ニコンサロン bis 大阪 2012年1月
写真展内容
タボサンは唐辛子の瓶を丸ごと口の中に入れる。それを見る度に僕は大きく笑う。
タボサンは汗をかき、涙を浮かべる。きっと、タボサンにとってもそれは大変な事なのだろう。ただ、僕を楽しませてくれているのかもしれない。
ある日、タボサンと連絡が取れなくなった。僕はタボサンの立場を知っているから不安になった。
僕とタボサンがあったのは二年前。ミャンマー人の友達のゾウが紹介してくれた。タボサンさん。ゾウはそう言って少し笑った。
タボサンは難民だ。正確には難民の申請中だ。でも、僕とタボサンの間柄にはあまり重要なことではない。ただ一緒にいたいだけなのだ。
タボサンは僕と会う少し前まで入管の収容所に8ヶ月収容されていた。僕達はその時出来た友達の所を訪ねに行く。神奈川や山梨、栃木に群馬。皆、仮放免という一時的な保釈状況にいる。何年も申請し続ける者も少なくない。そして、いつまた収容されるかわからない。
ガラスに仕切られた部屋にタボサンが来る。
「スリランカの家族に電話してる?」と聞くと、「してる」と答えた。「でも、収容所に入ったことは秘密にしてて普段と変わらない」と、答えた。タボサンは母親が心配するから、と嘘をついた。
タボサンが写っている写真を毎回差し入れた。タボサンはゆっくり写真を見て、ニコニコしている。「ありがとう」タボサンは僕に言う。
その内、家に入管から手紙が届くようになった。封筒の中には手紙の他に絵も添えられている。ヘンテコな絵だけど、毎回僕を楽しませてくれる。モノクロ30点。
授賞理由
作者、添田氏と難民申請中のタボサン氏の交遊の記録である。
現在日本政府に難民指定の申請を出し続けているミャンマーから出国してきたタボサン、しかし、タイトルにあるように「not yet refugee」である。
日本の入国管理局は、先進国の中でも厳格な制度を布いて、容易に申請を受諾しない。その、国内的状況を、表現対象としているのではないが、08年に作者は、偶然なことから、タボサンと交流を持つ関係になる。不定期に難民収容所の収監、出監を繰り返させられるタボサン。収容所内からの作者への手紙、解放されて友人を訊ね歩くタボサン、突然の再勾留。そんな経緯の中で、二人を取り巻く日常の関係を淡々と記録している。
しかし、作品内容は、単に二人の関係性に留まるものではない。核心は、今日的な制度のなかでは、「人」は、何処に所属するか? したいのか? 許されるのか? そこから疎外されることの怖れを提示していることである。
われわれは、日常的に国家という枠を意識することなく生きているが、タボサンが格子戸のむこうへと収監されてゆく後ろ姿を眺めながら、添田は「日本国」という抽象を収容所という物理的な空間の向こうに意識化している。タボサンが消えた向こうが日本なのか? 見送っている自分側が日本なのか? 己が立っている位置は、一体どこか? という自己相対化の想念にまで、彼は、行き当たっている。
人は、多くの枠に所属して生きている。家族に、会社、地域社会、そして国家に。そこから逸脱することで発生する困難と怖れを、「Not yet refugees」は淡々とした日常の記録で見事に表現している。
日本という特殊事情を背景に、添田のメッセージは、人は皆、地球人であると言うことであろう。
作者のプロフィール
1984年東京生まれ。08年日本写真芸術専門学校夜間部卒業。鈴木邦弘氏に師事。09年桑原健太と桑田企画を設立。同年桑田企画Magazineを創刊。
写真展に、09年「seifu show 2009」(清風荘)、10年「seifu show 2010」(武蔵野公会堂ホール)などがある。
写真展内容
どうしてこんな写真を撮ったのか、自分でもわからないことがほとんどだ。
子供の頃にあった×××は、大人になった自分から、もうすでに遠くにあるイメージになってしまった。
あの頃とても怖かった×××に、もう一度出会えるかもしれない、というある種のこわいもの見たさからシャッターをきる。目の前に近づいてきては、すぐに過ぎ去ってゆく現実。目をつぶっても現実は消えることはない。それらは写真におさめることで、作者からも、日常からもほんの少しだけ離れて、子供の頃の×××を思い出させる。
