撮ることへの情熱が、自分にしか撮れない作品を生む
今年はニッコールクラブ創立70年の記念すべき年。数年続いているコロナ禍の影響もあり、自由に撮影に行くことが制限された時期もあった中、貴重な場面を撮影し作品にした人、また今までの写真を見直して応募してくださった人と、それぞれがこの状況に応じたやり方で応募してくださったことが審査を通してわかりました。できるだけ人が多く集まらない場所を望むことも要因でしょうか、カメラの性能がより高度になった効果もあってか、ネイチャー写真にトライする人が多くなった傾向も感じられました。
自然そのものを写す、ということは昔から変わらずにきたことと思いますが、カメラ、レンズの進化と共に、そのネイチャー写真も変化してきてます。まさにその代表作としてこの度、長岡賞に輝いた佐藤圭さんの「生命萌ゆる」は、地元北海道の自然界をよく見つめ写真を撮り続けていることが伝わります。作者がここの自然と動物と共に生きてきた優しい視点を、背景に広がる美しい情景から感じます。また、撮り続けてきた「夕日とワシ」の写真を組ませた構成から、より強い作品テーマが表れてます。その結果、この3枚の組写真は、とても新鮮な見せ方となりました。「共通の何か」のみで組んだのではなく、もっと作品に広がりを感じさせ、大自然の美しさだけではない、今までとは少し違った組作品に仕上がっていました。
第1部モノクロームのニッコール大賞、遠井信行さんの「旅の記録」は、アサギマダラという蝶の観察会での写真をまとめてます。主である被写体を4枚にどう見せるか。2枚の写真に子どもの可愛らしい仕草を上手にとらえたことで、4枚の場面の切り替え、空気感が作り上げられている点は、作者の高度な撮影技術が成す技と感じます。また全体黒色の締まり具合もよく、しっかりとしたモノクロで見せてます。
第2部カラーのニッコール大賞、土岐令子さんの「村人こぞりて」は、かねてから西表島を訪ねてみたかったとのこと。この伝統行事を色合いも綺麗に表現されてます。また沖縄本土復帰50周年の今年に、この伝統への思いを感じさせる作品となってます。祭りでの撮影は、撮る位置等から、イメージ通りに撮影することは難しいですが、見事に作品として仕上げています。
第4部TopEye&Kidsのニッコール大賞、内田莉奈さんの「私の町」は、地元の町を撮り歩いている写真ですが、撮影日時を見ると、日を変えて何度も撮っている中から選んだ4枚なのだということがわかります。たくさん撮られた写真の中から構成されていることもあり、内田さんの視点で街の様子をまとまりよく表現しています。構図にバリエーションを見せ、4枚目に男性の笑顔があるのも、いいアクセントになったのではないでしょうか。
時代とともにデジタルカメラもその性能がより良いものへと変化してゆきますが、基本的に撮る側の「何を撮りたいか」「どう撮りたいか」というテーマは変わらないのだと思います。以前なら想像もできなかった瞬間をとらえることを、今のデジタルカメラは実現し、驚きと感動を私たちに与えてくれる。写真の未来はまだまだこれからも続いてゆくのだと思います。ひとつのテーマを追い続けることも、色々な場面をトライすることも良いでしょう。どんな写真も撮ることへの情熱さえあれば、きっと自分しか撮れない1枚ができると私は思います。
ニッコールクラブ顧問 | 大西 みつぐ、小林 紀晴、佐藤 倫子、ハナブサ・リュウ、三好 和義 |
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ゲスト審査員 |
関次 和子(東京都写真美術館学芸員) 高砂 淳二(写真家) |