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第七十九夜 W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5

数々の名作を生んだレンズ。風景写真の定番レンズ
W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5

第七十九夜は第七十七夜に引き続きレンジファインダー用ニッコールのお話です。今も昔も風景、スナップ写真には28mmの画角74°の使い勝手は良いものです。今夜は数々の名作を生んだレンズ、写真家の定番愛用レンズの秘密を解き明かしましょう。それはどんなレンズなのでしょう。開発にはどんな秘話が隠されているのでしょう。そして設計者は。さぁ今夜も詳しく掘り下げていきましょう。

佐藤治夫

広角化の歴史

近代写真レンズはトリプレットの発明から発展したと言っても過言ではないのです。トリプレットの最大の特徴は、良くも悪くも中央の強いパワーの凹レンズにあります。この凹レンズの収差補正の役割は大きく、大口径化の大きな要因になりました。しかし、その悪しき十字架というべきか、この両凹レンズの存在が大画角化に歯止めをかけてしまいます。そこで改良が加えられてたくさんの派生レンズタイプが生まれます。凸凹凸は凸凹(絞り)凹凸に変化しトポゴンが生まれます。また一方では違うアプローチでクラークが生まれ、クラークを経てガウスタイプが発明されます。ガウスタイプもトポゴンタイプも絞りを挟んだ凹レンズをまとめて1つと考えることで基本的には凸凹凸のトリプレットと同じパワー配置・パワー構造と考えられるのです。実はこの考え方は日本発祥の考え方です。「すべての対称型対物レンズのパワー配置はトリプレットに通ずる」そう考えられていました。たとえば、凹凸凹(凹凸凸凹)のビオゴンタイプでさえトリプレットの別解と考えられるのです。広角化の戦いは、トリプレットの中央の凹レンズをどう変形させるか、にかかっていたと言っても過言ではありません。若き日の私はこの考え方に深く共感し、何でもトリプレット構造で考えるようになっていました。いわばこの考え方の信者でした。そう、あるレンズタイプと出会うまでは。

不思議なオルソメター

ところが、私はここで不思議なレンズタイプに出会います。それがオルソメタータイプでした。このレンズも初めは凹凸凸凹(負正正負)だろうと思っていました。ところがこのレンズタイプで構成されたいろいろなレンズを研究すると、4群6枚構成の前後の大きな接合レンズのパワーは凹でも凸でも解があることが分かりました。しかも、ほぼノーパワーでも良い。ということは凸凸凸凸でも良いと言う事になる。これでは「トリプレット構造とは言えない。なぜだ!」私は悩みました。実はニコンにはオルソメタータイプの製品が山ほどあるのです。大判ニッコール、アポニッコール、エルニッコール…。まさに先人たちはオルソメタータイプを熟知していたのです。そこで私は片っ端から調べました。すると、絞りを挟んだ凸と思っていたレンズが、凹のパワーを持った接合レンズになった解まである。これはどう考えればよいのだろうか。私自身では答えにたどり着けず、とある大家に相談しました。すると「佐藤さんは何でもトリプレット構造で考えている。そこに落とし穴がある。合成凸の中には凹レンズが必ず入っている。順番に収差補正をしていると考えれば凸凸でも収差は補正できるんだよ。」私は目から鱗が落ちました。確かにトリプレットが発明される前までは、ドッペルアナスチグマートのように3枚、4枚のレンズを接合し、レンズブロックで収差補正をしていました。オルソメタータイプはその延長線上にあると考えれば収差補正方法が理解できる。私は大家にお礼を言って、すがすがしい気持ちで帰路についたのです。

開発履歴と設計者

それでは開発履歴を見ていきましょう。目立つ事を嫌う日本の名設計者は、一般に知られる事がありませんが、その足跡は数々のパテントと報告書によって省みる事が出来ます。光学設計報告書提出は1952(昭和27)年1月にレコードされていました。しかし設計を開始した時期は不明です。量産図面は1952年1月に出図されています。出図は量産が1952年に始まったことを意味します。当時の習慣として設計完了してすぐに報告書を書くのではなく、落ち着いてから図面と同時に出すことが多かったと聞いています。また、この頃の量産図の扱いは今と若干異なっていました。量産オーダーは設計ができたときに発令し、そのオーダーの中で試作して量産性と性能を確認する。そして成績優秀なものだけが量産され発売される。従って、量産オーダーが出ても量産されず中止され、発売されないレンズもあったことを意味します。このレンズもしかり。試作を経て量産途中で光学系が変更されています。初めはF4でした。しかし同年3月にはF3.5に改良されています。量産オーダーがでていましたから、もしかするとごく少数だけ2.8cmF4が生産されていたのかもしれません。しかし発売されたものは2.8cmF3.5でした。F4はすべて廃棄されたのだと思います。それではなぜF3.5に口径を上げたのでしょうか。またF3.5に口径を広げるのにはどんな工夫があったのでしょうか。少し考察してみましょう。

