明るく安定した描写力の、標準ズームと広角単焦点レンズ。
実際に使われたレンズが並んでいますが、仕事で使われるのは望遠レンズが基本ですよね。
そうですね。野鳥や航空機撮影の世界では、500mmが「標準」レンズで800mmが「望遠」、それ以下は「広角」といった感覚です。
ただ、飛行機と一緒に風景を撮影することも多いので、24-70mm f/2.8といったレンズも持ち歩いています。周辺部までかっちり解像しますし、周辺光量もさほど落ちません。メインの被写体と周囲の状況を一緒に撮影する時などに使っていますが、全域で安心して使用できます。
こちらは28mm f/1.8ですね。
私はフィルム時代、単焦点が好きで28mmも多用していました。ですから慣れ親しんだ画角ではあります。このようなレンズで撮った写真がきっかけでプロになったわけですから、原点と言えるかもしれません。
これは西表島に行った時の写真です。野鳥を撮影するにしても、鳥だけ撮っていれば良いということはありません。その鳥は何を食べているのか、それが木の実であればどのような場所に生えているのか。一羽の鳥が生きるために何が必要なのかを見る人に伝えるためには、バックグラウンドを写した写真も必要なのです。
ここではD800Eに付けて撮影しています。隅々までクリアで、きちんと解像された写真になりました。ズームレンズは便利なのですが、単焦点のようなヌケの良さには及びません。単焦点の潔さと言いますか、これ一本で勝負するといった本気度がたまらないですね。
この写真に使われたレンズはなんですか?
85mm f/1.4Gを使いました。今ニコンのレンズラインアップの中では、一番明るいシリーズですよね。このようなシーンでは、やはり明るさが最大のポイントです。
この伊丹空港は、滑走路の端から一般の道路までの距離が非常に近いんです。昔からこのようなイメージで撮りたいと思っていました。ただ明るさが足りなかったため、少し前までの機材では写らなかったんですね。いくら感度を上げても、しっかりと機体を描写することはできなかったのです。ところがD3SやD4と85mm f/1.4の組み合わせによって、このようなカットも現実になりました。
普段はD800Eがメインなのですが、この写真では飛び抜けて優れた高感度性能を持つD4を使っています。ISO12800、シャッター速度は1/125で撮影しました。これ以下になりますと、もう機体は止まらないですね。
シャッターチャンスはわずかですから、あらかじめこの設定で滑走路上に見えるPAPI(4つの赤い灯り。適正な進入角度かを知らせる表示灯)にピントを合わせ、飛ばされそうな風圧に耐えながら狙いを定めて撮っています。
機動力を持った70-200mm、生まれ変わった80-400mm。
70-200mm f/4のレンズなども、よく使われるのでは?
そうですね。実はf/2.8のレンズも持っているのですが、これが少々重い。重量のある500mmをメインで使うものですから、ロケに出かける際、他の荷物はできるだけ軽くしたいんですね。それでいて画質は落としたくない。そのような理由で、同系統のf/4のレンズを切望していました。
f/2.8の重さが1540gなのに対し、f/4は850g。海外に行く時や山に登る時など、これは大きな差です。
ボケの描写を必要とする人は、f/2.8の方が良いかもしれません。でも風景などを絞って撮る場合は、f/4でも支障ないと思います。
それから設計が新しい分、キレ味も違います。f/2.8は中心部の描写は良いのですが、周辺光量は若干落ちます。それがf/4ではほとんどありません。私はf/4のフラットな感じが好きです。
VR(手ブレ補正)※の効きも非常に良くなりました。公称では約5段の効きとなっていますね。実際に使ってみたところ、4段くらいまでは安定して止められたように感じました。十分素晴らしいと思います。
※「VR(手ブレ補正)」についてはこちらをご覧下さい。
こちらのレンズは80-400mm f/4.5-5.6ですね。待ち望んでいた方も多いと聞きます。
12年ぶりのリニューアルですからね。
