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Japan
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<ニコンサロン>
第25回(2023年度)三木淳賞
吉江 淳「出口の町」

会期

2024年4月2日(火)~2024年4月15日(月) 日曜休館

10:30~18:30(最終日は15:00まで)

受賞作品内容

生まれ育ち、今も暮らすこの地域は関東平野の端にあって、大いなる自然も都市的景観も持ち合わせていない。
ポンプ式に様々な事物が届けられ、それらが押し出された町の端では人工と自然、中心的と局所的、新しいものと古いものが入り混じる汽水域のような境界が見え隠れしている。

一方、町の外れには利根川が流れている。
源流から河口への雄大な流れの循環から90°視点を変えてみれば、そこは町から様々なものが流れ着く最終地だ。消化しきれなかった我々の生活排泄物とも呼べる澱が草むらに覆われ点在している。県境でもある川は低い土地であり、町の出口と呼んでよい場所だ。

この地域には決して魅力的な景色があるわけではない。
多くの人が「何もない」という土地にはしかし、何もない景色があって、私にとっては、明媚な風景よりも自然について、都市的な風景よりも生について強く響いてくる。

(吉江 淳)

授賞理由

吉江 淳氏の作品「出口の町」は作者が生まれ育った故郷であり、今もそこで暮らしながら制作を続ける地元の写真である。その作品が描く地元の特徴は、ひとことで言うと特徴のないことかもしれない。ランドマークとなるような自然が出てくるわけでも、文化財と言えるような立派な建造物や歴史的景観が描かれるわけでもない。そうした特徴のない土地を継続的に作品化するのは、独自の視点とスタイルがなければ不可能なことであり、そこに作者の卓越した技術と強い意志の力を感じることができる。
タイトルにある「出口」は町外れに流れる利根川が、生活圏である市街地にとっての出口であり、ある意味で日々の生活のなかで忘れられた一切合財が流れてゆく場所である。記憶するに値しない風景を、人は殺風景と言う。だが写真家の視点は、殺風景にしか醸し出せない微妙なバランスを作り出す。作品を見ていると、忘却される風景にこそ価値がある、そんな気がしてくる。これは地元だからこそ備えられる美学かもしれない。
対象との距離のとりかた、人工物と自然物を等価に扱う微妙な色の配置、天候と光に対する感覚…これらの作品はかつて印象派の画家たちが急速に近代化が進むパリ郊外の、積み藁や工場や煙突が見える、何もない土地にでかけていったことを思い起こさせる。漠とした「何もない」場所から、作品となる風景を掘り出すのは、昔も今もアーティストの鋭い嗅覚であろう。足元から立ち上る空気の匂いや変化を素材に、まさに「地元」に含まれる森羅万象を受け入れて描く、都市文明の風景を高く評価したい。

(選評・港 千尋)

<三木淳賞 最終選考に残った候補作品は次の通りです>
成瀬 夢 写真展「カラーストライク」(2023年4月25日~5月8日、ニコンサロン)
吉江 淳 写真展「出口の町」(2023年6月6日~6月19日、ニコンサロン)
寺崎 珠真 写真展「Heliotropic Landscape」(2023年11月7日~11月20日、ニコンサロン)

<第25回三木淳賞 副賞>
ニコン Z f+NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR

プロフィール

吉江 淳(ヨシエ アツシ)

1973年群馬県太田市生まれ。地元を中心に写真を撮り続けている。
主な写真展「ヒバリのいるところ」ニコンサロン juna21(2006/東京)「Riverland」コニカミノルタプラザ フォトプレミオ(2010/東京)「HOMETOWN」1839コンテンポラリーギャラリー(2011/台北)「地方都市」新宿ニコンサロン(2012/東京)「遠くに山が見える」ギャラリー蒼穹舎(2014/東京)「地方都市」ギャラリー722(2015/岡山)「川世界」梅田 蔦屋書店(2017/大阪)「HOME/TOWN」太田市美術館・図書館(2021/群馬)「PARADISE TEMPLE」 iwao gallery(2022/東京)「出口の町」ニコンサロン(2023/東京)など
写真集 「地方都市」蒼穹舎(2014)「川世界」salvage press(2016)

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