小型のボディに最新性能を凝縮。フルサイズの魅力をより多くのユーザーへ。
かつて「FXフォーマット」といえば、ニコン最上位機種の代名詞。それをD7000並のコンパクトボディに搭載し、さらにD4、D800譲りの高性能をバランス良く凝縮したハイ・コストパフォーマンスの最新カメラ、それがD600です。
そんな本機の完成度に、「ニコンは新しいカメラの作り方に成功した」と語るのは、フォトグラファーの阿部秀之氏。長年のニコンユーザーであり、カメラグランプリ選考委員として幅広い視点でカメラを見続けてきた阿部氏に、本機の特長や性能をはじめ、近年のデジタルカメラ開発の現状、ニコンの新たなカメラ作りの方向性などについてお話をうかがいました。
同時に、プロから一般ユーザーまで手軽にD600を楽しめる、おすすめのレンズについても紹介いただいています。
さまざまな角度からカメラに関わる日々。
阿部さんというと、さまざまな執筆活動やCP+でのトークイベント等を精力的にこなしながら、国内外問わず飛び回っていらっしゃる印象があります。
旅行に行くのが、なにより好きなんです。写真より好きかもしれません(笑)。フォトグラファーの仕事としては、ヨーロッパを中心に世界各地に出かけ、行く先々で主に風景などを撮影しています。
また私は、感光材料学といってフィルムに関する研究がもともと専門であったこと、さらにレンズの会社に就職していたこともあり、技術的な面も多少わかることから、カメラ、レンズ、プリンターなどのメーカーから仕事の依頼を受けることが多いですね。
中でも、新製品のプロダクトの評価は得意です。実際にそのカメラを使うユーザーの立場になって、気持ちよく、楽しく使うための提案のようなことも、メディアやイベントなどを通じて積極的に行なっています。
今年は個展もされましたね。
今回の個展の作品は、フィルムで撮ってみました。
最近カメラはほとんどデジタルですよね。しばらく前まではフィルムとデジタルでは仕上がりにかなり差があったものの、今ではその差は随分と縮まったように思います。さらにデジタルカメラの、すぐに写真を見られるという特性は、仕事では大きなアドバンテージですし…。
ただ気持ちの部分では、旅先で撮った写真を帰国して現像し、あらためて見る時の感慨のようなものはフィルムならではと感じています。
現在ニコンのフィルムカメラはF6とFM10だけになってしまいましたが、これまでのフィルム文化の上に今の我々がいるのだということを忘れたくはないですね。どんなジャンルでも、根っこを忘れると腐ってしまいます。それにF6の完成度は今使ってみても感動しますし。
子供の頃から縁のあったニコン。
カメラを始めたのはいつ頃ですか?
父親が建築会社を経営していたので、いつも家には現場の記録写真を撮るためのカメラがたくさんありました。父親もよく私に写真を教えてくれたものです。そんなわけで、子供の頃から写真を楽しめる環境にあったんですね。
もっとも、この道に進もうと思ったのは随分後のこと。進路を決める段階で、親に将来はフォトグラファーになりたいと言ったら反対もされましたし。
そこで化学が好きだったこともあり、東京工芸大学で化学を専攻しました。でもやはりつまらなくて、2年目からは写真学科に転科してもらい結局写真の道に進んでしまったのですが(笑)。
ニコンを使い始めたのはいつですか?
実は子供の頃、隣に住んでいた方がニコンに勤めていたので、「Nikon」というメーカーには昔から思い入れがあったのです。
ところが中学生の時、親に一眼レフを買ってもらう段になって実際に選んだのは別のメーカーで…(笑)。それからしばらくはそのメーカーのユーザーでした。もっともある時、サポート上の問題からさらに別のメーカーに変更。その後オートフォーカスに惹かれF-801に触れてからは、ずっとニコンを使っています。
仕事での本格的な付き合いは、『Nikon Nice Shot』からでしょうか。かつて、カメラを購入されたお客様に配布していたこの本。この本に掲載する写真の撮影と原稿の執筆という依頼がきっかけでした。
以降このような本の仕事を何度か受けたのですが、一度憧れの奈良原一高先生の写真と私の写真が同じ本に掲載され、大変感動したことも…。その本は、今でも私の宝物なんです。
D600に見る、新しいカメラ作りの形。
今回のD600。また新たなFXフォーマット機の登場ということですが、阿部さんはどのように感じましたか?
