多摩川の流域の住人になって、三十年近くになるだろうか。
私はこの川を日常の景色として眺めていただけであった。
ある日、懐かしい水のにおいを嗅いだ。誘われるように川原に降りてみれば、
隅田川のほとりで育った幼い頃の記憶が蘇ってきた。
それ以来、度々、川のほとりを訪れるようになっていた。
ことさらパンデミックの時期は多摩川の川辺が拠り所になった。
川は河口に向かってひたすら流れ、岸辺の小径はどこまでも続く。
耳をすませば生き物の気配が感じられる。はるかに遠い日の人々の息づかいさえ…
ここで深呼吸をすれば深い安らぎを覚えるようになっていった。
川はいつの日も心の奥底に流れていたのだ。
いまごろ気づかされている。
(鈴木 恵理子)
東京都生まれ
慶応義塾大学文学部卒業
大正大学大学院人間科学修士課程修了
日本航空国際線客室乗員部を退職後、教育研修の講師を務める。
現在、アジアを中心に写真活動を展開している。
【写真展】
2017年 銀座ニコンサロン「ナム ジャイ」
2021年 ニコンサロン 「雨んぢゃく」
2024年 東京写真月間2024(29th)特別企画
SDGs地域との共生【結城市と紡ぐタイ王国】
「ナム ジャイ」(2017年銀座ニコンサロン出展作品より)