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ニコンサロン bis 新宿 2015年12月

juna21 第17回三木淳賞受賞作品展
阿部 祐己写真展

写真
新しき家
12/1 (火) ~12/7 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

写真

私の母方の実家は代々農業を生業としてきた。築83年になる母屋の建て替えが決まり、私は二つの家を撮影する機会に恵まれた。

標高950m、風が戸を叩き凍みいる平屋。農家は雪解けと共に家を出た。最初に家具が消えて空っぽになり、田植えの後には柄入りのガラス戸も消え、解体の神事を終えた後、平屋は昔の面影を見せた。

いつもと変わらず農家は畑に通い、傍らで新居の工事が進む。ハウスに絡む蔦のように骨組みに巻き付いたコードが血管にも見えて、次第に肉を付け人の住処になっていく。まだ人の匂いがしない家も年月と共に皺が刻み込まれ、在りし日の平屋のように柱も少しずつ曲がり、いつか歳を重ねた老人のような面影を見せる日が来るのだろう。

毎年繰り返されてきた農作。農家の住処であり続けた家。ずっと続くと思っていた景色も少しずつ変わり、いつか訪れる節目。畑が広くなり冬を越えて、また新しい年がくる。

私は家と人の一生を、どこか重ね合わせて撮影していた。(阿部祐己)

カラー30点。

授賞理由

旧い住まいから新しく建築中の建屋に転居する過程を見つめた記録から生まれた、自照の記録である。
その家は故郷の母の実家である。作者が帰省するたびに古い母屋の解体は進む。座敷には散乱した見覚えのある家具、神(かみ)下(おろ)しされてしまった神棚、大黒柱の礎石があらわになった床、襖も取り払われてがらんどうになった部屋に風が吹き抜ける。幼い頃、母に連れて来られた時の幸せな思い出が、訪れるたびに消滅していく風景に作者は戸惑う。
しかしこの作品が優れているのは、ノスタルジックな記憶の喪失に落胆する域に留まっていないところである。転居の過程を記録しながら、時のサイクルのなかで生かされている自分自身に出会い、己の内にこそ「新しい家」を造らねばならないのだと、転居と同時進行に己が覚醒させられてゆくプロセスが表現されている。

展示作品は、古い家屋の破棄、新築中の柱、引っ越しなどの推移の記録の中にビニールハウスの風景が四枚、季語のように用意されていて― 春の種蒔き、夏の星空、秋の柿、雪に埋もれてランプに輝くハウス― 季節と共にある生活を表現している。さらにそんな写真の中に、葬儀の門送りの様子を遠望する視線がさりげなく一枚組み込まれている。姻戚の者の旅立ちであろうか。変わりゆく世代の交代を身近に実感したのだろう。このようにして作者は自分自身の位置を故郷で起きている様々な事象を通して、自覚させられていったのであろう。都市の中での生活では、日々に追われて過ぎる時間を具体的に実感することは難しいものだが、時々帰省することで時間に追い越されている自分を発見する姿をこの作品に見ることができる。
「新しき家」というタイトルは、作者自身が目指すべき状況を隠喩的に示したものといってよいのではないか。秀作である。 (選評・土田ヒロミ)

作者のプロフィール

写真

阿部 祐己(アベ ユウキ)
1984年生まれ。2011年日本写真芸術専門学校卒業。同年写真新世紀において作品「ボイジャー」佳作入選。12年同「HALO」佳作入選。13年キヤノンフォトグラファーズセッションにおいてファイナリストになる。14年三菱商事アートゲートプログラム入選。15年2015 The 8th Jeonju International PHOTO FESTIVAL(全州郷校(韓国・全州市))招待作家。

juna21 三木淳賞奨励賞受賞作品展
山本 雅紀写真展

写真
山本家
12/8 (火) ~12/14 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

本展は作者の家族を撮影した写真展である。
作者が小学校3年生のころ、一家は強制退去で家を追い出され、1カ月ほど車中生活を経験した。その後、子供は児童養護施設や乳児院へ預けられ、一家離散になった。2年と半年を経て再び家族一緒に暮らすことになったが、しばらくは貧しかったと作者は記憶している。家族一人ひとりでみても、いじめや引きこもり、病気や素行不良などそれぞれの過去があり、それが山本家の過去と絡み合って現在の生活や家族の関係がある。
そんな山本家は、人間臭くてありのままで、とても魅力的であり、作者の個性を目一杯満たしてくれる被写体である。ここが自分の出発点であり、帰ってくるところなんだと作者は認識することができた。
この作品を見て、共感する人もいれば拒否する人もいると作者は思う。何に共感しどう否定するのか。“自分にとって「家族」や「幸せ」とはどういうものか”、投げかけることができれば面白いと思っている。モノクロ45点。

