2021年3月16日(火)~2021年3月29日(月) 日曜休館
「十日町市には”仙人”と呼ばれる人が何人かいる」
それまで4年ほど、市内の別集落で取材を続けていた中でそのような噂を聞き、その言葉から勝手にイメージした濃い生き様に触れられると好奇心を持ち、その人物のもとを訪ねた。
日本有数の豪雪地帯、四季の色濃さを肌で感じられる新潟県十日町市。
市街地から40分ほど車を走らせたところにある旧松之山町黒倉集落で、嶋村彰氏はホーリーバジル(日本語名:神目箒、ヒンドゥー語名:トゥルシー)というハーブのお茶農家を営んでいる。
“スローライフ”等の言葉の印象から賛美されがちな農村生活は、決して楽なことばかりではない。それでも、厳しい冬を越えて訪れる春に、苦労を重ねて迎える秋の収穫に、たくさんの人や自然との関わりに喜びを感じられる。
「辛さがあるからこそ、幸せをより幸せに感じられる」という、嶋村氏の言葉。
タイトルには、暮らしの中にある、そのような”陰と陽”の思いを込めた。
都市で暮らす身から見ると、俗世間から離れたような少数派の存在に対し、その風貌も相まってあさはかに”仙人”という言葉を当てはめてしまうのかもしれないが、本人にはそのつもりは全くない。対極にいる側からは”特別”なものとして位置付けられているその暮らしは、本来であれば人の営みの原点であるはずだ。
東日本大震災を経験して、”人と人の繋がり”の大切さを唱える風潮が高まり、昨今のコロナ禍で、人だけではない、この地球の他の生物や自然との繋がりをより考える新しいフェーズが訪れているようにも思える。
写ったものはもう過去であるが、この地球で生きていく上での未来の可能性を見ている気がした。
(小野悠介)
1987年東京都生まれ。
日本大学経済学部卒業後、地図制作会社に勤める傍ら写真に興味を持ち、ウィステリアフォトクラブに入会後、藤村大介氏に師事。日本写真芸術専門学校Ⅱ部(夜間部)、株式会社博報堂プロダクツでのアシスタントを経て、2018年より独立。
学生時代に地方創生の分野に携わったこともきっかけとなり、写真で地域に貢献していきたいという思いを持つようになる。国内の各地域を訪ねて人々の生き様に触れ、日本の未来の可能性を撮り続けている。
【個展】
2017年 「島の環」(コニカミノルタプラザ)
2018年 「結」(TAP GALLERY)
2018年 「島の環2」(ギャラリーヨクト)
【受賞】
2017年 コニカミノルタ フォト・プレミオ 年度特別賞