特殊な環境にも対応する、静音撮影モード。
D3Sからは静音撮影モードがつきました。これも瀬戸さんのような方には、大変便利な機能ではないでしょうか?
実際に使ってみましたが、静音モードを使用した時と、そうでない時では、ずいぶんと違います。
ニコンの静音撮影モードの特長は、シャッターのタイムラグを無くすために最初ミラーが上がるまではちょっと音がするんです。ただ他のメーカーと違うのは、戻した時の音が極端に静かな点。
タイムラグを無くすのがなぜ重要かと言うと、シャッターを押すとミラーが上がるわけですが、その間はファインダーが見えなくなってしまいます。という事は、早くミラーアップしてくれないと、舞台上のダンサーの動きを追えなくなるという事ですよね。
他メーカーでより静かなカメラも有りますが、ミラーアップをスローにした結果、被写体が追えないのでは意味がありません。
その点D3Sは静音モードでも速いので、どんどん撮れるのです。
確かに戻りの音はずいぶん小さくなりますね。
一般的な撮影シーンでは、静音モードだけでも十分なケースがほとんどかと思います。ただし、劇場の客席レベルの撮影となると、これでもちょっと辛いのです。
そこで私は、カメラに消音ケースを着けて、さらにその上から消音用に自作した皮のコートを被って撮影しています。これなら5mも離れてしまえば、ほとんど音が聞こえません。
さらにNPSで販売している消音ケースを使っています。このケースもいまのところ一番いいんじゃないかな?縦位置を撮る時、ちょっと撮りにくいけど、操作性の不自由さはある程度は仕方ないかも知れません。ちゃんと、ファインダーも液晶も見られるように細かな配慮がされているのもいいですね。
その上で手作りの消音専用皮コートも被る。これだとほとんど音がしないでしょう。
少し重いし、メチャメチャ暑いけれど、お客さんに迷惑をかけず客席レベルから撮るために、私はここまでやっています。
最新のデジタル一眼レフの能力を引き出す、最新レンズ。
ところで今D3Sに装着しているのは、新しいレンズですか?
そう、これはAF-S NIKKOR 70-200mm F2.8G ED VR Ⅱの新しいレンズです。この前の型に比べ、飛躍的に改良されています。
この作例は、前のモデルで撮ったものです。周辺部が極端に暗いでしょう。このレンズはDXフォーマット時代に出たタイプなんですね。だからDXのカメラでは問題なく使用出来ていたんです。しかしFXフォーマットのカメラで使用すると、特に200mm側では明らかに周辺部に問題が生じていました。
ところがこの新しいレンズになってからは、見事なものです。もちろんディテールの描写力も格段に上がっていますしね。
発売前に使わせてもらい、その性能を実感しました。ですので、発売してすぐに2本も買ってしまいましたよ(笑)。
この描画力には、ナノクリスタルコートも寄与していますね。やはり解像力が違うので、私は今、ナノクリスタルコート採用のレンズしか買っていません。やっぱりデジタルカメラは、本体もさることながらレンズが重要。いくらボディが良くても、その性能を引き出せなければ意味がありませんから。
新しいテレコンバーター AF-S Teleconverter TC-20E Ⅲも試されたとの事ですが、普段テレコンを仕事でお使いになる事はありますか?
普段はあまり使う事はありません。でも今回新製品としてAF-S Teleconverter TC-20E Ⅲが発売になるという事で、先ほどのレンズと組み合わせて、ちょっと借りて使ってみたのですが、この性能には驚きました。
海外取材など十分に機材を持って行けない状況でも、高感度のD3Sと組み合わせれば舞台撮影でも使えるんじゃないでしょうか?海外取材ではアシスタントを連れて行くものの、機内への機材の持ち込みは大変。特に最近は手荷物のサイズチェックが厳しいですから、できるだけ荷物はコンパクトにしたいのです。
これは、このテレコンを使った写真です。比較的明るい舞台だったのでそれほど感度を上げなくても良かったのですが、シャッタースピード1/250のF5.6でこのくらいの写真が撮れてしまいます。
またシャープさも思ったより良かったのでビックリしました。ケラレも全然無いし。値段も据え置きでしょ?相当がんばったみたいですね。(笑)
もちろん組み合わせているレンズ自体の能力が高いという事もあるでしょうが、テレコンがその能力を阻害していないのがよく解ります。今まで私が使ったテレコンでは、周辺光量が足りずさらにヌメッとした感じになっていましたが、それが全く無い。黒い部分も締まっています。画像の解像力も、シャープさが全く失われていません。ズームでこれだけ撮れるんだから、単焦点ならなお有効でしょう。
私はこれまでテレコンで良い思いをした事がありませんが、私の知る限り、これはテレコンの画像ではない。あまりテレコンの性能を良くしちゃうと、望遠レンズが売れなくなって、ニコン困るんじゃない?(笑)
D3S、実践的機能活用法。
他にも様々なレンズをお持ちいただいていますが、撮影はどのような状況で行われているのでしょう?
