フィールドからスタジオまで。撮影写真に見る新フラッグシップ機の確かな進化。
D4の登場より2年。ついに新フラッグシップ機 D4Sが発売となりました。その名称や外観を見て「D4をマイナーチェンジしたカメラ」と想像された方は、少なくないかもしれません。しかし実際に本機で撮影を行ったフォトグラファーからは、「予想を上回る完成度」といった称賛の声が寄せられています。
今回は、すでにD4Sを使われている三浦健司氏と奥井隆史氏、2名のフォトグラファーにインタビュー。三浦氏には、イベント会場やスタジオ撮影におけるAWB(オートホワイトバランス)性能、高感度性能などを中心に。奥井氏には、スポーツ撮影におけるAF性能を中心に。新たなプロフェッショナル機の実力について、それぞれ異なるシーンで検証していただいた結果を伺いました。
1. 見た目の印象を表現してくれるAWB性能。
「撮影だけに集中できる」理想のカメラに近づいた。
D4Sの印象はいかがでしたか?
なによりもAWBの性能が向上していると感じました。
これまで長くニコンのカメラを使ってきましたが、ずっと肌色の色合いが気になっていました。ですが今回D4SをAWBで撮影してみて、その肌色がずいぶんと美しくなっていることに驚かされました。
私がデジタルカメラに期待しているのは、当たり前のようですが、AWBで「空が青く写る」「健康的な肌色が出る」「白が白に写る」といった基本的なことです。この基本性能がしっかりしていれば、フォトグラファーは撮影により多くの神経を使うことができ、シャッターチャンスを逃さずにすみます。まさに、D4Sは「撮影だけに集中できる」カメラにかなり近づいたと思います。これこそフォトグラファーもメーカーも、双方が求めていたことではないでしょうか。
この変化の要因として、撮像素子の刷新、さらに画像処理エンジンが「EXPEED 4」になったことなどがあげられると思います。通常これほどの改変は、例えば「D3」から「D4」へというように、カメラのナンバーが変わるときに行われるものと思っていたので、ニコンがこのカメラにかける情熱を感じますね。また、色だけでなく全体的なコントラストや先鋭感も大きく向上しており、これまでの画とは様変わりしています。
作例Aの写真はどのような比較をしたものですか?
色温度の低い光源下で行われたライブシーンをD4とD4Sで撮り比べたものです。いずれもAWBで撮影していますが、その差は一目瞭然です。照明の色温度はおそらく3000K以下ですから、多少アンバー色が強く出るのは、むしろ自然かもしれません。しかし、コマーシャルや雑誌などで使われる場合、実際の照明が電球色の色だったとしても、ある程度被写体本来の色が出ていてほしいわけです。D4のAWBもかなり赤みを抑えていますが、D4Sと比べると違いは明白です。仮にクライアントに「実際の照明はこのような色でした」とD4で撮影した方の写真を納品しても、納得してもらえることはまずないでしょう。
ウエディングフォトでも、やはり違いが出ていますね。
ウエディングドレスは、白く写ってこそ新婦が輝きます。これがAWBで実現できなければウエディングフォトは成立しません。しかしD4までのAWBではそれが難しく、会場の照明に合わせて色温度を調整しながらRAW撮影していました。なぜなら、式典や披露宴会場は場所により外光の入り方と室内照明が微妙なバランスで変わるため、これまでのAWBでは適切な色合いに調整されないケースが、ままあったからです。このようなことから従来機では常にカメラのWB設定に気を配らねばなりませんでした。
例えば作例Bのように白いドレスがメインになる場合、ドレスが本来の白さで写ってほしいわけです。しかし従来機では、黄色みの強い写真になっています。
一方D4Sはそのような破綻がなく、実に「こう写ってほしい白」にAWBで適切な補正がなされています。絶妙なのはドレスの白さを十分感じさせつつも、その場の照明の色合いも若干残し、見たままの印象通りに補正されていることです。このテスト撮影では、従来機との差に頭がクラクラしました。
そしてすぐに脳裏に浮かんだのは、「もうウエディングフォトでRAW撮影はしないだろう。AWBのJPEG撮影で十分」という考えでした。ブライダルの他にも、イベント撮影などでも同様の威力を発揮するので、D4SのAWBは大きな戦力になると思います。
■作例B:ウエディングパーティーをAWBで撮影
自然で健康的な肌色を再現。
その他の環境光でのAWBの性能は、いかがでしたか?