授賞理由

この作品は、作者の山本さんが自宅の中で自分の家族の日常を撮ったものである。
居間、台所、寝室、食卓に、父母妹弟が折り重なるように写されている。その様は演劇的演出がなされているかのようにも見え、常識的家庭生活の日常の記録とはとても思えない。また暴力的ともいえるフレーミングは、一見、非日常的なおそろしいばかりの真迫力を引き出しているが、よく見ていくとカメラに対して親和的であることがわかる。
この家族は、一体何ものか?常識では計れない高い親和的関係はどこからくるのだろうか?その過去や背景を求めたくなるが、ここでそれを明かすことはこの表現の目的ではない。
すべての家族たちの表情には、互いに隠すべきものはない。撮り手が家族であるとしても他人に通ずる可能性のあるカメラを気にするふうには見えない。まるで人の体内の内臓のように複雑に絡み合った構図は深い愛によって繋がれている証だ。小宇宙のように満たされている家族が映し出されている。現代、我々は<家族とは一体なにか>という命題から自由ではない。「山本家」は驚異の家族の驚異の愛の物語である。 (選評・土田ヒロミ)

作者のプロフィール

写真

山本 雅紀(ヤマモト マサキ)
1989年兵庫県生まれ。2012年日本写真映像専門学校卒業。13年から14年までニュージーランドに1年間滞在。14年から京都新聞社写真報道部に所属。

juna21 五十川 満写真展

写真
面様 ~高千穂 夜神楽~
12/15 (火) ~12/21 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

作者が生まれ育った宮崎県延岡市、そこから車で一時間ほどの所に高千穂町はある。神話の町、高千穂に伝わる夜神楽。高千穂に伝わる国の重要無形民俗文化財「高千穂夜神楽」。地元の人々は一年に一度の夜神楽で自らが面を着け神様となり舞う。古事記のエピソードも多く含まれており、地元の人々によって神話が語り継がれている。
高千穂の人々は舞の際に使用するお面を面様(おもてさま)と呼び、それぞれの地区の自宅の神棚や神社の社殿の中に神様として祀っている。奉仕者(ほしゃどん)の人々の日常、舞う直前の奉仕者が面様を着けた姿、高千穂の古事記にまつわる場所、地元の人々が神様と崇める面様を、地元の人々の協力のもと、撮影をさせていただいた。
天孫降臨の地、高千穂にて面様を着け、人が神になる瞬間を少しでも多くの方に感じていただければと作者は思っている。カラー50点。

作者のプロフィール

五十川 満(イソガワ ミツル)
1985年宮崎県生まれ。2008年写真家・宮澤正明氏に師事。13年伊勢神宮125社(御正宮、別宮、摂社、末社)すべてを撮影。宮澤正明氏のもと伊勢神宮で20年に一度の「式年遷宮」の撮影助手を務める。14年伊勢神宮初のドキュメンタリー映画「うみやまあひだ」の監督助手を務める。15年宮崎県高千穂夜神楽面様(夜神楽で使用される面)をテーマに撮影。同年フリーカメラマンとして独立し、雑誌やweb媒体を中心に活動。同年「みやざき館」(JR新宿駅南口サザンテラス内)のガラス壁面・館内に夜神楽の作品が使用される予定。

河端 一二三写真展

写真
お不動さまの庭・成田山
12/22 (火) ~12/29 (火)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

作者が成田山のお不動さま参りを始めてから、およそ40数年の歳月がたった。
成田山は関東三十六不動結願のお寺としてよく知られており、新春の初詣から師走の納め不動まで心願成就の道場としてたくさんの人々が訪れている。
「お不動さまの庭」は、JR成田駅から表参道、本堂を経て成田山公園に至る広大な敷地のことを称している。ここは豊かな自然に恵まれている。さらに国の重要文化財がいくつも存在している。また、年間を通して庶民参加の多くの行事が開催され、全国各地から訪れる人で香煙が絶えることがない。
作者は長年レンズを通して「お不動さまの庭・成田山」でのさまざまな事象を見つめてきた。そこには祈願成就の人々、不安を振り払う清々しい洗心の祈り、また、四季折々の行事に参加する人々のリフレッシュされた無心の笑顔がある。
作者は盤寿を記念して、お不動さまとの長い触れ合いに感謝し、ここにその意を表す。モノクロ41点。

作者のプロフィール

河端 一二三(カワバタ ヒフミ)
1934年北海道生まれ。2004年に70歳の定年退職を機に写真活動に入る。ニッコールクラブ会員としてサロン・ド・ニッコールで学ぶ。ニッコールクラブ千葉支部、写団モノクロに所属。

12/30 (水) ~1/4 (月)
年末年始休館
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