“If apricot trees begin to bloom (あんずの木に花が咲き始めたら―)”
早春の不安定な気候を謡ったキルギスの伝承話の一節の始まり―。
春、山岳地帯からの雪解け水が川に流れ出る。昔からキルギスの民話では水は聖なる対象として描かれ、豊かなインスピレーションを生む源泉であり、人間の生活と密接に関わる存在として伝承されてきた。
キルギス共和国東部の天山山脈の氷河と雪解け水に発し、ウズベキスタン共和国東部のフェルガナ盆地までの約800kmに及ぶナリン川。この水はやがて、アラル海へと注ぐ。
2012年から14年に、キルギスを訪れた時に、このナリン川を中心とした村々に滞在した。14年2月、現地で知人の出産に立ち会った際に、病院の窓から何気なく撮影した静かな真冬のナリン川。今回キルギスとウズベキスタンを訪れ、この川の上流から取材を始め、人々の営みを記録した。源流の氷河は温暖化により縮小し、金の採掘が続く。水資源管理の問題などに直面しながらも、ナリンの水は、川の周囲に暮らす人々の日常に溶け込み、変遷しながら西流していく。
(林 典子)
<新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止いたしました写真展の会期を変更して開催いたします>
1983年生まれ。
イギリスのPhoto Agency「Panos Pictures」所属。大学時代に西アフリカ・ガンビア共和国の新聞社「The Point」紙で写真を撮り始める。
第7回名取洋之助写真賞、さがみはら写真賞新人奨励賞、フランス世界報道写真祭「ビザ・プール・リマージュ」金賞、全米報道写真家協会(NPPA)組写真部門1位、第16回三木淳賞など受賞。
15年、世界報道写真財団によるJoop Swart Masterclassに選出。The New York Times、 ナショナル ジオグラフィック日本版、Der Spiegel、Newsweekなどに寄稿。
著書に、「キルギスの誘拐結婚」(日経ナショナルジオグラフィック社)、「ヤズディの祈り」(赤々舎)、「フォト・ドキュメンタリー 朝鮮に渡った日本人妻 60年の記憶」(岩波新書)など。