第23回酒田市土門拳文化賞受賞作品展
ストラーン 久美子 写真展
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横須賀ブルー ペルリ164年目の再上陸を想起する
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6/29 (木)
~7/5 (水)
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
会期中無休
写真展内容
黒船の砲艦外交から163年、ペルリ(幕府文書・以下一般名辞としてペリーを用いる)の恫喝外交は、良くも悪くも、形を変えながら続いてきました。
ペリー提督、マッカーサー元帥、そして今、黒船を想起させるトランプ新大統領の未知数の力が日本に忍び寄っています。寛容と多様性に重きを置いてきたアメリカという国のあり方を不透明にしています。米軍基地で長く働いている私の実感です。
ペリーは日本の土を初めて踏んだ刹那に「ペリーアイランド」と口にしたといいます。アメリカ海軍第7艦隊所属の空母や艦船が入港して、私のオフィスの窓を覆うたびに、その威丈高な光景が「私の島」と感慨を漏らしたペリー上陸と重なります。それは、新大統領の強権的な発言にもつながるのです。
日本に開港を迫る手段を「威圧」が最も有効と計画したペリーです。その一方で、黒人の人権擁護の立場をとった人でもありました。日本上陸の際、側近には複数の黒人を就けていたことは、アメリカの多様性の現れでした。
1854年、日本は不平等な和親条約を締結しました。しかし国の母体を失うことはありませんでした。古来、よろずの神を受容して祭ってきたように、幕府はペリーというひと柱の渡来の神を受け入れたのです。
街のいたるところで渡来神と戯れる日本人の姿が見られるのが横須賀の町です。この平和な光景はアメリカの神がもたらしたと、米軍人たちは心の内で確信しています。安全保障条約においてアメリカが日本を護っている、という声は、今後のアメリカ国内で大きくなっていくと予感します。東アジアが過去になく緊張をはらむようになった今、そしてトランプ氏が新大統領に選出された今、日本の軍備拡張につながらないのか、私には一抹の不安がきざしています。
アメリカと日本、二国にどのような未来が待ちうけているのか、改めてペリー上陸の意味を考えています。 (ストラーン 久美子)
受賞理由
アメリカ・トランプ大統領の出現は、世界を震撼させ、国内では原発事故による放射能汚染が明日を暗くしている。このように写真は時代や社会の混沌を鏡のように写し出し、未来に向けての、“語り部”の役割を果たしている。
土門拳文化賞は土門拳が確立した、「リアリズム写真」の精神にのっとり、言わば写真本来の力である記録性を基に、新たな地平を切り開くことを目的としている。
今年23回を迎え、賞の方向性と、かたちが整い、それを踏まえた国内はじめ、アジア、欧米にモチーフを求めた多彩な作品が寄せられた。その全体を大雑把に分けると、祭事を捉えた作が目を引き、アジアを主にした海外の作も思いのほか多かった。祭りも異文化も視覚的に豊かだからだろうか。
そうしたなか、トランプ米大統領の言動が波紋を広げている時、70年余りにわたってなお、アメリカの金縛りになったままの基地問題を、鋭く突いたストラーン・久美子さんの作は、時節と相まって秀逸だった。 (江成 常夫)
「1853年(嘉永6年)アメリカ使節ペリー艦隊を率いて浦賀水道に来る。翌年ペリー久里浜に再び来る。日米和親条約を締結する」と歴史教科書には記してある。
ストラーン久美子さんの「横須賀ブルー」はこの大テーマの今を横須賀周辺で映像化した。
久美子さんは高校生の時に渡米し20年間アメリカにいたという。帰国後、座間基地で13年、今は横須賀の基地で10年働き、実感した日米のカルチャーの違いを米兵や日本人に教えている。
自宅の窓から沖を行く黒船が見える。基地内の撮影は許容範囲の中で写せるという利点を生かしている。
写真歴は4年足らず。何処にも応募せず、満を持して、今回土門拳文化賞に応募した。はっきりとしたポリシーを持って写した写真は強い。お世辞にもいい写真がたくさんあるとはいいがたい。それ以上に、写真の実在性やリアリティがある。 (藤森 武)
作者のプロフィール
ストラーン 久美子
1955年東京生まれ。1974年アメリカ高校留学を機に米国在住20年を経て1995年に帰国。米軍基地日本人従業員として採用され現在に至る。
2013年6月、感動させられたある一枚の写真との出会いから一念発起し初めてのカメラを購入。以後、横須賀を基点に歴史、文化、人に焦点を当てた撮影活動を続けている。
2015年9月「横須賀ブルー」(初版蛇腹本)作成。