24回目の開催となった総合写真祭「フォトシティさがみはら2024」のプロの部受賞者4人の作品を集めた写真展を、新宿駅西口の新宿エルタワー28階・ニコンプラザ東京THE GALLERYで開催します。
会場では、相模原市総合写真祭において、「記憶・表現・記憶」性を高く評価されたプロの写真家の作品が展示されます。
時代と社会を考え、語り合いながら精神文化を育んでいただくと共に、写真の持っている表現力や記録性などのすばらしさを感じとっていただきたいと思います。
(主催:相模原市総合写真祭フォトシティさがみはら実行委員会)
◆受賞作品について
2024年(令和6年)に開催した写真祭プロの部には、広義の記録性の分野で活躍された中堅写真家の中から「さがみはら写真賞」として1名、新人写真家の中から「さがみはら写真新人奨励賞」として2名が選出されました。また、アジア地域で活躍している写真家を対象にした「さがみはら写真アジア賞」として1名が選出されました。
<受賞作品のご紹介>
○「さがみはら写真賞」
阿波根 昌鴻(沖縄県)
『写真と抵抗、そして島の人々』(写真展) ※作品4点の内、左から1番目
○「さがみはら写真アジア賞」
フィロン・ソバン(カンボジア)
『CITY NIGHT LIGHT(夜の街の光)』(写真集) ※作品4点の内、左から2番目
○「さがみはら写真新人奨励賞」
稲宮 康人(川崎市)
『「神国」の残影』(写真展) ※作品4点の内、左から3番目
○「さがみはら写真新人奨励賞」
林 詩硯(台湾)
『針の落ちる音』(写真集) ※作品4点の内、左から4番目
◆審査員コメント
2024年度のさがみはら写真賞は阿波根昌鴻の写真展『写真と抵抗、そして島の人々』(丸木美術館)に決まった。阿波根は1901年に沖縄本島で生まれ、17才でキリスト教徒となり、本島に近い伊江島にわたって結婚し、1925年にはキューバへ移民、さらにペルーに移り、1934年には伊江島へ帰った。伊江島では農業学校建設をめざし奔走するが、まもなく太平洋戦争が勃発する。''沖縄戦の縮図''とされた激戦地・伊江島での戦闘や集団自決を目の当たりにした。敗戦後は伊江島の土地の六割が米軍に接収され、土地返還を求める反対運動の先頭に立つ。沖縄本島でも非暴力を貫く「乞食行動」を行い、米軍の土地強奪の不当性を訴え、自宅敷地に反戦平和資料館「ヌチドゥタカラ(命の宝)の家」を自費で建設し、平和の尊さと戦争の愚かさを説き続けた。阿波根にとりカメラは戦争や権力と対抗する手段となり、農民たちと共に強制接収や米軍の横暴を記録した。しかしその写真は単なる抵抗の写真ではない。
島のたおやかな時間に根付き、風土と親密な関係を築き上げてきた人々や祖先への信頼と尊敬の念が命の流れのようにそこには息づいている。長らく忘れられていたが、2024年に日本本土で初めての展覧会が行われた。20世紀の始まりに生まれ、21世紀の始まりと共に亡くなった日本の記録写真の位相を象徴する写真家である。
さがみはら写真アジア賞はカンボジアのフィロン・ソバン『CITY NIGHT LIGHT(夜の街の光)』に決まった。高度経済成長と共にスクラップ&ビルドが繰り返され、高層ビルが林立する首都プノンペンだが、フィロンはその発展から置き忘れられたような路地やバラック、廃墟や工事現場の片隅で目撃した人や生活を自らのオートバイの強烈な光の下で撮影し続けた。かつてカンボジアは世界最貧困の一つと言われ、40年以上前にはクメール・ルージュ政権下の圧政と虐殺により、全国民の五分のニにあたる250万人以上が犠牲となった。そのトラウマは驚異的な経済復興により消しさられたかのように見えるが、カンボジアの人々には二度と悲劇を繰り返してはならないという強い思いがある。圧迫された人々の無意識と日常の襞を捉えるフィロンの眼差しはカンボジアの現在の闇と光を精密に写し出している。
さがみはら新人奨励賞は稲宮康人『「神国」の残影』と林詩硯『針の落ちる音』が選ばれた。『「神国」の残影』は大日本帝国時代に皇民化政策の一環として創建された海外神社の跡地を台湾、朝鮮、南洋諸島、満州、樺太まで訪ね、長い時間をかけて丁寧に撮影した労作である。『針の落ちる音』は自傷行為と向き合う一人一人の個性の存在を繊細に写しとったシリーズであり、日常の揺らぎや傷跡に残る痛みから生への秘められた欲求が浮かびあがる。
写真は見る者に共感と共苦をもたらす。今年度の受賞作は、あらためてこの奥深い写真の力を再考させる優れた作品といえるだろう。
(東京藝術大学名誉教授/美術史家/美術評論家 伊藤俊治)
写真は、芸術写真から家族写真まで広い地盤を持ち、その卓越した記録性と豊かな表現機能により、多くの人に感動を与えるものであるとともに、私たちの生活にとても身近な存在です。
相模原市では、豊かな精神文化が求められる新しい世紀の幕開けにあたり、写真文化にスポットをあて、これを「新たなさがみはら文化」として全国、世界に発信することを目指して、総合写真祭「フォトシティさがみはら」を2001年にスタートさせました。
この写真祭は、新たな時代を担うプロ写真家の顕彰と、写真に親しむアマチュアの作品の発表の場を設けるとともに、市民が優れた芸術文化に触れたり、それぞれの場に参加できたりする市民参加型の事業で、写真をキーワードとして、時代と社会を考え語り合うことで、新世紀における精神文化の育成に貢献することを基本理念にしています。
また、2006年日本写真協会より「日本写真協会賞・文化振興賞」、2011年日本写真家協会より「日本写真家協会賞」に、写真文化の振興、発展に貢献したとして、相模原市総合写真祭フォトシティさがみはら実行委員会が選定されました。