過酷な環境でも信頼がおけるニコンのカメラ。
写真をはじめられたのは、いつでしょう?
高校生の時ですね。高校では写真部だったんです。当時は主にモノクロ写真。自ら暗室で焼きながら、ギャラリーを借りて作品を発表する、などということもしていました。返還前の沖縄に出かけて、米軍基地の人なども撮ってみたり…。
そのような素地がありつつ、徐々に生物学の方へ傾倒してきました。もっとも、その間もカメラを触らない日はありませんでしたが…。
でも当時は、今のように写真で食べていくということを考えてはいませんでしたね。
最初からニコンをお使いでしたか。
最初は他社のカメラを使っていました。当時一番軽かったので、よく旅に出かけていた私にはちょうど良かったのです。アマチュアフォトグラファーには人気がありましたし…。ただしプロの間では、その頃からニコンの評価は高かったですよ。ちょうどベトナム戦争の時代。戦場の過酷な状況でも、ニコンのカメラだけは動いたということから、信用を集めていたようです。
ニコンには早い時期に切り替えたように思います。そこからメインはニコン。実は途中少し浮気した時期もありましたが(笑)、でも結局ニコンに戻ってきました。他社のカメラは軽かったものの、耐久性に不安を感じたんですね。
特に藤原さんは灼熱の地から極寒の地まで行かれるわけですから耐久性は重要ですが、そのような場所でもカメラは大丈夫ですか?
厳しい環境でも、ニコンのカメラは問題なく動いてくれますよ。信頼できます。
ただ問題は、カメラよりバッテリー。電池は寒さの厳しい場所だと、使用できる時間が極端に短くなるのです。
極寒の地でのバッテリー対策として、撮影時は予備のバッテリーを下着の中に入れています。肌で暖めておいて、カメラのバッテリーが切れ始めたら交換。このとき切れ始めたバッテリーは、やはり下着の中に入れます。寒い場所では電池が切れ始めたからといって、完全に消耗しているとは限りません。暖めるとまた復活したりします。そうやって何度か交換しながら、長時間だましだまし使っています。
それから寒い土地での撮影には、このような消音ケース(現在の消音ケースⅡ)を使っています。マイナス40度だろうが、指を出さないとカメラの操作はできませんよね。でもそのままだと間違いなく凍傷になります。だからこのようなカバーも必須アイテムです。
逆に暑い場所ではいかがですか?
暑い場所でも、それが原因でカメラの動作に問題が生じたことはありません。
ただし砂漠などの撮影時に、暑さでレンズのゴムが外れることがあります。レンズのボディとゴム部分の収縮率が違うからでしょう。できることなら、これは改善してもらえないかと…。でも極端な気候のところへ行くわけですから、ある程度は仕方がないと割り切ってはいますが…。
ポイントは、機動性とアクティブD-ライティング。
藤原さんが最近お使いのカメラは?
D7000などをメインに使っています。人気もあるようですし、実際良いカメラですね。
ちなみにD5000も気に入っていました。動物や昆虫を撮るためには、通常ではありえない角度から撮影をしなければならないことが多いのです。そんなときは液晶が自由な角度にかえられるD5000のバリアアングルがとても便利でした。今、生産は終了しているのかな?でも、また後続機が出ることを期待したいですね。
もちろん一般の方向けのカメラでしたから、画質面ではプロ用機にはかないませんが、決して使えないようなレベルの画ではありませんでしたよ。
プロの方が、一般向けの機種で撮影をされているのは意外でした。
後ろにあるゴミの山のペンギンの写真。これは随分前にD70で撮ったものです。D70といえば、6~7年ほど前のカメラですよね。かなり引き伸ばしたのにもかかわらず、それでもこのくらいのクオリティにはなります。このようなポスターだったら、全然問題ないでしょう。
確かに大きなプロ仕様のカメラは、機能性や丈夫さの面で大変信頼できますよね。超望遠で撮影する時などには、D3を三脚に据えて使ったりはしています。しかし私のような仕事の場合、いかにシャッターチャンスを逃さないかということが重要。じっくり構えて撮ることができないケースが多いのです。それからローアングルもとても多いので、カメラを地面に置いたり、場合によっては少し穴を掘ってカメラを設置する、などということもあります。そうなると、ボディはコンパクトの方が良いのです。
瞬間瞬間をとらえなければいけない藤原さんの場合は、機動性も重要ですね。
一般の方はプロというと、大きなレンズを構えて撮影するイメージがあるようですが、実際の現場ではそのようなことばかりでありません。