撮影出来るブースの中は広くありませんし、また他の写真家と一緒に撮影する事もあります。 ですので、あまりスペースを取らずに済ませるため、大きなレンズ用に三脚を一本。他のカメラはツインプレートなどを利用して、セッティングしています。
400mmのレンズはずいぶんと重いでしょうから、これで激しい動きを追うのは大変ですね。
ですから安定して撮影出来る三脚を厳選しています。そして雲台も、ビデオ用の物を使用しています。スムーズに円運動出来るので、ダンサーを追うのに、カメラ専用の物より動かしやすいんですね。
ブースの中で撮る際、窓際に台がある時は、私は脚の短い三脚を台の上に置いて撮っています。この三脚はかなりコンパクトにして使えるので、重宝しています。ただ、そんな時、ちょっと不満に感じるのがこの400mmの三脚座の高さ。もっと短ければ状況に合わせてセッティングしやすいように思います。これは是非とも改善して欲しい点ですね。
それからもちろん、水平にも気を配っています。
まず、立てた三脚に水準器を当てて、レベルの調整から行います。水準器が付いている三脚もありますが、簡易的な物が多いので、私は別途用意しています。ダブルプレートを使う時もプレートの上に水準器をのせて、レベルを調整します。水平が確認出来たら、あとはカメラを置いてセットします。
これで通常は、安定して撮影出来ます。でもたまに縦位置などにすると、当然水平は崩れますよね。
そんな時のために、D3SのPv(プレビュー)ボタン設定を、カスタムメニューの「f5」で「水準器表示」に設定しています。Pvボタンを押すとファインダーの中に水準器インジケーターが表示され、簡単に水平が確認出来るわけです。
Pvボタンですぐに水準器が呼び出せるのはいいですね。Fnボタンに割り当てている機能はありますか?
アスペクト比の切り替えを割り当てています。
D3Sから1.2×の撮像範囲の撮影が可能になりましたが、これは結構重宝しています。
普段400mmのレンズをよく使っていますが、劇場によっては400mmでも足りない場合があります。人物が結構小さく見えるでしょう?
そんな時は1.2×のクロップを使います。これによりメインの被写体にぐっと寄る事ができますよね。画素数は800万画素になりますが、雑誌用の写真においてはほとんど問題ありません。
400mmで使えば、1.2倍で480mm相当になるわけですから、ちょうど使い勝手がいいんです。これ以上寄っても、狙った構図に被写体を納めるのが困難になりますし。それに480mmで絞りがF2.8で使えるというのが、嬉しいですね。
ちなみに私は、いくつかある比率の中から1.2×と4×5の2つのアスペクト比を設定。すぐに切り替えられるようにしています。
海外ではよくあるのですが、天井が高い劇場の場合、横長の比率だと上が切れてしまうので、そんな時などに4×5サイズを使っています。
このようによく使う機能をFnキーに割り当てていれば、ファインダーをのぞきながらほとんどの事はできてしまうので助かります。
昔はカメラに装着する水準器とペンライトが無ければ仕事が出来ませんでしたが、両方とも必要ではなくなりました。
ところで暗い場所で動きを追うとなると、気になるのが手ブレだと思いますが、手ブレ補正機能はお使いになっていますか?
もちろん使っていますよ。
特にこの新しい70-200mmでは、シャッタースピード4段相当の手ブレ軽減効果がある『VRⅡ』が搭載されています。ちょっとしたぶれや振動でもすぐにVRが起動するため、ほとんど手ブレはおこりません。
以前はVRを入れたまま長時間ファインダーを覗き込んでいると、気分が悪くなる時もありました。でもこのレンズではVRを入れっぱなし。フォーカスが速くなったので疲れが減少したのでしょう。