2025年2月25日(火)~2025年3月10日(月) 日曜休館
2025年3月20日(木)~2025年4月2日(水) 日曜休館
火薬が爆ぜる。爆発する。闇の中に光が放たれる。
夜の闇が光で満たされ、見上げる顔には驚きが、笑顔が、もしかしたらその爆発を生まれて初めて見る赤ん坊の泣き顔が、様々な感情が千変万化する炎色反応のように人々の顔に浮かび上がる。花火はまさに夏の夜空を染め上げる「華」だ。だが私がその美しい光と共に心惹かれるのは、その爆発直前の予感に満ちた沈黙と、爆発直後の余韻。起源の直前の闇と、副産物のように生まれ出でる煙なのだ。
大きな花火が空に打ち上げられる直前に、闇が広がる。爆発を前に息を呑む我々の期待が、まるで宇宙を満たすダークマターのように、見えない重力源さながら夜の闇に満ちていく。そして、閃光、世界を祝福するように輝く花火、と同時に、どこから生まれたのか不思議に思えるほどの、花火そのものを覆い隠しかねない膨大な煙とが、花火を邪魔し、時に、まるで神々の児戯が見えざる手で捏ねたような、美しい形を花火に添える。一瞬で崩壊する。
闇の無から現れ、一瞬の閃光と共に指数関数的に増えていく煙の様相まで、花火というのはその過程そのものが、まるで宇宙の創世、ビッグバンを何度も何度もやり直しているかのような、そんな感触がある。あるいは、エントロピーが増大し、熱が失われ、この宇宙全てが終わる瞬間「熱的死」の予行演習にも思えてくる。その壮大なスケールは、物理と偶然性が一回限りの「瞬間」として記録されることでアートに昇華する、写真という営為の象徴でもあるように思えるのだ。
だからこそ、花火の光を愛すると同時に、全てを飲み込む闇と全てを覆い隠す煙も、私は愛してやまない。
本展示は、写真の根源である「光」と「闇」を、花火をテーマとして追うものである。被写体は花火だが、表現の核心は光、闇、そしてその副産物である煙になる。そしてその探究を通じて、写真の根源である「時間」と「空間」への問いを発することができればと願っている。
本展示はもちろん作品を見て頂く場ではあるが、それと同時に、文学研究者であった頃にやっていた「研究発表」に近しいものになるだろう。なぜなら、それは「世界を自分の目で理解したい」という、根源的な私の活動の原点を共有した行為だからだ。
ぜひその成果を、多くの人にも「体験」してもらいたい。そう、本展示のもう一つのテーマは「体験」でもある。光、闇、時間、空間。そして煙という言葉、現象の問いかけるものはなんなのか。写真展示の会場に来てもらうことの意味を、来場者の皆様とともに追求したいと思っている。
(別所 隆弘)
フォトグラファー/文学研究者/関西大学社会学部メディア専攻講師
写真と文学という2つの領域を横断しつつ、「その間」の表現を探究している。滋賀、京都を中心とした”Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。Z8の公式プロモーションに出演。近著『写真で何かを伝えたいすべての人たちへ』。