子どもを集中させる、「あやして撮る」技術。
名畑さんの写真の中の子どもたちは、一般の子どもとは思えない、自然で生き生きとした表情をしていますよね。てっきり、撮られ慣れている子どもばかりを集めているのかと…。
引き出していくんですよ、表情を。大人は言うことを聞いてくれるし、言葉で気分を乗せていくこともできます。でも子どもの場合は、本能的なのです。その習性を理解して、どうにしたらイメージ通りにしてくれるかを考え、仕向けていく必要があります。
とにかく主導権はこちらが取る。そのために、撮影現場にはカメラバッグ一杯のオモチャやお菓子を持っていきます。でも一度に全部を見せることはありません。子どもがぐずぐずしてきたら、チラッとお菓子を見せるわけです。私「これ欲しい?」、子ども「欲しい!」、私「じゃ、撮ったあとにあげるわ」と(笑)。
そこですぐにあげてしまうと終わり。気持ちが離れてしまいますから。言うことを聞いたら何かいいことがあるという気持ちにさせることがポイント。いろんなオモチャやお菓子を小出しにしながら、次は何が出てくるのかなと期待させて、集中力を切らせないようにするのです。
子どもって撮ろうとすると、わざと変な顔をしませんか?そんなときはどうしたら良いのでしょう?
それは「写真を撮る」ということを意識させるからですよ。私はいつも、できるだけ意識させないように気をつけて撮影しています。つねに子どもに対してオモチャなどを見せながら話しかけ、楽しませながらテンションを上げさせて撮っていきます。
それから撮るときは、通常はカメラを顔の前に構えて撮ると思いますが、実はこれがあまり良くない。特に赤ちゃんの場合、言葉が通じないので相手の目を見ようとします。でもカメラを構えると顔が隠れてしまう。だから笑ってくれないんです。
顔を見せて撮る。これが基本。とはいえ、カメラを顔の前できちんと構えて撮らないとブレますよね。そんなときはカメラを三脚で固定し、アングルを決めた上であやしながら撮るのです。さらに、なにもしないと子どもは勝手に動いてしまうので、できるだけ動かないようにいろいろと工夫をしています。例えば、椅子に座らせるとか。あるいは寝転がらせるとか、何かにつかまらせるとか。「動くから子どもが撮れない」ではなく、「どうしたら動き回らなくできるか」を考えるのです。言うことを聞かなくても「じっとして!」などと、きつい言葉をかけてはいけません。
野外での撮影のときは、どうしていらっしゃるんですか?
例えば、公園などに行くと、ちょっと大きな岩などが置いてあるじゃありませんか。小さな子どもだと自分では簡単に降りられないような。そういう場所に座らせるとかね。普通のベンチなどでもいいですね。大人向けに作られていますから、小さな子どもでは簡単に降りられません。そのような状態で、次々とオモチャを見せたり話しかけたりして、飽きさせないように撮影をします。
子どもの興味を引くようなオモチャやお菓子を集めてくるのも大変ですね。
子どもとコミュニケーションをとるために、最近流行の子ども番組はできるだけチェックするようにしています。だから、番組改編の時期は、新しいキャラクターの名前を覚えなければいけないので、大変です 。もっとも、キャラクターの名前を間違えたら間違えたで、良かったりもするのですが…。「それ、ちゃうよ!」なんて、喜々として突っこんでくる表情が、またいいんですよね(笑)。
逆に動き回っているときなどはどうでしょう?
公園で無邪気に遊んでいる子どもは可愛らしいですよね。でも子どもは無軌道に動き回りますから、そんな姿や表情を写真におさめるのは、特に子どもを撮り慣れていない方には難しいと思います。そこで私は、カメラに向かって笑顔で走って来てくれる撮り方を考えました。それは「宝探し」。指人形のように小さく、写りこんでもほとんど影響はないような人形を、隠したり投げたりするのです。
例えば子どもが複数いる場合、「誰が最初に見つけられるかな?」といったゲームを行います。これなら皆が一定の場所に向かって楽しそうに走ってくれますし、見つけたときには「見つけたよ。見て、見て!」という感じで笑顔でカメラに向かって帰ってきてくれます。
柔らかな肌の質感は、逆光での撮影が基本。
それから公園などで撮る場合、じっとしていない子どもを適正な露出で撮り続けることは難しいように思われます。子どもの表情を適正な明るさで写す良い方法はありますか?
この写真。天気は曇りだったんですよね。そんなときは木陰など少し暗い所へ行き、背景を日向にします。そこで子どもに露出合わせると背景はさらに明るくなり、晴れた日の写真のように見えます。
曇りの日に限らず、木陰での撮影はいいですよ。陰の中に影はないですから、柔らかい光になっていて、レフ板でキーになる光を作りやすくなりますし、木に登らせたり寄りかからせたりして、子どもの動きを止めることもできます。
日向で撮る場合、鼻筋などにはっきりとした影がでてしまうことがよくあります。そのようなケースは、スピードライトで影を消すなどしています。
部屋の中での撮影では、どんな点に気を使うとよいでしょう?
優しい印象の写真にするのであれば、レースのカーテン越しの自然光をメインの光源にします。多少曇りの日でもカーテンを開けずに感度上げて撮るんです。
トレーシングペーパーなどと違い、カーテンのひだの凹凸によって、立体的に光が部屋に取り込まれるので、柔らかな光になりますよ。
子どもの寝姿を撮るのであれば、仰向けに寝ている状態より、横向きの方が愛らしい印象になります。寝入った子どもは少しぐらい動かしても起きなかったりしますから、可能であれば横向きにして撮るといいですね。このときに明るい窓を背景にして撮るほうが幸せ感が出ます。子どもの顔は逆光で影になりますが、露出は顔の影の部分に合わせることで、ちょうどよい明るさになります。
「目からウロコ」のテクニック解説。
ところでこの写真は、どうやって撮っているんですか?