W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5の発売は1952年9月です。ちょうどその1年前、他社からセレナー2.8cmF3.5が発売になっています。おそらくニッコールは当初F4で計画していたところ、セレナー2.8cmF3.5の登場で、急遽F3.5にする改良設計が行われたのではないかと思います。しかし、そんなにたやすく大口径化ができるものでしょうか。私はF4とF3.5の設計データを比較検証しました。その結果、近軸のみならず、三次収差領域まで非常に素直で無理のない設計になっていることがわかりました。設計値に余裕があったとも言えます。いわば土台になる近軸、次に一階部分の三次収差、というように順番に積み上げるニコンの伝統的な設計方法を取っていたのです。その結果F3.5に口径を上げても、球面収差やコマ収差があまり目立って悪化しなかったのです。従って比較的容易にF3.5に口径を上げることができたのでしょう。しかし1つだけ片眼をつぶったところがありました。それは周辺光量です。このレンズは、同クラスの広角レンズの中では若干周辺光量が少なめでした。そこが唯一、玉に瑕だったのです。

それでは光学設計者についてみていきましょう。光学系の設計者は当時研究所に所属していた一色真幸氏です。一色先生は魚眼レンズの設計でも素晴らしい仕事をしていました。1969年に製作されたSAPフィッシュアイニッコール6.2mm F5.6(等立体角射影方式230°)も一色先生の手によるものです(ニッコール千夜一夜物語第五十三夜参照)。一色先生は光学設計を極めつつ、ニコンの計算機導入とソフト開発を先導された方でした。新しいことに常にチャレンジする。そして成果を残す。そんな生き方をされてきた方です。1988年には私の恩師、塩見教授の後を継ぎ、東京工芸大学工学部光学機械研究室の教授に任命され、光学技術者育成に晩年を捧げました。そして2019年に92歳で光学技術者としての生涯を閉じます。なくなる寸前まで学会に、勉強会にと世界中を駆け巡っておられました。日本の応用物理学会にとって非常に大きな功績を残されました。現在は教え子たちがそれぞれの道で一色先生の教えを活かして活躍をしています。

レンズ構成と特徴

図1 レンズ断面図

それではW-NIKKOR・C 2.8cmF3.5の断面図(図1)をご覧ください。少々難しいお話をしますがご容赦ください。このレンズは典型的な6枚玉のオルソメタータイプのレンズです。

向かって左側から光線が通る順番に見ていきましょう。まず強いパワーの凸レンズと強いパワーの凹レンズの接合からなる接合凹レンズ、メニスカス形状の凸レンズ、絞り、像側に凸面を向けたメニスカス凸レンズ、強いパワーの凹レンズと強いパワーの凸レンズとの接合からなる接合凸レンズからなっています。したがって構成は凹凸凸凸(負正正正)となり、やはりトリプレット構造ではないのです。しかし接合レンズの要素をばらせば、凸凹凸・凸凹凸となり、十分な収差補正能力があると言う事が分かります。また、絞りの両側の接合レンズとメニスカスレンズの間には、強い凹のパワーの空気レンズ(凸形状)があります。この空気レンズによって、球面収差の良好な補正がなされています。接合面以外は絞りに対してコンセントリック(同心円)な形状をしています。要は軸外の光線に対して素直に光が入るようになっています。明らかに広角向きのレンズ構成です。このような構成は球面収差を補正する能力に欠けるのです。そこを補っているのが前記した空気レンズの存在です。したがって、この構成では更なる大口径化には不向きです。オルソメタータイプにF2やF1.4という明るいレンズが存在しないのはこのような理由からなのです。しかも本レンズの前後の接合レンズは色収差とペッツバールサムを補正する役割を持った新色消しレンズになっていました。この点でも像面湾曲・非点収差の補正には有利だが、これ以上の大口径化は難しいということが理解できます。

