「コンパクトさ」は強力な強み。
今回ご自身の活動にNikon 1を使われてみていかがでしたか。
Nikon 1に限った話ではないのですが、「サイズが小さい」「機材全体の量が減らせる」といった要素は、「高感度がきれい」「秒間何コマ」といった機能と同様に、非常に重要なカメラの要素だと以前から考えていました。
普段はスタジオ撮影中心という方や、常に車で撮影現場に移動する方は、なによりカメラのポテンシャルを重視することと思います。そのようなケースでは、おそらく僕もD3Sを選ぶでしょう。でも「1日1鉄!」を撮る時のように軽装で出かけたい場合は、必ずしもそうではない。つまり自分の中の最良の機材というのは、その場の状況によって常に変わるものなんですね。
その点で、撮りたい時にすぐに取り出せるNikon 1は、今回の「DREAM TRAIN」に携帯するにはベストチョイスでした。
逆にD3Sでは、「DREAM TRAIN」で目指している写真は撮れなかったかもしれません。
それはどういうことですか?
例えば今回の旅でいえば、鈍行列車で移動中の地元の方々に、仰々しく大きなカメラを向けたらその場の空気が変わってしまうでしょう?そこで生活している方々の雰囲気をできるだけありのまま写すには、スッと構えてサッと撮れる、そんなカメラが理想でした。
また、V1はメカシャッターの他にエレクトロニックシャッターを選択することができるので、ずっとシャッター音を消して撮っていました。電車内で常にシャッター音が鳴っていたら、やはり皆さん緊張しちゃいますよね。その場の雰囲気を壊さずに撮れるというのはありがたいです。
とはいえ、画質や機能が貧弱であれば使えませんよね。
もちろんそうです。その点においてもNikon 1は安心して使えました。
コンパクトながらも一眼レフに迫る画質。画像処理エンジンは新たに開発した「EXPEED3」を採用するなど、ハイエンドカメラにも搭載されていないニコンの最新技術が詰め込まれた、満足のいく仕上がりになっています。
まさに僕が待ち望んでいたタイプのカメラでしたよ。
操作性はいかがでしたか?
メインターゲットが一般ユーザーであることから、操作の簡易化を意識したのでしょう。ボタン類も少なく、表面上はシンプルなインターフェイスになっています。もちろんISOやホワイトバランス、アクティブD-ライティングなど、我々が撮影でよく使う設定も可能です。ただしメニューが若干深くなっているので、プロを含めた従来の一眼レフユーザーは、はじめは少し戸惑うかもしれません。
ただし露出やAFモードの変更は、ロータリーマルチセレクターで簡単に行えます。僕はAF-S、AF-C、MFをよく切り替えるので、これには重宝しました。
マニュアルでのピント合わせは、メニューからMFを選択すると拡大表示が出てくるので、ロータリーマルチセレクターを回して行います。
欲をいえば、やはりピントリングがあったほうが僕らプロにとっては良かったのですが、これもそれほど使い勝手は悪くないですよ。
操作に関しては慣れでしょうね。僕も10日ほど使ったら、瞬時に様々な設定を変えられるようになりました。
新センサーによる、高速撮影と高画質の両立。
今AFの話が出ましたが、特に中井さんのように高速で動くものを撮る方にとっては、AF性能も気になる点ではないかと思うのですが。
AFに関しては、コンパクトなボディで通常の一眼レフ並みの高速AFを実現するために、レンズ交換式カメラとしては世界で初めて「撮像面位相差AF」という技術を採用しているようです。測距点数も73点ありますし、ピント合わせはかなり軽快ですね。
AF-Cは、フォーカスポイントを合わせたいところに置いておけば、完全に追従します。こちらも従来の一眼レフとほとんど変わりません。動画に関しても、静止画と同様にAF-Cでピントを合わせ続けてくれます。
連写機能も充実しているようですね。
1秒間に最高60コマ相当のスピードで撮影ができます。
露出もAFも最初の一点で固定になるのですが、秒間60コマ相当はなかなか一眼レフでも切れないので、これは魅力的。
ただし60コマ相当のスピードで撮れるものの、一度の連続撮影枚数は30コマまでなので、結果、ほとんど「1枚きり」と同じになってしまうのがちょっと残念かな。押すタイミングが早いと、肝心なショットが撮れる前に終了してしまう。その点で機能を十分に活かすには、意外と操作の難易度が高いかもしれませんね。
ただしシャッターモードを「エレクトロニック(Hi)/10fps」にすれば、1秒間の撮影枚数は減りますが、撮影時間が長くなるので、こちらでも十分に連写を楽しむことができるはずです。
こういった連写の機能は、コンパクトデジカメでも採用されていますよね。
確かにそうですが、コンパクトデジカメの連写写真は画質的に満足のいくものではないでしょう?対してこのカメラは秒間60コマ相当のスピードで撮れるだけでなく、フル解像度で、しかもJPEGとRAWを同時に記録できるんです!
