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Japan
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新宿ニコンサロン 2011年11月

juna21 林 典子

写真
硫酸に焼かれた人生・パキスタンの女性たち
11/1 (火) ~11/7 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

人口約1億5000万人の国、パキスタン。この国では、家庭内暴力の延長や求婚を断られた報復などの理由で、女性の顔に硫酸を浴びせ、火傷を負わせる事件が次々と起きている。被害者は毎年150~300人、その半数は11~20歳の少女たちと報告されている。
作者は、2010年7月から2ヶ月半パキスタンに滞在し、硫酸の被害に遭った女性たちと寝食を共にしながら、彼女たちの家庭やシェルターでの生活を追った。
ナイラ(20歳)は、13歳の時に求婚を断ったため、報復として硫酸をかけられた。セイダ(22歳)は2008年、夫から突然顔に硫酸をかけられた。硫酸による火傷で、ナイラは左目と左耳を失い、セイダの顔から首にかけての皮膚は溶け落ちてしまった。
現在のパキスタンでは、被害に遭っても加害者が警察を買収したり、被害者に裁判で争うお金がないなどの理由で、訴えが認められて有罪になるのはごく僅かである。また、農薬などに使われている硫酸は100円程度で簡単に購入することができ、被害は減らない。
女性にとって顔が損壊される、これほど屈辱的な暴力はない。しかし、今回作者が撮影した女性たちは、毎朝鏡に映る自身の顔をしっかり見つめ、過去の傷を背負いながらも、その現実を受け止めて生きていこうとしている。
本展では、被害者たちと同世代の女性である作者なりの視点で、彼女たちの身に起きた悲惨な過去や、一生消えない傷を心に抱えながらも前を向いて生きている強さを、写真を通して伝えようとしている。カラー33点。

作者のプロフィール

1983年神奈川県生まれ。06~07年ガンビア共和国(西アフリカ)現地新聞社「The Point Newspaper」紙で、写真スタッフとして活動。第7回DAYS国際フォトジャーナリズム大賞パブリックプライズ受賞。タイ外国人記者クラブ On Asia Photojournalism Contest 2010「人権部門」奨励賞受賞。
作品は清里フォトミュージアムに収蔵されており、また、作品が掲載された雑誌は「DAYS JAPAN」「アエラ」「Der Spiegel」などがある。

森谷 雅人

写真
「約束の地」 KAWASAKI DEEP SOUTH 2010-2011
11/8 (火) ~11/21 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

明治以来、京浜工業地帯の中心である川崎南部の工場群は、地元のみならず、関東近県から職を求めて集まった多くの人々を労働力として必要としていた。その確保のために社宅、寄宿舎、公営住宅などが建てられ、上水道、路線バスなどのインフラを整備して、安定した生活と街の発展を約束するというシステムによって成り立ってきた。
このシステムによって生まれた南部の街を「歩き」、よく「観察し」、そしてそれらを「繰り返す」ことによって、ごく普通の住宅街であても、得体の知れないオーラをともなった超然とした風景に出合うことができる。モノクロ約40点。

作者のプロフィール

1960年生まれ。神奈川県出身。中央大学理工学部精密機械工学科中退。2010年より金村修ワークショップに参加。

juna21 Michelle Given

写真
Accommodations
11/22 (火) ~11/28 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

作者の両親は20代後半で結婚して子どもを持ち、それから30年もの間、住まいや仕事を変えたことはなかった。作者以外の家族は実に安定しているが、作者や友人のライフスタイルは分散的で転居が絶えず、旅にも出れば転職もし、親密な人間関係の間を循環している。
作者はよく、どうすれば自分を知ることができるのか、一見変化し続ける渦中にいる作者を他人がどう理解できるのか、を考える。
この考えをさらに探求するため、ホテルやコンピュータラボ、スタジオ、友人、知人、家族の家など、自宅以外で作者が眠りについた場所の記録を始めた。
自分をフレームにおさめて写真を撮ることで、あらゆる種類の空間や物が、何も自分を示していないこと、写真にはそれが作者自身そのものだと思わせるような影響力があるかもしれないが、その理解は正しいとはいえない。それは写真に写っている部屋とそこにあるほとんどのものは作者のものではないからだ。
今回の写真と手法にある不自然さは、作者がセットのような部屋に役のない無名の登場人物として住むところにある。
この作品は、アイデンティティーや孤独、表現、属性、無情の探求なのである。カラー30点。

作者のプロフィール

1982年生まれ。写真やビデオの制作、展示を中心に活動するアメリカのケンタッキー州マレー在住のビジュアルアーティスト。2008年インディアナ大学にて写真の分野で芸術学・写真学修士号を、オタバインカレッジでイングリッシュ・クリエイティブライティングと写真を中心としたスタジオアートの2つの分野で学士号を取得。デポー大学やアイビーテックコミュニティーカレッジ、そしてグッゲンハイムの同僚オサム・ジェームズ・中川氏やジェフリー・ウォリン氏とともに学んだインディアナ大学で教鞭をとる。現在は、マレー州立大学に写真学の助教授として勤務。

第36回伊奈信男賞受賞作品展
李 尚一 (Yi Sangil)