子どもと遊んでいるのは名畑さんですよね?
まず首からカメラを下げ、お腹のあたりにベルトでカメラを固定します。そのような状態で、子どもと一緒に回りながら撮影しました。もちろん手でシャッターは押せませんから、口でリモコンを操作しています。この撮り方はおもしろい画が撮れる上に、子どもも喜んでくれるので一石二鳥です。でも、これにも難点が…。3回ぐらいやると目が回って撮れなくなってしまうことと、撮影が終わっても子どもに「もっとやって」とせがまれることです(笑)。
この撮り方もご自身で考えたんですか?
そうです。ロケの合間にお父さんが、このように子どもと遊んでいたのを見て「これ、お腹からとったら面白いんじゃないか」と思いついたのです。
APA賞や「The Art of Photography Show」の奨励賞をとった「Battle of the Natsu-yasumi」にしてもそう。日々の観察の中からアイデアが生まれます。
普通に撮ると金魚は小さくしか写らないですよね。でも金魚も主体性を持たせて撮りたい。そこで、いろいろと考えました。
まずこの写真を撮るにあたっては、専用の水槽作りました。水槽の底のアクリル板の下にはD700を設置。横から光が入らないように黒い幕で覆っています。水槽の下に潜り込んで撮ってもよかったのですが、子どもに指示ができないので、パソコンとカメラを繋いで、「Camera Control Pro」でシャッターを切るようにしました。
このときのモデルの男の子も良かったですね。とても真剣な表情で。本当にこれから戦うぞといった雰囲気の写真になりました。(笑)
このような真剣な表情を正面から見るということは、通常ないでしょう。子どもは大人が見ていないところで、実に良い表情しているんですよね。
一緒に走りながら撮っている写真もありますね。
このようなケースでは、D3ではなく軽いD300SやD7000にDX広角ズームレンズの12-24mmをつけて撮ることが多いですね。基本的にノーファインダーです。
レンズフードにオモチャを付け、「このオモチャ、取ることができる?」と言って、カメラに向かって子どもが走ってくるように仕向けます。
このやり方は元気で楽しそうな写真が撮れるのですが、反面ノーファインダーは構図が決まりにくいという難点も…。そこでネットで調べ、海外メーカー製の、ファインダーに直接装着するCCDを購入しました。このCCD にケーブルで小型モニターを付けると、手元でファインダーの映像が見られるようになるのです。またこの小型モニターにはシャッターボタンもついていますから、かなり自由な角度で撮影することが可能です。
さらにその後、今度は眼鏡に直接装着できるファインダーを見つけ、より機動性が上がりました。ニコンにも、カメラ撮影に特化したヘッドマウントディスプレイを期待しているのですが、いかがでしょう?(笑)
これも、よくこんな笑顔が引き出せましたね。
子どもが上に向かって落ち葉を投げている写真ですね。それほど高くない脚立の上から撮っているのですが、12mmを使っている分、パースのついた迫力のある写真になっています。それよりも問題は、いかに子どもたちの生き生きとした表情を引き出すか。実はカメラのフードにキャラクターのカードをつけて「落ち葉でこのカードを落とした子にあげる」というゲームをしたんですね。夢中になって、何度も落ち葉を投げてくれました(笑)。単に「落ち葉を投げて」と言っただけでは子どもはすぐにやらなくなってしまいます。このように子どもが楽しい表情をしてくれる仕掛けを考えるのです。
この写真も面白いですね。
これは川魚のつかみ取りイベントをやっている場所へ行き、撮らせてもらったんです。
熱帯魚の水槽にD3Xをセッティングして、半水面の状況で撮影しました。水中撮影用のハウジングは高価ですが、安い水槽でも十分撮れます。
水中の部分は光の屈折率で水上より1.33倍大きく見えているので、水中と水上を同時に写すと、このように極端な遠近感がついた面白い写真になります。
こちらのソリの写真。スピードが出ているようですが、しっかりと顔にピントが合っていますね。
実はこれ、ソリを連結して、前のソリに私が後ろ向きに座り撮影しています。同じスピードで滑っているため、ピントも合いやすいのです。もっとも、そのままでは連結したロープが写ってしまいますので、それは画像処理で消しています。
楽しいから子どもは喜びますよ。いい表情してくれます。こちらは必至ですけれども(笑)。
このシーンは逆光でしたから、スピードライトを使用しています。もちろんニコンのSB-900です。昔のスピードライトは背景の露出、人物の露出と気を使わねばならなかったので、ひどく面倒でした。今はご覧のような撮影しにくい条件でも、カメラやスピードライトが適正な明るさにしてくれます。随分楽になりましたよ。
もちろん撮影の経験やテクニックは重要でしょうが、自然な笑顔を引き出すための様々な工夫が、名畑さん独自の子ども写真を生み出しているのですね。
私自身楽しみながら撮っていますから、その分撮影アイデアも出てくるのでしょう。一般のパパママも、もっと自由な発想でいろいろな撮り方にチャレンジすると、これまでにない我が子の表情を写真に収めることができると思います。
先ほどローアングル・ハイアングルの写真を見てもらいましたが、例えばニコンのD5100の液晶モニターは可動域の広いバリアングルなので、初心者の方でも意外な視点から面白い写真が撮れるのではないでしょうか。
私も少し使ってみましたが、軽いので女性が持つにもちょうどいい。
それにシーンモードも多彩ですしね。シーンに合わせて選ぶだけで、思った以上にイメージに近い写真が撮れました。カメラに不慣れな方でも、わずかな操作で良い画が撮れると思いますよ。