白線の上をゆらゆらと歩き、落ちたら地獄、そんな遊びを子どもの頃にした。
私は何度か落っこちたので、もう幽霊みたいなものだ。
なにをもって『生きている』と定義付けるのか、それはひとそれぞれだろう。
呼吸、食事、睡眠、性交、労働、娯楽、その他諸々。
それらの歯車が時折軋みながらも進む『日常』は、当たり前に続くものでは決してない。
ただいまと帰る家も、笑い合う団欒も、安らかな惰眠も、なにもかも当たり前ではない。
なにもない私でもただ在ることを赦されたかったけれど、そんなものは高望みだったらしい。
洗剤を呷ってみても驚きの白さにはなれなかったし、欲しいものはいつも手に入らなかった。
だからこそ、なにも持たないこの手でも、創り出せるものが在ると証明したい。
影裏から世界を視詰める、恨みがましさから解き放たれたい。
奪われた選択肢に囚われず、不条理さえもおかしみに、わたしは私を生きてゆく。
(卯月梨沙)
1988年生まれ
2018年より写真表現中村教室に在籍。
小宮山桂氏に師事。