普段よく通る道を歩いていると一軒の家が取り壊されている場面に遭遇します。
シートが掛けられていたり既に更地になっている場合もあります。さて、ここにはどんな特徴の家が建っていたのか、その家と何か縁があったということがない限り 思い出すことはできません。
建物はこうして人知れず消えてゆきその肖像は人々の記憶の底に沈んでゆきます。
これが繰り返されれば街並みそのものの変化すら記憶の底から消えてゆくだけしょう。とすると絶えずその姿を変えている都市や街並みの確かな原型は、そもそも存在しないものなのかもしれないと思ってしまいます。
バブル経済が終焉した頃の東京にまだ残存していた、しかし近い将来消滅してしまうであろう昭和のにおいを残す建物や街並みを記録しておこうと思い立ったのはそれらに対する愛着と共に、都市とは街とはいったい何なのだろうという思いを持ったからに他なりません。東京が2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて至る所でスクラップ・アンド・ビルド を繰り返して変貌し続けている今、再びその思いを強く感じています。
(上田幸孝)
1952年 東京都生まれ
1975年 中央大学卒業後メーカー勤務
2009年 現代写真研究所入学
2012年 定年退職
現在、現代写真研究所 金瀬ゼミ所属、日本リアリズム写真集団(JRP)会員