設計性能と評価

まずは設計データを参照しましょう。以前お書きした通り、評価については個人的な主観であり、相対的なものです。参考意見としてご覧ください。

このレンズは前記の通り対称型の特徴を持ち備えています。したがって、ディストーションが少ないこと、倍率色収差が非常に少ないことは周知の事実です。それでは他の収差はどうでしょう。まずは球面収差。球面収差は微妙にアンダーコレクションになっています。これは比較的大きい像面湾曲によって、周辺でマイナス方向に変位するベストポイント(周辺ピント面)を合わせるためにあえて行った技です。このレンズのペッツバールサムは一般的なオルソメタータイプとしては少し大きめの値、約0.009になっています。本来ペッツバールサムが大きいということは、像面湾曲も大きな負の値を持つことを意味します。したがってこのレンズにおいては、比較的大きなペッツバールサムの影響でサジタル像面がアンダーに残存しているのです。そしてそのベストポイントを合わせるために、球面収差をアンダーに残存させる必要があるのです。メリジオナル像面は絶妙に平面に近づけた補正状態になっています。像高10~15mm近辺でいったん0点に交わりS字にうねらせています。非点収差の影響を考えれば、メリジオナル像面をもっとマイナスに位置させサジタル像面と合わせるべきなのです。しかしペッツバールサムが大きいのでその設計法が得策ではないと判断したのでしょう。その効果は後ほどスポットダイヤグラムとMTFで確認しましょう。次にメリジオナルコマ収差です。近軸瞳光線近傍は非常に小さく、各像高共に瞳周辺で急に大きなフレアーが発生するような残存形状になっています。これはまさに後ボケが良くなる収差補正状態。中口径広角レンズではあるものの、このレンズの三次元描写特性は好感が持てます。また特記すべきはサジタルコマ収差が少ないことでしょう。これは広角レンズとしては非常に有益な特徴です。F3.5と、さほど大口径ではありませんが、開放から安心して夕景夜景にも使用できます。それでは近距離収差変動はどうでしょうか。本来、対称型対物レンズは倍率変化による収差変動は少ないのが特徴です。その常識の通りこのレンズは最至近でも収差変動は気になりません。ただしこのレンズの最至近距離は約1m。倍率で言えば1/30倍程度ですから、元々大きく変動するはずもないのです。

次に点像強度分布、スポットダイヤグラムを観察します。F3.5ということもあり、センターは非常に良好。また、軸外全域でサジタルコマフレアーが少ないので良好な点像形状をしています。中間画角では、むしろメリジオナルコマによって若干縦長の点像になっています。しかし思ったほど非点収差の影響がなく、各像高で芯がありその周りをフレアーが取り巻く状態になっています。最周辺ではさすがに芯が崩れますが、センターから中間部、周辺部では高解像力が期待できます。倍率色収差が少ないため各色のエネルギー集中度が高く、高解像力に対する好条件が揃っているのです。

それではMTFはどうでしょうか?10本/mmと30本/mmの条件でコントラストの再現性を確認してみましょう。センターは非常に高く30本/mmでも80%以上のコントラストがあります。周辺になるに従いピークはマイナスにずれて、コントラストは低下します。この時、センターを少し落として、所謂前ピンにすると周辺のピークが乗ってきます。それにより画面平均画質が高まります。その時、周辺のコントラストは30本/mmで20~40%まで回復します。10本/mmに至っては最周辺まで60~70%程度を有しています。近距離においてもほぼ同様でした。このレンズは少し前ピン気味で撮影するか、センターよりも少し外側の像でピント合わせをする方が平均的な画質が良くなるかもしれません。いずれにせよ、これらの性能を見ると十分現在の写真システムに対応できる性能を有していることが分かります。

実写性能評価

次に遠景実写結果を見ていきましょう。ボディはZ 7に今回も市販のマウントアダプターを使用してレンズを装着しています。私のレンズはLマウント用です。今回使用したレンズは、私の師匠、林さんから託されたレンズです。形見分けだそうですが、縁起でもないし、まだまだ長生きしていただきたいので一度はお断りしたのです。しかしニッコール千夜一夜物語に活かしてほしいとの思いをうかがい、大切に愛用させていただくことになりました。しかもそのレンズがあの一色先生の若かりし頃の作品と知り、とても感慨深い思いがいたしました。したがって、自然に撮影にも気合が入りました。

