インドの北東部、アルナチャール・プラデーシュ(Arunachal Pradesh)に暮らすアパタニ族の集落を3年にわたり取材した。中国との国境問題が未解決で、入境するためには特別な許可が必要ということもあり、アパタニに関する正確な情報はまだまだ乏しい。村で目につくのは日の丸に似た「ドニ・ポロ」の旗だ。太陽と月を崇める彼らの信仰のシンボルである。最大規模の祭りは「ミョウコウ」で、先祖を祀り豚やニワトリなどを供犠して豊作や健康を祈願する。9つの集落が3年交代で祭りを受け持ち、それぞれの地域が交流する大切な社交の機会でもある。 アパタニの年配者は顔のタトゥや髷、女性は竹墨で作った鼻栓が印象的だが、現在は禁止されている。近代化とグローバル化により、彼ら独自の文化や生活様式も変わりつつあるが、永年の間に培ってきたコミュニティの姿はまだまだ健在だ。そんな姿を記録したいと考えた。
(榎並 悦子)
1960年、京都・西陣に生まれる。
大阪芸術大学写真学科卒業後、岩宮武二写真事務所を経てフリーランスとなる。「一期一会」の出会いを大切に、人物や自然、風習、高齢化問題など、幅広いフィールドをしなやかな視線でとらえ続けている。
主な写真展に、視覚障害者が暮らす老人ホームの日常をとらえた「都わすれ」、東京の下町を撮った「裏から廻って三軒目」、高齢化率日本一の町を取材した「日本一の長寿郷」、富山県の民謡行事「おわら風の盆 宙ヲ舞う風の旋律」、中国の人や空気をとらえた「今天の旅心、明天の合い言葉」や「秒速50センチの東京」、「Paris-刻の面影」、「ランデブー Avec lumière et une ombre de Paris」など。主な写真集、著作に『都わすれ』、『日本一の長寿郷』、『越中おわら風の盆』、『秒速50センチの詩』、『HALA BIRA~大地を揺るがすフィリピンの祭』、『パリの宝石箱 Bijoux de Paris』、『榎並悦子のマルテク式極上フォトレッスン』、『明日へ。東日本大震災からの3年-2011-2014̶』、『園長先生は108歳!』、『光の記憶 見えなくて見えるものー視覚障害を生きる』などがある。アメリカに暮らす小人症の人々を取材した写真集『Little People』で第37回講談社出版文化賞写真賞受賞。公益社団法人日本写真家協会会員。一般社団法人日本写真著作権協会理事。