2024年9月17日(火)~2024年9月30日(月) 日曜休館
2024年10月10日(木)~2024年10月23日(水) 日曜休館
「山が泣いている」。そんな風に感じたのは、いつだったろうか。若いころから山登りが好きでたくさんの山に通ってきたけれど、手入れのされていない杉や檜の山を見るたび、「山が泣いている」と感じるようになった。
戦後、家や家具の建材利用のため、はげ山になった山林に全国一斉に木が植えられた。その木々たちが成長をとげて、約80年。山は今、一番豊かな時を迎えている。
しかし、海外からの安価な木材の輸入自由化で、国産材の価格は暴落。加えて農山村の過疎化によって山の担い手が不足したことなどから、木は売れず、山は荒れはじめた。山が荒れると土砂崩れなどの災害が増える。森から海へと流れ込むミネラルなどの栄養素が届かず、海も荒れていく。
そんなことを考えていたころに出会ったのが、青森県新郷村に住む石ヶ守勲(いしがもりいさお)さんだった。当時95歳。自らの山を持ち、毎日山へ入り、木々の手入れをしている林業家。山を愛し、山を大切にしている、本物のキコリだった。
出会った瞬間、「この人を撮りたい」と感じた私は、すぐ撮影を申し込み、新郷村に通うようになった。山中を歩く石ヶ守さんは95歳と思えないほど健脚で、後ろから必死でついてくる私を見ては、いつも笑っていた。木のことはもちろん、土のこと、動物のこと、天気のこと、なんでも知っている山の博士のような人だった。
しかし、2020年にはコロナ禍で撮影を中断せざるを得ない状況に陥り、再び青森に通うことができるようになったのは2022年。その翌年の2023年5月に、石ヶ守さんは亡くなった。99歳だった。無念。
この写真展は、石ヶ守さんが教えてくれた山への愛情と林業の知恵をもとに、次世代のキコリたちが力を合わせて山を守る青森県新郷村の「KIKORI」の物語である。キコリが蒔いた種が苗木に育ち、苗木が木に、木が山になり、山で育った木が家になり、家が人に安らぎを与え広がっていくように、この物語が語り継がれていくことを願う。
(山口 規子)
◇【トークイベント】山口規子「KIKORI 木は長い夢を見る」
本展の関連イベントとしてトークイベントを開催いたします。
山口氏と青森県新郷村との出会い、林業や山の役割について、作品の作り方のことなど、様々なお話をしていただきます。
多くの方のご来場をお待ちしております。
※参加費無料です。当日直接会場にお集まりください。
※ご来場多数の場合、入場を制限することがございます。ご了承ください。
<東京会場>
日時:2024年9月21日(土)15:00~16:00 ※14:30~入場受付開始
会場:ニコンプラザ東京 ショールーム
登壇者:山口規子(写真家) ゲスト:秦達夫(写真家)
定員:30名(当日先着順、参加費無料)
<大阪会場>
日時:2024年10月12日(土)14:00~15:00 ※13:30~入場受付開始
会場:ニコンプラザ大阪 ショールーム
登壇者:山口規子(写真家) ゲスト:三村漢(アートディレクター・装丁家)
定員:25名(当日先着順、参加費無料)
◇【写真家インタビュー】
山口規子 (THE GALLERY 企画展 山口規子「KIKORI 木は長い夢を見る」)
栃木県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。文藝春秋写真部を経て独立。女性誌や旅行誌を中心に活動。透明感のある独特な画面構成に定評がある。「イスタンブールの男」で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、「路上の芸人たち」で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。近著に「トルタビ~旅して撮って恋をして♫~」や写真集「柳行李」「I was there.」など。その他、旅や暮らしに関する撮影書籍は多数。公益社団法人日本写真家協会 副会長