傘が飛んでいた。
小さな頃の記憶、家族で外食に車で出かけた日。
天気は小雨。
見通しの悪い交差点で、一台前の車が傘を差しながら自転車に乗っている人を轢いた。
手に持っていた傘が良く飛んでいたことを覚えている。
両親は現場を決して見せようとしなかったし、警察や救急車等の一連の事故処理を行った後は普段通りの様子を繕っていた。
良識ある大人として当然の行為だが、見なかったことやいつもと変わらない両親の様子が幼い頃の私の恐怖をより煽った。
私たちは毎日同じ日々を過ごしているように感じるが、決してそんなことはない。
「知っているはず」の瞬間の蓄積はゆるりゆるりと、あるいは劇的に未知へと変化していき、その兆しや痕跡はそこかしこに散らばっている。
私の持つ傘も飛んでいく日がいつか来るのだろうか。
そんなことを思い浮かべながら今日を過ごしていく。
(板垣和希)
1992年 新潟県生まれ
2011年 美術館で見た奈良原一高氏の作品に魅了され、写真を始める。
法政大学文学部心理学科入学。
2015年 法政大学文学部心理学科卒業。
2016年 地元の専門学校の写真科に入学。
2018年 地元の専門学校の写真科を卒業。
2019年8月22日〜8月28日
アイデムフォトギャラリーシリウスにて写真展「=」を開催。