2021年1月19日(火)~2021年2月1日(月) 日曜休館
鬼魅易犬馬難(きみはやすしけんばはかたし)
―写真によって浮かび上がる断片についてー
「犬馬難鬼魅易(けんばなんきみえき)」は韓非子(かんぴし)に出てくる逸話で、斉王が画工に「何を描くのが難しいか」と問うたときに「それは犬や馬です」と答えた。「では何を描くのが容易か」と問うと「鬼や、もののけです」と答えた。
確かに皆がよく見知っているものを描いて感動を与えることは難しいが、なんと無くおどろおどろしい想像上の化け物は描き手の自由度が増す。
松田正平は「犬馬難鬼魅易」を座右の銘として生涯「犬馬」を描くことにこだわった。
写真もごく日常の中から感動的な光景を抽出するのは難しい。で、松田正平に遠く及ばない私は、日常の中にある妙なものを探して歩く。
そう思ってファインダーを覗くと、写真を写すことによって浮かび上がる光景は写真でしか表せない世界のようにも思えてくる。優れたエッセイが日常の中にあるちょっとした違和感から世界を照射するように、写真でそれが出来ないだろうかなどと思うのだが、なかなか深い思索には至らない。
犬馬というどこにでもある題材の中に潜む不思議さを探して迷い込んだ世界は案外魑魅魍魎の跋扈する場所なのかもしれない。それとて所詮人の作り出した世界、何かしらの懐かしさも感じるのだが。
(下瀬信雄)
1944年 満州国新京市生まれ
1967年 東京綜合写真専門学校卒業。以後萩市を拠点に作家活動を続ける。
1980年 杉道助賞(萩市芸術文化奨励賞)
1986年 山口県芸術文化振興奨励賞
1990年 日本写真協会新人賞
1998年 山口県文化功労賞
2003年 インターナショナル・ブロドキャスティング・アワード(IBA)
2004年 山口県選奨
2005年 第30回伊奈信男賞
2009年 第63回山口県美術展覧会 大賞
2015年 第34回土門拳賞
2019年 山口県立美術館 開館40周年記念 下瀬信雄展「天地結界」開催
ニコンサロンを中心に個展・著作多数、作品は米・プリンストン大学、山口県立美術館、土門拳記念館などに収蔵されている。
山口県萩市在住