

写真:作例

■作例F

写真:作例
作例Eを顔に寄ってトリミングしたもの。D4Sはマゼンタにシフトしない自然な肌色を実現。

これはD4とD4Sの「ポートレート」モードで、背景を「白とばし」にしてモデルを浮き立たせるライティングでテストしたものです。被写体は背景も含め白や淡いピンクのドレスなど、ハイライト側に偏った情報で構成される画です。デジタルカメラにとっては厳しい絵柄ですが、ハイライト域の階調描写を観察するには絶好の被写体です。ライティングはメインのモデルに対し、背景は完全に「白とばし」にせず、僅かな階調を残す露出バランスにしています。
テスト結果は、それぞれ適正露出が異なる結果になりました。D4Sの適正露出はf/6.3。一方D4はf/8になりました。この結果から想像されるのは、D4SはD4よりハイライト域に足の長い階調に優れたトーンカーブを持っていると思われることです。また、同時にハイライト域に属する淡い色合いにも不自然な色かぶりはなく、気持ちの良いヌケとしっかりとした色で描写される画を出力しています。このようなことから、両機に備わる同じ「ポートレート」モードでも、撮像素子と画像処理エンジンが刷新されたことで、スタジオワークのライティングをいい意味で多少メリハリのある照明バランスに調整すれば、「JPEG撮ってだし」で対応できる人物撮影が可能になると思われます。

肌の色も違いますね。

作例Fを見ていただくとわかりやすいと思いますが、やはりD4は黄色みが目立ちます。
これまでは、顔を明るくヌケの良い画像にしようと露出やコントラストを上げると顔に黄色みが浮いてくるので、特にコントラストを上げられない状況でした。ですから黄色みが浮いてこない程度に明るさを抑えて撮影し、RAW画像から色相を変えイメージに合った肌色を作っていたのが現状です。
D4Sはスタジオで適正なライティングで照明し、ピクチャーコントロールを「ポートレート」にすれば、健康的で好感の持てる肌色で撮影することができます。あまりにも美しい肌色に描写されるD4Sの画像に疑問が生じ、あれこれ画像補正ソフトで色相やコントラスト、明るさ、カラーバランスなどを細かに調整してみましたが、結局、最適値は無調整の「ポートレート」モードでした。これには、かなり感動しました。

写真:作例

人物撮影に最適なおすすめレンズ。

こちらの撮影では、レンズは何を使っているのですか?

AF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gです。特に人物を撮るには最適です。
シンプルなレンズ構成とナノクリスタルコート採用で、光の透過率が優れています。ボケもきれいですし、ジャンルを超えていろいろな方が絶賛するだけのことはありますね。D4Sと最高の組み合わせだと思います。これほど気持ちの良いレンズは、今まで体験したことがありません。そのくらいシビレます。
またはAF-S NIKKOR 24mm f/1.4G EDなども良いですね。広角ズームレンズとは全く違う画が撮れます。開放近くの絞り値で撮影すれば、望遠レンズのようなボケと広角独特の遠近感が絶妙なバランスを見せ、写欲を刺激します。

写真:作例
Nikon D4S
AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G
f/6.3 1/160秒 ISO100
向上した先鋭感により、トリミングしても十分使用可能。

写真:作例

暗部の色分解能に優れた新センサー。

商品撮影は試されましたか?

料理の撮影をしました。
作例GはRAW撮影した未調整のものです。例えばナスの部分を拡大してみますと、この時点ではかなりアンダー気味と言えます。ナスのシャドー部の明るさは4~15前後になっています。画像調整では、ここをターゲットに補正しますが、このシャドー部の色分解能が悪ければ望む明るさに補正することはできません。
ところがD4Sは、極端なノイズもなく適切な明るさにすることが可能でした(作例H)。これができるかできないかは、コマーシャル写真を撮る上で非常に大きなポイントになります。一般的に暗部の階調を重視した撮影では、センサーが大きくダイナミックレンジの広い中判カメラを使うことになりますが、そのレベルにD4Sが一歩近づいたと思います。これもむやみに画素数を上げず、撮像素子の基本性能を地道に向上させた賜だと思います。

■作例G

写真:作例
Nikon D4S
PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D
f/13 1/125秒 ISO100

■作例H

写真:作例
作例Gを適正な明るさに補正。
ノイズや色の破綻もなく、自然な描写となった。

写真:作例

写真:作例

4. 充実した実用的機能。

正確な色を再現するための機能。

D4Sで気になった機能はありますか?

