COOLPIXの撮影領域を拡大する
COOLPIX 4300用コンバータレンズ
今夜は二十二夜の続きでCOOLPIX 4300にとりつけられるコンバータレンズを紹介しよう。
大下孝一
COOLPIX 4300は各種コンバータレンズを装着して撮影領域を拡大することができる。装着可能なコンバーターには、フィッシュアイFC-E8から、3xのテレコンバーターTC-E3EDまで用意されており、本体の38-115mm相当の焦点距離を、8mm相当の円形魚眼から345mm相当の超望遠まで拡大することができる。これだけの機材を交換レンズで揃えようとすると大変なことになるが、COOLPIX 4300とコンバーターの組み合わせでは、それが一式小型のバックに収まってしまうほどコンパクトである。
専用コンバーターの計画はCOOLPIX 900の開発中にさかのぼる。その当時、レンズ交換可能なデジタルカメラといえばたいへん高価なもので、ごく一部のプロが限られた用途に使うものだった。COOLPIX 900には38-115mm相当の3倍ズームレンズを搭載したが、引きのない場所での撮影や、遠くものを大きく写したいといった条件ではさすがに苦しい。そんな場合でも、一眼レフでレンズを交換するように、より多くの撮影条件に対応したいという思いからコンバータレンズの計画がスタートしたのである。
交換レンズで用いられるコンバーターは、レンズと像面の間に挟むいわゆるリアコンバーターであるが、これではいったん撮影レンズをとりはずさねばならず、カメラとレンズが一体化されているCOOLPIXカメラには採用できない。さらにリアコンバーター方式ではテレコンバーターは設計できるが、焦点距離を短くして画角を広げるワイドコンバーターは原理的につくることができない。
そこで、COOLPIXのコンバーターはレンズの前側に装着されるフロントコンバーターといわれる形式を採用することになった。フロントコンバーターとは一種の望遠鏡で、カメラにコンバーターを「覗かせる」ことで、被写体の大きさを変えるのである。
このフロントコンバーター方式は、撮影レンズが大きくなると非常に巨大になってしまう欠点があるが、図1のように、COOLPIXのレンズは一眼レフの交換レンズに比べ非常に小型にできているため、実用的な大きさでコンバーターを作ることができたのである。さらに、交換レンズで使われるリア・テレコンバーターでは倍率に応じてレンズのF値が暗くなってしまう欠点があるが、フロントコンバーターではレンズのF値が変わらないように設計できるというメリットもある。COOLPIX用コンバータレンズはいずれも装着前後でレンズのF値は変化しない設計となっている。
ではコンバーターのラインナップを簡単に紹介しよう。
COOLPIX用のコンバータレンズは、COOLPIX専用に設計されており、またCOOLPIXの撮影レンズ側でも、コンバーターとのマッチングを見ながら設計を行っているため、コンバーターを使った場合も性能の劣化は少なく安心して使うことができる。
FC-E8は図2のような4群5枚の構成で、画角183°の円形魚眼像が撮影できるコンバーターである。180°を越える画角をカバーしているのは、正面と背面の2枚の円形画像から360°の画像をつくるための「のりシロ」が必要になってくるからである。図2のレンズ構成をよく見ると、第六夜で紹介したOP10mm F5.6や8mm F2.8の構成に似ていることがわかるだろう。デジタル時代となっても先人のレンズがお手本になっているのである。
図3のWC-E63は、倍率0.63倍のワイドコンバーターで、COOLPIX 4300の広角端を24mm相当に変換してくれるため、作例1のような広角レンズの描写を楽しむことができる。このコンバーターはCOOLPIX 900用に発売されたWC-E24の後継機で、4群4枚の新レンズ構成によって、歪曲収差、色収差がさらに良好に補正されている。このワイドコンバーターはズーム全域で撮影することができる。しかし、中間焦点距離から望遠側では、できれば取り外して撮影した方が良いことは言うまでもないだろう。
TC-E2は、COOLPIX 4300の望遠側を230mm相当にする2倍のテレコンバーターである。図4に示すように、3群4枚とテレコンバーターとしてはおごった構成で、作例2のように、テレコンバーターで問題となる色収差や歪曲収差を良好に補正している。
TC-E3EDは、COOLPIX 4300の望遠側を345mm相当にする3倍のテレコンバーターで、図5のような3群6枚の構成と、2枚のEDレンズによって、3倍の倍率でありながら色収差を良好に補正している。
テレコンバーター2本は広角側にズーミングすると画面周辺がケラレてしまうため、テレコンバーターモードで中間焦点距離から望遠側にズーム範囲を制限している。また、フロントテレコンバーター装着時には、原理的に最短撮影距離が長くなってしまう。リア・テレコンバーターがFナンバーが暗くなる代わりに最短撮影距離が変化しないのと反対に、フロント・テレコンバータではFナンバーが変化しない代わりに最短撮影距離が長くなってしまうのである。2倍のコンバーターでは約4倍、3倍のテレコンバーターでは約9倍、つまりコンバーター倍率の自乗倍だけ最短撮影距離が伸びると覚えておくと役に立つだろう。近距離での撮影ではマクロモードに切り替えて撮影するとよい。
さらにCOOLPIX 4300は、天体望遠鏡等と組み合わせて撮影することもできる。
先に、フロントコンバーターは一種の望遠鏡でこれをカメラに覗かせると書いたが、同じ要領で望遠鏡の接眼部にそっとあてがって、カメラに望遠鏡を「覗かせれば」いいわけである。一眼レフの交換レンズの場合、レンズ径が大きいので、望遠鏡をうまく覗くことができず画面周辺がけられてしまいやすいが、COOLPIX 4300のレンズは前玉がそれほど大きくないため、ズームを中間焦点距離から望遠にセットすればケラレなく望遠鏡を「覗く」ことができる。※
作例3は口径8cmの望遠鏡の接眼にCOOLPIX 885をあてがって撮影した土星食の写真である。土星は5大惑星の中で最も暗く、銀塩写真で撮影するには自動追尾式の大口径天体望遠鏡で秒単位の露出が必要で、天体の中でも写すことが難しい被写体のひとつであったが、デジタルカメラでは望遠鏡にあてがうだけで、拍子抜けするほど簡単に撮れてしまった。その秘密は前夜説明したように、画面サイズが小さいので、土星を同じ大きさに写すために必要な焦点距離が、35mm判カメラの数分の一で済むからである。ニコンフィールドスコープとの組み合わせでは、デジタルカメラフィールドスコープシステムが発売されており、専用のアタッチメントリングでカメラとフィールドスコープを固定するため、使い勝手よく望遠鏡撮影を楽しむことができる。
望遠鏡の接眼部にあてがって撮影する、という発想を応用したのがNikon Rayfactから発売されているTelescoMicro ED6x18Dである。このテレスコマイクロは、単体で高性能な単眼鏡兼顕微鏡として使えるほか、COOLPIX 4300に装着することで、340~690mm相当の超望遠撮影や小物の超拡大撮影を行うことができる。
作例4は花のおしべの拡大写真である。このように、肉眼でははっきり見ることのできない小さなものまで鮮明に撮影することができる。
テレスコマイクロで真価を発揮するのが、木の花のアップなど、少し離れたところにある被写体のマクロ撮影だろう。作例5は桜の花のアップである。撮影のポイントは、出来るだけ広角側の焦点距離で被写体に寄って、出来れば三脚を使って撮影することだろう。形はコンパクトだが、35mm判換算の焦点距離は本格的超望遠レンズである。カメラぶれには細心の注意が必要である。