さまざまな環境光下で試し撮りをしましたが、やはりどれも良くなっています。これまでニコンのカメラに見られていた肌の黄色みが抜け、好感の持てる肌色になりました。ニコンは色の再現性に優れていると言われていますが、一般的に写真として求められるのはこのような自然な肌色でしょう。
作例は自然光、日陰、室内灯、スピードライトとのミックス光、夜景など、さまざまなシチュエーションでテスト撮影したものです。D4Sの画像はいずれも明るくヌケが良く、肌の色は健康的で好感の持てる自然な色が出ています。
これまで、雑誌やWeb媒体などで行う人物撮影は、事前のテストなどできるわけもなく、現実はRAW撮影後、ホワイトバランスを整える作業をしていました。これからはさまざまな環境光下でもD4SのAWBを頼りにすることになりそうです。
■さまざまなシチュエーションでテスト撮影(AWB スタンダードモード)
比較画像を見てもわかるように、D4SのAWBはどのような環境光下でも、モデルの肌や衣装をオリジナルに近い色合いに極力近づけようと努力している様が見てとれます。使えるAWBとは、まさに「これだ」と思います。
AWBはデジタルカメラであることの利点を大きく感じるところです。今後ニコンのカメラは、更なるブラッシュアップがされるでしょうから期待が膨らみますね。
2. 暗所でも滑らかな肌の質感。
ノイズを抑えながら細部はシャープ。
高感度性能も向上しているようですね。
ISO12800でありながら、とてもきれいな写真が撮れます。 D4で人を撮る感度設定は、肌のざらつきを抑えるためISO4000、最大に上げてもISO6400くらいまで。ISO12800は選択肢に入りませんでした。しかしD4Sは、ISO12800でも滑らかな肌のまま写すことができます。例えば作例Cのように新婦を後方から撮影した写真は、あまりに暗く、これまでは諦めて最初から狙わないようなカットですが、D4Sであれば撮影が可能になるのです。
作例Dの写真もずいぶん暗い状況のようですが、ディテールがしっかり出ていますね。
この写真はノイズリダクションを「弱め」に設定して撮影しています。D4Sは「標準」でもかなりしっかりとノイズリダクションがかかるので、逆に鮮鋭感も失われかねない。そこでこのような暗所ではありますが、設定を「弱め」にしました。もちろん「弱め」は「標準」に比べノイズが出やすくなるものの、大きく引き伸ばさなければノイズも目立たず非常にシャープな画が得られます。この写真もビーズや刺繍までしっかりと描写できています。今まで見る事のできなかった画です。
最近は特にドラマチックなイメージフォトが好まれる傾向にありますが、D4Sなら積極的にイメージ重視の撮り方ができるでしょう。
レンズのポテンシャルを引き出す高感度性能。
高感度性能が上がると、使えるレンズも変わるのではないですか?
はい、もちろん変わってきます。
例えばブライダル撮影では、限られたポジションから寄ったり引いたりする必要があります。また、それに合わせレンズ交換も必要になりますが、できればそれはしたくない。なぜなら、シャッターチャンスを逃すからです。
そのようなとき便利なのが28-300mmの11倍ズームレンズですが、F値が3.5-5.6と、ブライダル撮影には少し暗いという難点がありました。
そこで、これまでは2台のD4に、f/2.8通しの24-70mmと70-200mmをつけて対応せざるを得ませんでした。少し広めの式場の場合、300mmもほしいところです。
しかし2台のカメラを持ったまま丸1日撮影を続けるのは体力的に厳しく、疲れは写真の質の低下にも繋がります。
ところが、D4SがISO12800でも十分使える画像を出力できる性能を有したことで、28-300mmの有用性が大きく変わりました。撮影感度を上げられれば、このレンズ1本で迅速な撮影が可能になるのです。