思いがけないモノが目の前に急に現れる。でも、その瞬間にシャッターを押すことができるわけではありませんよね。ほんのわずかな時間ではありますが、見て判断してシャッターを押すまでに、どうしても若干のタイムラグが発生します。そのため、重いカメラでは瞬間に反応できないこともあるのです。
それから、皆から意外だと言われるのは、一般の方がよく使っているような18-200mmのレンズ。実はこれが野生動物を撮るのに、とても役立っています。大変コンパクトですし、すぐに望遠に切り替えられます。それにニコンの場合、とりあえずきっちり収めることができれば、トリミングしても画質は大丈夫。
それに今は高感度撮影しても綺麗ですしね。フイルムの頃は増感すると荒れが激しく、ISO1600ともなれば写真として厳しいものがありました。でも今は3200で撮ってもほとんど荒れが気になりません。
藤原さんの場合、真昼でもジャングルの中のような暗い状況で撮影することも多いでしょうね。
それから、極端な明るさの違いがあるような場所では、また別の機能が役立っています。
例えば暗いジャングルの中、でも空は快晴だったりする場合がありますよね。そのような状況で、木から木へ鳥が移ろうとしているシーンを、空に抜いて撮ろうとする。普通、露出優先で鳥を撮れば、空は真っ白になってしまいます。
でも、空の色はばっちりでていますね。
このような写真は、スピードライトの調光補正などをすればある程度撮れるのですが、最近ではカメラのアクティブD-ライティング機能をよく活用しています。これはとてもいいですね!オンにしておけば、私が今までスピードライトの調整をしながら撮ったような写真が撮れてしまう。外の風景をまったくしらけさせず、ジャングルの中の人の顔もきっちりと色が出ます。技術の進化は凄まじいと実感しています。スイッチオンでこれほど効果があると、プロはいらなくなるんじゃないかという気さえして…(笑)。
もちろんアクティブD-ライティングだけでは、まだ私がこれまでスピードライトを使い表現してきたレベルには到達していないとは思います。でもスピードライトを使用しなければ、よりナチュラルな写真が撮れるわけですし…。素晴らしい機能だと思いますね。
魚眼レンズとマクロ機能だから表現できること。
お気に入りのレンズはありますか?
望遠レンズなども使ったりはします。ただ私個人としては、あまり好みではありません。遠くから被写体をアップして撮るような画は、比較的いろんなところで見られますよね。確かに、望遠レンズで撮った写真ならではの美しさもあります。きっちりピントのあった被写体に対し、背景は綺麗にボケてくれますし。
でも私は生き物目線というか、その生き物が見る世界はこういう風景なんじゃないかな、とイメージしながら撮る方がしっくりくるんですよ。
もともとは研究所では海の生き物を撮っていたわけですが、海中での写真は水の濁りもあるため、超広角もしくは魚眼レンズを使って被写体にかなり接近して撮るのが普通なんですね。そうすると周囲の状況がたくさん写って、なおかつ表情も豊かに撮れます。だから、ニコノスには随分お世話になりました。今製造していないのがとても残念。被写体に近づいて撮れ、さらに被写界深度も深い。絞り込めば失敗も少ないですし。この撮り方に慣れていましたから、陸を撮るようになってからも同じような撮り方をしている、ということもあります。
陸で被写体に近づいて撮る時、今はどのレンズをよくお使いですか?
このD7000につけている、10.5mmの魚眼(AF DX Fisheye-Nikkor 10.5mm f/2.8G ED)です。
私がニコンに非常に感謝したいのは、このレンズは魚眼でさらに近接撮影が可能なんですよね。この類のレンズは今までありませんでした。絞り込んで近づきさえすれば、生き物たちの豊かな表情も、その生き物が生きる環境も含めてかっちり撮ることができる。これを望遠で撮ってしまうと、顔しかピントのあわない、カタログのような写真になっていってしまいます。
でも自然の動物にここまで近づいて撮った写真なんて、あまり見かけませんね。どうやって撮影しているんですか?
普通、野生動物には近づけないじゃありませんか。だから、いろいろやり方を工夫しています。
このジャガーの写真、10cm程の距離から撮っています。実は、獣道に撮影用の覗き小屋を作り、中から撮りました。獣道にセットしておけば必ず通りますからね。それから今は、有線や無線のリモート撮影などもできるので、離れたところから隠れながら撮ることもやっています。
このガラパゴスフィンチなどは、ゴミ捨て場にビニールなどでプロテクトしたカメラ設置し、有線で20mほど離れて撮りました。目視で、カメラに近づいたところを連写しています。