ニコンは新しいカメラの作り方に成功しましたね。D4のようなフラッグシップ機の技術をベースにミドルクラスのカメラを製作する場合、昔は機能を切り取ってスペックダウンして作っていたわけです。ですからミドルクラス機は「最高のものから少し見劣りするカメラ」、そんな印象になりがちでした。
でも、もうニコンはそのようなカメラの作り方はしていません。
例えば、D4よりもD800の方が画素数は多い。D600もD800と比べると、D600の方が連写コマ数は多いわけです。
でも「視野率」といった大事な点は、それぞれ「100%」で共通です。
要するにニコンは、価格が安いカメラだからといって単純にスペックダウンさせるのではなく、時に高いカメラより良い性能や独自の魅力を持たせた開発をし、それぞれに個性あるバランスの良い商品ラインアップを生み出しているということです。
技術は日進月歩で変わっているのに、先に出た上位機種を意識してスペックダウンしていては、最先端のカメラは作れませんよね。
単なる価格によるクラス分けではなくて、特長による区別化ができたのではないでしょうか。
例えば「D4ユーザーで頻繁にロケに行く人の場合、サブ機としてもう一台D4を持っていくのではなく、同じFXフォーマットでありながらずっと軽量のD600を携帯する」、あるいは「秒4コマでは少し不安というD800ユーザーが、秒5.5コマのD600を持つ」というように、カメラごとの特長を活かした、自分に最適な組み合わせでカメラを持つことが可能になったわけです。ニコンは基本的に操作系が統一されているので、他機種でも比較的スムーズに使えるからいいですよね。
そういった統一性も含め、ニコンは全体的にカメラの作り方が良くなっていると感じています。
例えばFXフォーマットはまだ敷居が高いと感じていた、D7000といったDXフォーマットカメラのユーザーでも、スムーズに移行できそうですね。
現在ニコンのDXフォーマットのミドルクラスはD7000ですが、D7000の操作系はニコンの新しいカメラシリーズのベースとなっているようですから、D7000を使うことができれば最近のカメラはひと通り使えるのではないでしょうか。
D600は大きさがD7000とほぼ同じで、D800に比べると高さが約10mm低くなります。それだけで随分コンパクトになった印象です。さらに重さはD800より150グラム軽い。終日ロケの場合、150グラムのステーキを肩にのせて一日歩くことを考えると、この差は意外と大きいんじゃないですか(笑)。
実際に1ヶ月も旅行先で使い続けていると、D800よりD600の方が楽に使えるかも、なんて思えてきたり…。
インターフェイスもD7000にかなり近い。一つ違うのは同軸2段配置のダイヤルの上の部分にロックボタンがついたこと。ダイヤルのズレなどを意識せずに使えるようになりました。操作部を集中させているという点では、このダイヤルでミラーアップや登録機能の呼び出しまでできるので、D7000以外のユーザーでもすぐに快適な操作が可能でしょう。
D4, D800/D800E, D600, D7000の筐体比較図
それにしても、D800から半年でまた新しいFXフォーマット機。少し驚きました。
小さく、軽く、手軽な価格のFXフォーマット機を求めるユーザーって、潜在的にとても多かったのではないかと思いますよ。
ニコンがDXフォーマットと謳っているものは、もともとAPSというカメラを小さくするために考案された規格ですよね。フィルム時代、このAPSの規格を推し進めようと思っていた時にデジタルカメラが登場してきたので、そのままデジタルカメラにもこの規格が採用されたのです。でも35mm判に馴染みがあり、この規格をスムーズに受け入れられなかったという人も少なからずいたのではないですか。
D800は大変売れたという話を聞きましたが、D600はもっと売れるように思いますよ(笑)。