2013年当時25歳、車椅子の母の介護をしながら百貨店で接客業のアルバイトをして生計を立てていた。アルバイトで稼いだ金の一部は大学の学費の為に借りた奨学金の返済に充て、残りはカメラのフィルムや印画紙、憂さ晴らしの為の酒代に消えていった。時間や金に追われるような日々の中で私を取り巻く環境に息苦しさを感じ、どこかへ逃げ出したい気持ちで溢れていた。どこか遠く静かな場所へ、一人きりで旅に出かけたいと、思う存分写真を撮りにいきたいと考えていた。
この作品は主に冬のノルウェーの旅で撮影した写真。田舎町を拠点として明るい内は外に出掛け、現地の人々と交流しながら写真を撮り旅を楽しんでいた。しかし冬のノルウェーは極夜で日照時間は限られている為に撮影できる時間は短く、暗くなると宿に戻り物思いに耽っていた。長い夜の間は何故か日本にいる時のことを思い出し苦しくなる。
ノルウェーのフィヨルドは地形の特徴から日光が遮られ、深海と似たような環境を形成している。私はこのノルウェーの地で光のない深海を彷徨っていた。そして水面から感じられる振動から、かすかに聴こえてくる人々の声に耳を澄ましていた。この作品は他ならぬ自分自身の生への旅の記録である。
(平良博義)
1987年 東京都生まれ。
法政大学社会学部卒業、現在フリーランスフォトグラファーとして活動中。
荒川の河川敷で暮らす人々や自身のルーツである宮古島をライフワークとして取り組んでいる。
2019年12月から写真家中藤毅彦氏が代表を務めるギャラリーニエプス(四谷三丁目)のメンバーに加入。
グループ展
2010年 CP+2010 タムロンブース連動企画 中藤毅彦WS修了展(GALLERY LE DECO、渋谷)
2015年 ヤングポートフォリオ 2014年展(清里フォトアートミュージアム、山梨県)
2016年 山本雅紀×平良博義×瀬頭順平写真展(ZEN FOTO GALLERY、六本木)
2020年 「自由より創造を」(檜画廊、神保町)
2021年 「自由より創造を」(檜画廊、神保町)
個展
2010年 「PERSONAL PLANET」(GALLERY NIEPCE、四谷三丁目)
2019年 「MYAHK vol.1」(GALLERY NIEPCE、四谷三丁目)
2020年 「MYAHK vol.2」(GALLERY NIEPCE、四谷三丁目)
2022年 「深海」(ニコンサロン、新宿)
収蔵作品
清里フォトアートミュージアム(2014年 「日々の川」7点)
出版物
「日々の川」(ZEN FOTO GALLERY 2016年刊)