超望遠レンズとして単焦点の500mmはもちろん良いのですが、一般のユーザーには高価。その点このクラスのズームレンズは、比較的手の届く価格帯ということもあり、飛行機や野鳥などを撮る人にとってスタンダードなレンズとなっています。しかしどのメーカーも設計が古く、画質やフォーカスの速さなどに問題がありました。特にテレ側はキレが無く、周辺減光が大きい。不満を感じながら使っていた人も多いようです。
ところがこの新しいレンズは、テレ側も含め全域で非常にキレが良い。ニコンの本気が見えます。
私がこのクラスを使い始めた当時は、その描写力から400mm f/5.6という単焦点のレンズに人気がありました。今ではこのようなズームレンズでも、キレの良い撮影が行えます。
またこのクラスのズームだと、通常片ボケが起こりがちです。機首にはピントが合っていても、尾翼がボケているなど…。でもこの画では、そのようなことは全くありませんよね。
様々な状況で高パフォーマンスを発揮する500mm。
そして、メインの望遠レンズとして使っていらっしゃる500mm f/4ですね。
これは千歳基地。極寒の状況でした。飛行機にカメラを向けたものの、ライトが非常に強くて、ファインダーでは飛行機を確認することができない状況です。そこで翼の付け根の赤いライトを目印に構図を決めて、シャッターを押しました。D4との組み合わせで撮ったのですが、このようなケースでもピントが合い、しかもゴーストも無く描写できています。やはり特別なカメラとレンズであることを実感しました。
この鳥はどちらで撮られましたか?
これは、先程の西表島で撮ったカンムリワシです。
多くの場合、木にとまっている野鳥を見つけても、うかつに近づくことはできません。非常に警戒心が強いので、近づこうとしていることがわかれば、すぐに逃げられてしまいます。そのため、極力その場で画角を決めなければならない。
これはD800Eの1.2xクロップで撮っています。ボタン一つでサッと画角が変えられます。テレコンバーターを使うより早いですし、画質の低下も少ない。500mmで撮っていますけれど、画角的には600mmです。
D7100のカタログ写真も、この500mmで撮影されたのですよね。
そうですね。カタログ用にセッティングして撮りました。見下ろして撮れるような、高さ数十mの崖のある海岸でロケーションしています。ただしこの機体はアクロバット機のため、燃料が30分ほどしか持ちません。飛行場から近い場所を選びましたが、現地では15分ほどしか撮影できない状況でした。
事前にパイロットと打ち合わせて、何パターンか撮影。その中でカメラやレンズの描写力と、DXの切り取り感が伝わるカットを選びました。
見ると、本当に隅々までシャープに写っていますね。
リベット一つ一つが立体感を持って描写されていますでしょう。他にも、機体に映っている海面の波の様子やパイロットの肩のワッペンまで、しっかり写しだされています。
ただし正直な話をしますと、DXフォーマットの2400万画素というのは高精細で撮影できる反面ブレにはシビアで、特にこのように高速で動くものは被写体ブレも起こりやすい。若干厳しい条件下での撮影でした。
最初は1/1000や1/2000のシャッタースピードで撮影。とりあえず最低限問題のないカットが押さえられたため、最後にチャレンジして1/500に落としてみました。そして撮れたのがこのカットです。
決して簡単な撮影ではなかったのですね。
ニコンが想定しているD7100のユーザーで、このような画を撮ろうとされる方はあまり多くはないと思いますが、実際に撮影できるポテンシャルは持っているということですね。
今回の企画は、ニコンやカタログのデザイナーさんと話しながら進めたのですが、イメージを具現化するために、何処で撮影し、どのような飛行を行ってもらうかなどは、私が考えました。その点で、一時的に就職した航空写真会社での経験が活きましたね。
おっしゃるように容易でない状況もありましたが、限られた時間の中できちんと結果が出せる、信頼できるレンズとカメラです。
最近はフルサイズがもてはやされていますが、本当に皆がフルサイズを必要としているかというと、必ずしもそうではないと考えます。私のようにDXフォーマットの方が使いやすいという人も多いはず。むしろ私としては、DXにもっと力を入れて欲しいと思っています。