岐阜県の山村揖斐川町春日で聞き取りをしている。語りの美しさを伝えたいと思った。
村の人の語りは、村の音や匂いが混じっている。雨乞いの龍は蛇であり、山は蛇の面である。蛇は水をさかのぼってくる。蛇は布にくるまれている。そんな話を聞いていると湖面の光が蛇に、岩が人にも見えてくる。
岩が人ではないとか、水が蛇ではないとか考えることは一方的に正しくない。順番を考えなければ伝えることができない文字や言葉が、目の前のものを区別して伝えるのなら、写真は区別しないものの見方を伝えることができるのではないだろうか。そう考えながら、聞き取りと並行して写真を創作しているが、実は写真を創作するために聞き取りを行っているのかもしれない。
本作品は、全て春日で撮影した写真、また、それを用いた創作である。
(柴田慶子)
1965年 千葉県生まれ
2008年 岩波書店「世界」掲載
2012年 岩波書店「世界」掲載
2019年 第3回「epSITE Exhibition Award」受賞
2020年 日本カメラ2月号に掲載
2020年 岐阜県揖斐揖郡揖斐川町春日森の文化博物館企画展