ギンネムの木は、終戦後、破壊された街のあとを覆い隠すようにして、米軍によって大量の種が空中から散布されたのだという。それは国道沿いの傍らに、海の側にある公園に、住宅街の路地裏に、至るところで見つけることができる。
街を歩いていると、見慣れた風景の中にも、殺伐とした痕跡や、生活者が常に政治的な選択と分断を強いられてきた歴史、さまざまな記号やイメージが、幾層にも折り重なっていると感じる。私は、この島が抱える複雑さをひたすらに見つめながら、いくつもの時間への回路をひとつずつ確認するために写真を撮影する。ささやかな事物の記録を前にすると、目には見えない隔たりがじりじりと広がっていくようにさえ思う。それでも、何度風景が塗り変わっても、場所だけは変わらずにここにある。
空から降ってきた種が、琉球石灰岩が剥き出しになって荒廃した道の上に、ゆっくりと芽を生やしていく光景を想像する。覆い茂った木々は、日常の奥底に少しずつ根を伸ばし、夜になると葉を閉じて眠る。
(上原 沙也加)
【トークイベント】上原沙也加×柴崎友香×北野謙 トークイベント「見えるものと見ることができないもの」
上原沙也加写真展「眠る木」の関連イベントとして、ゲストに柴崎友香氏(小説家)と北野謙氏(写真家)をお迎えし、トークイベントを開催いたします。
赤々舎より刊行される写真集『眠る木』について掘り下げながら、写真を通して見ることができるものについて、日常、他者、風景などのキーワードを踏まえて対話します。
■日時:2022年12月17日(土)16:00~
■会場:ニコンサロン(ニコンプラザ東京内)
■参加費:無料
■定員:20名(椅子席、先着順)
1993年沖縄県生まれ。2016年東京造形大学を卒業。消費の対象として作り上げられた「沖縄」の記号的解釈による既存のイメージではなく、誰かの生活の延長線上にある地続きの場としての沖縄の日常の風景をとらえようとした卒業制作「白い季節」を発表。2019年、写真プロジェクト「沖縄写真タイフーン< 北から南から>」で選ばれ、東京・沖縄の二会場にて展覧会「The Others」を開催(キヤノンオープンギャラリー1、 INTERFACE - Shomei Tomatsu Lab .)。沖縄の身近な風景のなかで出会う、ふと誰かの記憶や傷跡に触れるような瞬間や、場所が保持している時間の層の断面を捉えようと試みる一連の写真を展示した。2020年、同作で第36 回写真の町 東川賞新人作家賞受賞。2021年、シリーズの続篇となる「The Others 2020-2021」を開催(IG Photo Gallery)。2022年、赤々舎より写真集を出版予定。