【国内企画展 「写真の力で伝えようSDGs」】
堀内 洋助 「再生の原風景-渡良瀬遊水地と足尾-」
日本の公害の原点として知られる渡良瀬遊水地と足尾。
約120年前、遊水地には約2500人が暮らす谷中村があった。足尾銅山鉱毒事件が起き、明治政府は鉱毒沈殿池を造るために廃村させた。同じころ、足尾の山は煙害と伐採、山火事などで荒廃した。下流と上流の悲しみの歴史を背負った一世紀を超える月日は、遊水地を本州最大のヨシ原と野鳥や植物、昆虫などの貴重な自然の宝庫に再生させた。足尾の山は森を再生するため、国の緑化事業とともに、市民が一本一本苗木を植える植樹活動が行われている。
この渡良瀬との出会いは33年前、東京新聞に一年間連載された写真企画「渡良瀬有情」取材班(代表鍔山英次写真部長)として撮影したのが始まりだった。文は作家立松和平氏が担当し、多くの感動を与えてくれた。この取材で自然の息吹に激しく心を打たれた。ニュースの仕事に追われる新聞カメラマンとして大きな衝撃だった。また連載が新聞協会賞(1992年度)を受賞したのも励みになった。じっくり自然環境を見つめたいと思った。連載終了後も休日の大半は渡良瀬に通った。年間60~80日間になっていた。早朝に撮影し、ここから出勤する日も。締め切りもなく、ゆったりと自然の営みに身を置く時間は至福だった。
2012年7月、渡良瀬遊水地が国際的に重要な湿地を保全するラムサール条約に登録された。この登録を機会に同年5月から1年間、東京新聞に写真企画「再生の原風景」を31回にわたり連載。四季折々の美しい表情を見せる遊水地と「負の遺産」が残る足尾の現状を報告した。写真集も刊行され、本が渡良瀬の再生に役に立つことを祈った。2020年夏、渡良瀬遊水地で、東日本では初めて野外繁殖で国の特別天然記念物コウノトリ2羽が巣立った。日本で野生のコウノトリが絶滅して49年目。その日は、幼鳥の翼が梅雨明けした朝の光に色づいて印象的。24年前、遊水地の環境を守る市民グループ「わたらせ未来基金」(現在はNPO法人)が発足し、活動に参加。その時、同会は「40年後にコウノトリを生息させること」を目標に掲げた。夢のような話で実現不可能と思われたが、正夢になった。その後、再生の象徴としてコウノトリは毎年、繁殖する。
今年7月はラムサール条約の登録から12年目。辛酸な歴史から再生する自然の息吹に心を打たれ、渡良瀬遊水地と足尾をライフワークとして撮影している。5年連続のコウノトリ繁殖の成功を祈りたい。
四季の移ろいの一瞬の美をご覧ください。
(堀内 洋助) ※右側の写真が堀内 洋助作品。
【「アジアの写真家たちインド2024 Since2007」】
Prashant Panjiar 「Indiaisms」
「アジアの写真家たち」シリーズを実施、今回で19回目を迎え、2024年9~10月を「Japan Month」とし、日印間の貿易・投資、文化交流、人的交流等が開催されることもあり、グローバルサウス国「アジアの写真家たちインド」16名の写真家による写真展を6会場で開催いたします。
※左側の写真がPrashant Panjiar作品。
■堀内 洋助(ホリウチ ヨウスケ)
1954年愛媛県松山市生まれ。写真家。中央大学と東京写真専門学校卒業。1982年、中日新聞社(東京新聞)に入社。写真部記者として事件・事故やスポーツ、自然、野鳥、人物などニュース現場を取材。写真企画「渡良瀬有情」と「富士異彩」取材班で新聞協会賞を受賞。「空飛ぶ金魚」で2018年度東京写真記者協会一般ニュース部門(国内)奨励賞を受賞。2019年12月に退職後は松山市に在住。農業に従事しながら撮影を続ける。著書に『再生の原風景』、『野鳥観る撮るハンドブック』、『国鉄最後のSL』(いずれも東京新聞)。共著に『田中正造と足尾鉱毒事件を歩く』(随想舎)、『富士異彩』、『渡良瀬有情』、『翔べカルガモの子よ』(いずれも東京新聞)など。日本野鳥の会会員。日本写真協会会員。
■Prashant Panjiar
1957 Goa, India
フォトジャーナリスト、キューレター、編集者
https://www.prashantpanjiar.com/