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<ニコンサロン>
石川 直樹
奥能登半島

会期

2024年11月26日(火)~2024年12月9日(月) 日曜休館
10:30~18:30(最終日は15:00まで)

開催内容

2015 年から 2021年まで、6年以上にわたってぼくは能登半島の先端にある珠洲市に通い、四季を通じて写真を撮り続けてきた。
陸の視点で見れば「行き止まり」にあたる半島の先端部だが、海から見れば三方から新しい文化や人やモノが流入する開かれた土地である。その昔、海は人を阻むどころか、陸路よりもはるかに速く、広範囲に人やモノを移動させた。こうして江戸時代の奥能登は北前船によって栄えた。しかし、近代になって陸の交通網に軸足が移ると、衰退の一途をたどることになった。
現在まで人口が減り続けてきた珠洲市だが、もともと4000年ものあいだ縄文の人々を引き寄せ、生活を下支えしてきたポテンシャルの高い土地でもある。気候は穏やかで暮らしやすく、移住者も少しずつではあるが、増えつつあった。日本海を介して大陸や朝鮮半島にも開かれたこの地の幕らしにぼくは魅せられ、春夏秋冬の小さな儀礼から日々の生活の詳細に至るまで、写真による記録と個人の記憶を積み重ねてきた。

が、そんな矢先、2024年1月1日に、この地を大地震が襲った。風景は文字通り、一変した。少しの比喩もなく、本当に珠洲のあらゆる風景が変わってしまったのである。
ぼくは、発災から一カ月後に珠洲を再訪し、旧知の人々に会いに行った。彼ら彼女らの中には、好条件の移住を勧められながらもそれを断り「この集落の住人がたとえ一人になってもここで生きていく」とぼくに話してくれた人もいる。
さらに、だ。9月21日22日に記録的豪雨が奥能登を襲い、再び多くの被害が出た。こうした災害の前と後では、彼の地の営みがどう変わって、どう変わらなかったのか。何かが永遠に失われてしまったのか否か。行き止まりこそが入口になる。そんな思いで、ぼくはこれからもずっと、日本海につきだした奥能登半島に通い続けたい。この眼をもって、奥能登と奥能登半島の人々をずっと見つめ続けていきたいと考えている。

(石川 直樹)

プロフィール

石川 直樹(いしかわ なおき)

1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。2008年『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞。2011年『CORONA』(青土社)により土門拳賞。2020年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、『まれびと』(小学館)により日本写真協会賞作家賞を受賞。

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