それでは、各絞り別に特徴を箇条書きに致します。評価については個人的な主観によるものです。参考意見としてご覧ください。

F3.5(開放)

全体的に薄っすらベールのような心地よいフレアーが取り巻く。しかし、割合解像力はあり、特に中心部中間部は解像力が高い。周辺部に向かうにつれて徐々に内方コマのフレアーの発生が多くなる。色収差の影響は少ない。色にじみがなく好印象。比較的周辺光量が少なく、周辺がドスンと落ちる。この時代の広角レンズでありがちな描写特性。

F4

一絞り絞っただけで中心から中間部分までのフレアーが減少。コントラストが向上。センターにおける画質、特にコントラストが向上。周辺減光はだいぶ改善される。

F5.6

最周辺を除いてフレアーがほぼ消える。全面のシャープネスが向上。解像力はもともと高かったので、コントラスト、像のクリアーさが絞り込むことで改善する感じ。

F8

コントラストがさらに一段向上する。しかし、ごくごく端ではフレアーは残るが申し分ない画質。全面でいわゆる高画質に変化する絞り値。常用で推奨できる絞り値。

F11

均一で全面良好な画質。5.6,8,11と画質が向上するが、風景では深度を考えてF8~F11で撮影することを推奨する。

F16~22

最周辺のフレアーはなくなり、全面平均化はされているが、明らかに解像力が低下。回折の影響と思われる。

風景撮影ではF8~11が最適だと思われます。スナップで広角臭さを出すにはF3.5~4も良いでしょう。

作例

それでは、作例写真で描写特性を確認してみましょう。

ニッコール千夜一夜物語の作例はレンズの素性を判断していただくために、ピクチャーコントロールは通常ポートレートモードを中心に輪郭強調の少ないモードを使っています。しかし、今回は作例が風景主体と言う事もあり、部分的にオートモードを採用しています。またあえて特別な補正やシャープネス・輪郭強調の設定はしておりません。一般ユーザーの撮影を想定した風景スナップを中心に撮影しました。

作例1

Z 7+他社アダプターL-Z
W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5
絞り:F3.5開放
シャッタースピード:1/640sec
露出補正:-1/3EV補正
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:オート
撮影日 2020年7月

作例1は開放絞りF3.5で撮影しています。撮影はほぼ無限遠で撮影しました。若干柔らかさがあるものの、通常のプリント領域では十分なシャープネスを持っています。周辺光量不足は、この構図ではあまり気になりません。結像した部分は像高の中間部分も周辺も破綻はない様子が読み取れます。

作例2

Z 7+他社アダプターL-Z
W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5
絞り:F3.5開放
シャッタースピード:1/4000sec
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:オート
撮影日 2020年7月

作例2も開放絞りF3.5で撮影しています。撮影はほぼ無限遠で撮影しました。やはり若干柔らかさがあるものの、通常のプリント領域では十分なシャープネスを持っています。周辺光量不足は、この構図ではあまり気になりません。結像した部分は像高の中間部分も周辺も破綻はない様子が読み取れます。100%拡大してもライトの電球や観客席や彫刻が非常によく解像されていることが確認できます。

作例3

Z 7+他社アダプターL-Z
W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5
絞り:F3.5開放
シャッタースピード:1/3200sec
露出補正:-1/3EV補正
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:晴天
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:オート
撮影日 2020年7月

作例3も開放絞りF3.5で撮影した作例です。この作例無限遠で撮影しています。解像感も適度なコントラストも感じ取れる好ましい画質です。周辺光量低下を確認するために空を多めにしました。やはりごく最周辺では光量低下が否めません。

作例4

Z 7+他社アダプターL-Z
W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5
絞り:F3.5開放
シャッタースピード:1/2000sec
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:オート
撮影日 2020年7月

作例5

Z 7+他社アダプターL-Z
W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5
絞り:F8
シャッタースピード:1/640sec
ISO:100
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:オート
撮影日 2020年7月