「スポットホワイトバランス」は便利だと思いました。
カメラをプリセットマニュアル取得モードにし、マルチセレクターでフレーム内にある無彩色のものを指定すると、そこを基準にホワイトバランスが取れるという機能です。フレームの中に無彩色のものがなければ、撮影するものの付近にグレーカードなどを置いても良いでしょう。
この機能をうまく活用すれば、例えば舞台撮影する際に無彩色の衣装をターゲットに、この機能を使いホワイトバランスを取得する方法が考えられます。もちろん商品撮影ではグレーカードですね。
「モニターのカラーカスタマイズ」も良いですね。
この機能は、カメラのモニターをキャリブレーションされたPCモニターの色に近づけることを想定したものと考えております。
撮影現場ではカメラの背面液晶で撮影したものの確認を取ることがありますが、より撮影画像に近似する色が出ていれば、クライアントに「仕上がりもこのような色です」とある程度自信を持って言うことができます。もちろん自分も、自信を持って撮影に臨むことができます。
注意したいのは、この機能はこれまで使用していたカメラのモニターの色に合わせるためのものではないということ。あくまでも、正しく色調整されたPCモニターに合わせてください。「JPEG撮ってだし」を目指すのであれば、ぜひ利用すべきですね。

「スポットホワイトバランス」を使い、グレーカードをターゲットにホワイトバランスを調整。
調整後画面。
液晶モニターのカラーカスタマイズ設定画面。

クイック調整のススメ。

その他、使っていて気づいたことはありますか?

ピクチャーコントロールの中の、特に「スタンダード」の結果がD4とは大きく変わっていました。私の印象として、コントラストがついたメリハリのある画が撮れるようです。もしかすると、コントラストが少し強いように感じる方もいるかもしれません。撮影したものによっては、そのまま印刷に回すとコントラストがきつい仕上がりになるかもしれませんね。
もし「スタンダード」のコントラストが強いと感じた方は、手動で設定値を編集することが可能です。
例えば、ピクチャーコントロールの「スタンダード」から「クイック調整」で「輪郭強調」を1つ下げる。「コントラスト」を1つ下げる。さらに「明るさ」を1つ上げるなどの調整をしてみてください。自然なコントラストになると思います。この「クイック調整」機能を使っている方はあまり多くないかもしれませんが、被写体や環境、ご自分の感覚に合わせて調整をカスタマイズしておくと、ムダな画像調整を省くことができます。
「クイック調整」に限らず、デジタルカメラにはいろいろな調整機能がありますが、プロでも意外とデフォルトのまま使っていらっしゃる方が多い気がします。より良い写真を撮るためには、最新の機種は何ができて、これまでとどういった点が違うのか。さらに自分が求める結果を得るためには設定をどうすべきか、といったことを理解しておいた方が良いのではないでしょうか。

■ピクチャーコントロールの中の「スタンダード」の結果

写真:作例
AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED
f/8 1/4秒 ISO100
D4Sの画像は、D4よりメリハリを感じる描写になっている。
写真:作例
左の作例写真の文字部分に寄ってトリミングしたもの。文字の描写を見ると、より鮮鋭感が増していることがわかる。

写真:作例

写真:作例
ピクチャーコントロールの「クイック調整」画面。

5. より撮影に集中できるカメラ。

メジャーバージョンアップに匹敵する性能。

今後、改善してほしい点などありますか?

私たちはダイナミックレンジにこだわっています。
D4Sで「スタンダード」の階調が変化しましたが、今後は、さらにハイライト側に階調が豊になること望みたいです。
現在のカメラは、真っ黒と真っ白付近で表現できる調子はある程度決まっていて、あまり引き伸ばせないようです。これがもう一段でも伸ばせると、白飛びや黒つぶれが起こりにくく、より見た目に近い階調配分で撮影できると思います。

最後にあらためて、D4Sの総評をお願いします。

D4までは、確実にシャッターチャンスを捉えてくれてはいたものの、肌色が、いまひとつという印象でした。D4Sはここが大きく刷新され、フラッグシップ機の「シャッターチャンスを逃さない」という優位性と、「肌色がきれいに撮れる」という大きなポイントが、初めてマッチングしたと感じています。これは、D4のマイナーバージョンアップと言うよりも、機種名のナンバーが変わるメジャーバージョンアップに近い変化と言えるかもしれません。
今までD4を使い、クオリティの高い仕事をしようと思ったら、RAW現像は必須でした。プロの写真家は1日で何千カット撮ることもありますね。その都度RAW現像するのは、大変な労力になります。ときとして撮影時間よりRAW現像時間が長いという逆転現象すら起こりますから…。D4Sならその手間を大幅に抑えることができます。その点だけを考えても、D4Sを購入する価値はあるでしょう。
おそらく今後もフラッグシップ機の更新は繰り返されていくと思います。そのような状況でも、常に最新機種を使うことは自らの仕事への意欲の表れだと思います。D4Sをフルに使いクオリティある仕事をする。機材へのこだわりは忘れてはならないと思います。

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