画質を犠牲にせず、手軽に高速撮影ができる。これは大きい。
高速撮影というと、先ほどエレクトロニックシャッターをお使いとの話がありましたが、撮った画に影響はありませんでしたか?
最初はメカシャッターじゃないと車窓から撮る電柱などは歪んでしまうのではないかと心配でした。でも実際は特に問題なし。新幹線の車窓から撮ってもきっちり撮れていましたよ。
それにしてもこんな小さなボディで、一つでもD3Sに勝つ機能が積まれているというのは気持ちいいですね(笑)。
画質についてはどうでしょう?今回、「CXフォーマット」というセンサーを新たに開発・搭載していますが、マイクロフォーサーズよりサイズが小さいようですね。今時のカメラとしては、画素数も決して多くないようですし…。
いや、1000万画素もあれば十分でしょう。D3Sだって1200万画素。画素数的には大して変わりません。
いたずらに画素数を増やしたがために、描写力が落ちて硬い印象の写真になるより良いですよ。むしろ、画質を優先するためによくぞ1000万画素に抑えたなと感心しています。
またセンサーが小さいカメラって、100%表示にするとぼやけてしまうこともありますが、それも全くありませんでした。
葉っぱを撮影してもモアレなどなく、拡大しても綺麗に出ていたので、これは思った以上に使えるなと感じました。
中井さんとして、個人的に気に入っている点などありますか?
旅の最中に撮影していると、どこで撮った写真かわからなくなることがありますよね。
V1のマルチアクセサリーポートは様々なアクセサリーに対応しているのですが、オプションのGPSユニットをつけると撮影場所が明確に記録されるので、特に移動しながらの撮影の時は助かります。
「DREAM TRAIN」終了後、旅をした経路が地図上に表示されるのを見るのが、とても楽しみです。
また、V1の電池は結構持ちますね。
一日1500枚くらい撮影し、動画も撮り、液晶も使っていたのに、撮影中に電池切れをほとんど起こしませんでした。念のため替えの電池を4個持っていったものの、結局撮影中に交換したのは1回だけ。さすがD7000と同じ電池だけあります。
ただしJ1の電池はコンパクトなため、V1ほど長時間撮影はできませんので、ヘビーユーザーは予備の電池が必要でしょうね。
それから、一眼レフにも搭載されているピクチャコントロール。
任意の色合いを設定・登録して、それをいつでもすぐに呼び出せるので、僕のように色合いに特定の好みがある方には便利でしょう。個人的には、設定に名前が付けられないのがちょっと残念ですが…。
よろしければ、気に入っている仕上がりの設定など教えていただけませんか?
では僕が「ゆる鉄モード」と呼んでいる設定を紹介しましょう。
【中井流・ゆる鉄モードの設定】
プロにもお薦めの動画機能。
Nikon 1では、動画も撮られましたか?
今回の旅はDVDも制作する予定でしたので、かなり動画も撮っていました。
マルチアクセサリーポートには、オプションのステレオマイクロホンをつけることもできます。動画を撮る際は、しっかり集音できるのでお薦めです。
例えばこのような動画。(作例A:下左端参照)
車輪の音やブレーキの音。フルHD動画とあいまって、ディーゼルの煙の匂いまでも感じられる気がしませんか?
ちなみに、この先のカーブで沈む太陽が現れることを想定して、かなりアンダーぎみに撮っています。
動画撮影の時も露出補正やピクチャコントロールを設定できますし、暗い場所では感度を自動的に上げてくれるので、動画でもイメージに近い画作りができるのではないでしょうか。
こんな動画が、撮影の最中に手軽に撮れるのはうれしいですね。
実は、動画を撮影しながらスチールも同時に撮れてしまうんです。この点もいいですよね。
動画を撮りながら、シャッターボタンを全押しすると動画撮影を止めずにスチールも撮れます。
写真を撮りながら動画を撮りたくなったり、逆に動画を撮りながらスチールでも押さえたくなるときって、よくありますよね。鉄道ファンって、カメラ3台にビデオ1台抱えて撮影に行ったりするんです。それが1台で撮れちゃう。これは大きいですよ。
例えばSLなんて、1日に1本しか来ないこともあるわけですから、ワンチャンスで動画もスチールも撮りたいということもあるでしょう。
これまでの一眼レフにも動画機能はついていましたが、これほどまでに使ったことは初めてですね。(作例B,C:下中央の2点参照)
スローモーション動画も面白そうですね。
270km/hで走ってくる新幹線をスローモーションで撮影してみたら、まるで徐行運転をしているように録れていましたよ。スローで撮ると荒れが目立つかと思いましたが、想像以上に高画質でしたね。
動画に関しては、縦位置で再生できるようになるとさらに良いのですが、それは今後に期待です。
プロのフォトグラファーで、動画に興味はあってもこれまではなかなか手が出せなかったという方も、この動画機能ならチャレンジしてみようという気になるかもしれませんね。