すべてが消えてなくなる前に、シャッターをきり、イメージせよ。
作者は自分に言い聞かせる。
※「×××」は、作者が子供の頃にきっと見えていた、言葉に表せない何かである。
授賞理由
吉原氏の「よびみず」は、日常にあって己の無意識の底に封じられた感情や記憶を「写真を写し撮る」という行為で活性化させ、浮上させようとする試みである。
内なる深層に向かうために、外へと向かう身体的写真行為が「よびみず」となって、内なる基層の意識構造をも引き出せないかというあがきにも似た行為。現れたものは、期待を裏切るものになったのではなかろうか。写真に現れるものは、あくまでも具体で断片、構造として現れることはないからである。
作者はそれに絶望することなく、それらの断片を繋ぎ、写真展という空間の中に解き放す。断片としての一枚のイメージを大サイズ(タテ200cm×ヨコ150cm)、ピンナップ形式という展示構成することで、イメージを相互に浸透させ構造化することに成功した。結果として、目的とした過去のイメージや記憶を具体として何かを見いだしたのだろうか。逆説的だが、見出せないことを見出したということかもしれない。
写真に繰り返し使われている暗いディテールの平面は、深層に向かおうとする意図を阻止されたという証か? それとは対照的に、空に広げるパラボナアンテナ、闇に赤く輝く電波塔等は、遠くの他者から未知なる信号を受納したいという意識を表徴としているように見える。阻止と願望の葛藤を空間をかりることでイメージとして結んでいるのがよい。
かつて作者には「カプセル アパート」(07年ニコンサロンJuna21)という社会学視点に立った作品がある。「よびみず」は、そこから大きく逆に揺れた作品。その振幅には、豊かな才能を確認することが出来る。
作者のプロフィール
1980年兵庫県生まれ。
写真展に、03年「カプセル アパート」(PLACE M/東京)、07年同(新宿ニコンサロン・大阪ニコンサロン)、08~09年7回連続展「吉原十景」(PLACE M/東京)、10年「晴天乱気流」(TAP/東京)、「カプセル アパート」写真集出版記念展(TAP・PLACE M/東京)、11年「#1」(TAP/東京)などがあり、写真集に「カプセル アパート」(2010年・TAP刊)などがある。
写真展内容
今回の写真展に集まった写真は、関西スポーツ紙写真部長会加盟社(スポーツニッポン、日刊スポーツ、デイリースポーツ、サンケイスポーツ、報知新聞、共同通信、中日スポーツ、大阪スポーツ)のカメラマンが、2010年12月から2011年12月上旬までの間に撮影した力作である。
内容は、プロ野球、アマチュアスポーツ、芸能、社会などだが、各社の若手カメラマンの育成を主眼に選考した作品で、この1年間をふり返ることができる。
団体のプロフィール
<関西スポーツ紙写真部長会>
1977年、在阪スポーツ紙(日刊スポーツ、報知新聞、スポーツニッポン、サンケイスポーツ、デイリースポーツ)の5社の写真部長により“関西スポーツ紙写真部長会”が発足。81年には共同通信、中日スポーツの2社が参加、95年度には大阪スポーツ新聞社が参加、以後8社の写真部長が例会および総会(年間最優秀賞選考会)を今日まで行ってきた。年間の最優秀賞選考と表彰が行われてきたが、今回のような写真展は21回目である。
写真展内容
2年前に写真と出合い、写真を学びはじめた学生たち。彼らが新しい旅立ちを迎えるにあたって、「写真の力」のみなぎった作品を展示する卒業制作展である。
学生生活の終わりを迎えるにあたって、2年間に学んだ様々な表現方法を用いての、個性あふれる魅力的な作品が勢揃いする。
団体のプロフィール
日本写真映像専門学校は写真学科、映像学科、ホテル専門学科、フォトファイン学科(夜間)に分かれており、写真学科は2年次に写真表現コースと営業写真コースに分かれる。写真表現コースは、主に広告写真・ファッション・スタジオライティングを学び、営業写真コースは、主にポートレート写真を学び、就職先の写真館やホテル、ブライダルフォト等の業界を目指し、日々学習している。
卒業生:梅 佳代・浅田政志