2020年11月17日(火) 〜 2020年11月30日(月) 日曜休館
2021年1月21日(木) 〜 2021年1月27日(水) 日曜休館
人生の半分を育った島から離れて暮らした。ちょうど三十歳を過ぎた頃だったろうか。
ふと故郷の海のことをもっと知りたくなった。
私は長崎県西彼杵(にしそのぎ)半島の沖合に浮かぶ小さな島で育った。あたりの海域はリアス式の複雑に入り組んだ地形で、日本の中でもっとも離島が多い。そこは有人島が70あまり、無人島も含めると約600もの島々が点在する多島海だ。島の西の沖には、遠く五島列島が連なっている。幼い頃からその海の向こうを見続けてきた。
島々は大陸に近く、古くから様々な人間や文化、宗教が海を越えて交わってきた。仏教は中国からもたらされ、神社も各地に存在する。大航海時代には、ポルトガル人やスペイン人がこの地にキリスト教を伝えた。そして、弾圧を生き延びたかくれキリシタンたち。この海では今もそうした信仰が混在し、共生する。人々は信じるものにかかわらず、同じその海で魚や鯨を獲り、急峻な土地を耕してきた。その営みの積層の上に、今の私たちは在る。
私は大人になったある日、はじめて目の前に広がる海を旅してみようと思った。
(田川基成)
1985年生まれ、長崎県の離島出身。
北海道大学農学部森林科学科卒業。
自身のルーツと暮らしてきた土地や旅の経験を通し、「移民」と文化の変遷、土地と記憶、宗教などに関心を持ち作品を撮る。2018年、千葉に住むイスラム教徒の移民家族の5年間を写した「ジャシム一家」で第20回三木淳賞受賞。
写真集
2020年 『見果てぬ海』 赤々舎
個展
2018年 「ジャシム一家」 新宿/大阪 ニコンプラザ THE GALLERY
2018年 「ジャシム一家」 札幌市教育文化会館
2017年 「ジャシム一家」 銀座/大阪ニコンサロン
グループ展
2016年 「Photobook as Object」展 Reminders Photography Stronghold (墨田区、東京)
2016年 「Between The Rivers」 東川国際写真フェスティバル