長年、植物のさまざまな姿を撮り続けてきましたが、なかでも次世代へ命をつなぐ種子やその発芽初期の様態には強く惹かれるものがあります。
種子植物は子孫を残すため種子を出来るだけ遠くに飛散しようとします。
そのため種子は機能的に有利な形態をとることが多く、そのフォルムには個性的な美しさがあります。種子を包む果実もまたしかりです。また発芽初期の幼芽と幼根のみずみずしさには新しい命の誕生を実感することができ、動物の胎児を連想させるその様態には動物と植物が共通の祖先をもっていることを強く感じとることができます。
しかし、発芽初期の進行は地中で起っているので、日常では目にすることは出来ません。
現実には見ることが出来ない姿を地上で再現してカメラに収めたい、そんな思いで撮り続けています。採種から発芽するまで長い時間を要するものも多く、発芽後は特に幼根の新鮮さを保つための環境づくり等、実際に撮影するまでの苦労は大きいものがありますが、自分のテーマとして取り組んでいます。
今回は個性豊かな種子や果実、そして発芽初期の魅力的な姿を展示しました。
(伊藤 裕啓)
1940年 千葉県生まれ
東京教育大学(現筑波大学)理学部で植物学を専攻、同大学理学研究科修士課程を卒業後、静岡県の県立高等学校に赴任。
定年退職後に趣味で写真撮影を始め、2001年より写真家長塚誠志氏に師事する。以後、野生植物を中心に自然環境の中で輝く姿、耐える姿、世代を継ぐ姿、命の誕生から死を迎える姿など幅広く撮影し続けている。
2000年に「南風写友会」を起ち上げ、毎年写真展(グループ展)を開催するなど活動している。