写真展内容
それは、前触れもなくやってくる。
バンコクという街の「匂い」、「風」、それから「人」に触れたい、ふれられたいという衝動。
私はその衝動に駆られるたびに、かの地を訪れ、五感に従って歩き続ける。
2015年、タイの人々を恐怖に陥れたテロの時も、プミポン国王が亡くなった時も気が付いたら私はバンコクにいた。
何が私を引き寄せるのだろうか。
自国が恐怖や哀しみに包まれた空気の中で、かの国の人々は、旅人の乾き震える胸裏に、てらいなく「水」を手向けてくれる。
その思いやりの「水」は、この土地で長く養われた、この土地の人々が持ちあわせる真心ではないだろうか。
その昔、バンコクでは、「ナム ジャイ」と呼ばれる無料給水所が街のあちらこちらにあったという。
給水所は街の発展とともに姿を消して、繁栄を続ける街に、ナム(水)ジャイ(心)「心の水」という意味の言葉が残った。
見返りを期待せずに持てるものを人と分かち合う「心の水」、私はこの水に触れ、ふれられていたことに気づいている。 (鈴木 恵理子)
カラー約40点。
作者のプロフィール
鈴木 恵理子(スズキ エリコ)
1960年 東京都生まれ
慶応義塾大学文学部卒業
大正大学大学院人間科学修士課程修了
日本航空国際線客室乗員部を退職後、教育研修の講師を務める。
現在、アジアを中心に写真活動を展開している。