私は生まれも育ちも東京で、故郷と言えるところがなく、他の土地に住んだこともありません。だから山河を持っておりません。
ただ、父母にはそれぞれ生まれ育った故郷があり、そこには従兄たちがおり、子供のころには夏休みのたびに出かけていました。近くの山に登ったり、川で泳いだり、魚を獲ったりと遊んだりし、私にとってはせめてもの故郷でした。
「故郷に帰っても昔と変わってしまった事に失望する場合」や「故郷に対する愛着や誇りが薄れてしまった場合」などに「故郷疑視」と言うそうです。東京一極集中により、地方の疲弊など社会問題とされている中、私はむしろ、時代の変化に取り残されているくらいに見える故郷が愛おしく思えるのです。
(松本 隆盛)
1950年東京都生まれ
2008年より「写真表現 中村教室」に在籍し、中村誠氏、小宮山桂氏に師事