作例4、5は比較してご覧ください。作例4は開放絞りF3.5で撮影した写真、作例5はF8で撮影しています。撮影倍率は約1/30倍。最至近距離1mになります。ピント面は最も前のイルカの模様です。したがいまして、背景の照明塔はピントが外れています。作例5を見るとF8ではかなり遠景まで深度に収まっていることが分かります。しかし残念ながら厳密には無限遠は深度外です。この比較で周辺光量の差も良くわかります。周辺をドスンと落として広角臭さを出すのであれば、開放近傍で使い、細密な風景写真をF8~11まで絞ることをおすすめします。

作例6

Z 7+他社アダプターL-Z
W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5
絞り:F3.5開放
シャッタースピード:1/800sec
ISO:400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2020年9月

作例6は半逆光でポートレートを試してみました。絞りは開放絞りF3.5で撮影しました。フレアーっぽさはありますが、ピントはしっかりしており十分なシャープネスを持っています。開放から安心して使用できることが分かります。

作例7

Z 7+他社アダプターL-Z
W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5
絞り:F3.5開放
シャッタースピード:1/800sec
露出補正:+1.0EV
ISO:400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:強め
ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影日 2020年9月

作例7は作例6同様ポートレートを試した例です。この作例は完全逆光です。絞りは開放絞りF3.5で撮影しました。光学系起因のフレアーもさることながら、マウントアダプター他、鏡筒周りのフレアーも目立ちました。解像感は十分再現できましたが、鏡筒周りのフレアーの分だけ少しコントラストを上げています。ご了承ください。

作例8

Z 7+他社アダプターL-Z
W-NIKKOR・C 2.8cmF3.5
絞り:F3.5開放
シャッタースピード:1/500sec
露出補正:+1.0EV
ISO:400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
D-ライティング:強め
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2020年9月

作例8もポートレートで試した例です。この作例は最も条件の悪い完全逆光です。絞りは開放絞りF3.5で撮影しました。やはりマウントアダプター等、他の要因で若干フレアーも目立ちました。解像感は十分再現できましたが、そのフレアーの分だけ少しコントラストを上げています。ご了承ください。

実際の実写では各絞りをまんべんなく撮影していますが、作例としては開放撮影の作例を中心に載せました。実際風景等はF8~11で撮影することが多いと思われますが、画質的には全く問題はありませんでした。このレンズは万能に近い広角レンズであることが分かります。オルソメタータイプの素性の良さ、特に色収差の少なさに助けられたように思います。一色先生作の銘レンズ、素晴らしいレンズでした。

一色真幸というひと

私にとって一色先生は「大学の先生」というイメージでした。私が在学中に教わるチャンスはございませんでしたが、私の後輩たちがとてもお世話になりました。一色先生は一見すると物静かで上品で温厚な方という印象がありますが、実は行動力のあるとてもエネルギッシュな方なのです。光学に対する情熱は若い学生よりも熱く、最近まで世界中の学会を飛び回っておられました。さすがに90歳を超えられて、ここ数年はお付きの若手研究者が同行していました。しかしその若手がへたってしまうようなハードなスケジュールでも、笑顔で難なくこなすお姿には若々しさが溢れていました。一色先生の設計者としての作品は数々ありますが、代表作と言えば勿論SAPフィッシュアイニッコール6.2mm F5.6でしょう。1960年代に等立体角射影方式で全画角180°を越え230°をカバーするという大発明を成し遂げたのです。何が凄いのか、それは当時の光線追跡計算で180°を超えた光線を正確に計算できたことが凄いのです。計算機で計算させるためのソフトを開発するにあたり180°を越える画角は、像側から光が降り注ぐことを意味します。それが最も頭を悩ませたはずなのです。世界でも設計例が数件あるだけでした。そんな時代背景、技術背景の中で設計製造されたものなのです。もちろんこのレンズはギネスブックにレコードされても良いレベルです。画角230°の製品は、当時世界初であり世界一の大画角を持った写真レンズだったのです。きっと一色先生は、既存ソフトでは到底不可能なこのレンズを設計するために、ご自身でソフトを開発したのでしょう。そしてその研究を通じ、一色先生はソフト開発者としての能力を身に着けられたのだと思います。その後、一色先生達のおかげでニコンの光学設計ソフトはさらに磨かれて現在に至っています。一色先生は2019年に92歳の人生を閉じられました。最後までお元気で光学の世界の先端をお進みになった一色先生。一色先生の数々の功績は、教え子たちによって未来永劫受け継がれてゆくことでしょう。

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