2021年4月27日(火)~2021年5月10日(月) 日曜休館、5月2日(日)~5月5日(水)休館
冬の夜、山原(沖縄本島北部に広がる森林)の林内に一歩足を踏み入れると、そこは沖縄とは思えない程空気が冷たく張り詰めていた。沢に下り、温度計を見ると7℃を下回っている。まるで冷蔵庫の中にいるようだ。
月明かりに照らされながら沢を上っていくと不思議な声が聞こえてくる。可愛い声が聞こえてくる。
『ヒョウ、ヒョウ!!』『ピッ、ピッピッピッ…』
かえるさん達の声だ。こんなに寒く冷たい中でも
『ボクはココにいるよ!!』
と、熱を帯びた声で呼びかけている。彼らの声を聞き、私の心は一気に踊りはじめた。
私は冬の山原が好きだ。身も心も引き締まるような凛とした空気がある。ひっそりと咲き誇る花々がいる。そして何より一斉産卵をするかえるさんがいるからだ。
一斉産卵とは文字通りたくさんのかえるさん達が一斉に卵を産むことなのだが、それは1~2日の内に行われる。その時沢は大量のかえるさんで埋め尽くされるのだ。同時にかえるさん達を狙う捕食者達も集まり、沢は“喰う者”と“喰われる者”で溢れかえる。どちらも次代を残すために命をかけた末、半狂乱となる。片や腹がはちきれそうになるまで喰らいつくし、片や最愛の者を溺死させる。
凄惨と思える場面にもかかわらず、迸る凄まじいばかりの生へのエネルギーを受け、私はシャッターを切る手が止まらなくなってしまうのだ。
(氏家 聡)
1977年 神奈川県生まれ
1996年 沖縄にて希少な生物の観察をしながら、その写真を撮り始める。
個展:
2019年7月『かえるさん』(銀座ニコンサロン/東京)
2019年8月『かえるさん』(大阪ニコンサロン/大阪)
2020年3月『Winter night Fever』(PIN-UP Gallery/沖縄)
グループ展:
2017年5月 沖縄本土復帰45年特別展『写真家が見つめた沖縄1972-2017』(沖縄県立博物館・美術館/沖縄)
2018年5月 涯テノ詩聲 詩人 吉増剛造展 連動企画多重露光展(Foto Space Reago/沖縄)