写真
光州 望月洞 (Gwangju, Mangwoldong)
11/29 (火) ~12/5 (月)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

写真

北アフリカのリビアを42年間にわたって統治してきたカダフィは、民主化を要求する市民に銃を向ける独裁者に転落した。2011年2月には、デモ隊に向けた無差別発砲によって200人余りの死者を出した。
1980年5月18日、韓国でもリビアのような民主主義の抵抗闘争があった。武力で掌握した全斗煥政権の退陣と民主政府を要求するデモが全国的に起きたのだ。その中でも激しい闘争となった韓国の地方都市光州では、デモ隊に向けて軍部隊が発砲する事態にまでなった。
当時作者は写真家としてではなく、命令を命として従順でなければならない軍人の立場にあって、市民に銃口を向けた。
全斗煥政権は、デモ隊に向けて野蛮な発砲命令を下し、190人余りが死亡、900人余りの負傷者を出す事態となった。その犠牲者をひとところに集めたのが望月洞墓地であり、ここを作者は、84年から現在まで写真を撮り続けている。
一方的な命令を命としなければならない軍人と、祖国の民主化をめざす青年というそれぞれの立場に立っていたという理不尽な理由によって、死者の肉体的な死と、作者の精神的な死がもたらされなければならなかった。
その辛く悲しい時を、その恨みを、作者は解きたかった。その混乱とともに変化の時間が流れて、自分自身の「望月洞」という息を殺した叫びは、死者と作者の暗鬱だった時代の容赦と和合の対象だった。
望月洞に罪心を持つ一人である作者は、自責を持って生きていく痛みを作品で訴えている。
モノクロ作品。

授賞理由

第36回伊奈信男賞は、長い年月にわたって「光州事件」の現場と向かい合ってきた韓国の写真家李 尚一氏の「光州 望月洞」に決定した。
1980年5月、全羅南道の光州で軍事独裁政権からの民主化を求める市民や学生と韓国軍とが衝突し、多数の死者と犠牲者を出した事件であり、作者はこのとき歴史の現場に居た。しかもそれは、情報収集のためのカメラと銃口を市民に向ける特殊部隊の兵士としてであった。
数年後の除隊を機に、軍隊で強いられた写真を志す覚悟のもと大学に進学し、カメラを手にして光州を再訪する。以来20年にも及んで自らを問い、光州と向い合うことになるのだが、写真が発する張りつめた年月の蓄積は切実であり、圧倒されるものがある。
この間、犠牲になった人たちが葬られる望月洞墓地を何度となく訪れ、亡くなったり行方不明になった人たち全員の家を尋ね歩き、彼らの肖像写真と対面している。氏はこの間の心の裡を、激動の時代を目撃した記録者などではなかったし、さらに芸術家の本能的カタルシスではなかったと語り、一方は祖国の民主化を生命として愛す青年で、一方は命令を命としなければならない兵士という異なる立場に立っていたという理由で、それぞれに身体を殺し、精神を殺すことになった辛い恨みを晴らしたかったのだと明かしている。
写真作品への評価とともに、過酷な歴史の現実から逃れることなく光州・望月洞を撮り続けた氏の写真家としての生き方もまた称賛されてよい。

作者のプロフィール

写真

1956年韓国慶尚南道山清郡生まれ。写真家。92年慶一大学校写真映像科写真専攻卒業。95年中央大学校大学院写真学科修士卒業。2007年釜山大学校大学院芸術文化映像学科芸術学博士卒業。97~2000年大邱芸術大学校写真映像学科講師。00~03年百済芸術大学写真科専任講師。03~07年慶一大学校写真映像学科教授。現在古隠写真美術館ディレクター。
主な写真展(個展)に、87年「人間探求」(韓国大邱-大邱現代美術館)、90年「おかあさん」(韓国大邱、光州-大百ギャラリー/ナンボン美術館)、92年「温山工団」(韓国大邱-東亜美術館)、93年「望月洞」(韓国大邱、光州-東亜美術館)、「おかあさん! その名前」(韓国大邱-ソジンギャラリー)、94年「光で貰った遺産」(韓国ソウル-セムト画廊)、95年「おかあさん!」(韓国大邱、ソウル-東亜美術館/ヌンギャラリー)、98年「人間と環境」(韓国大田-大田市民会館)、2000年「イ・サンイルの望月洞」(韓国全州-全北芸術会館)、2002年「Mementomory」(韓国ソウル-HOW ART ギャラリー)、03年・04年「記憶の鏡(戦争シリーズ)」(韓国釜山-栄光ギャラリー)、05年「同」(韓国蔚山-蔚山市北区文化会館)、09年「クラシックでの招待-望月洞」(韓国ソウル-Mギャラリー)、「東江国際写真祭 写真賞受賞展」(韓国江原道-寧越学生体育館)、「古隠写真美術館 企画招待展」(韓国釜山-古隠写真美術館)などがあり、ほかにグループ展多数。
主な著作に、94年『光で貰った遺産』(ドドゥ出版社)、『明るい部屋』Vol.5(ヨルファダン出版社)、95年『おかあさん』(写真集・思考の海出版社)、2000年『李尚一の望月洞』(光州ビエンナーレ財団)、02年『Memento Mori』(サムキョン出版社)、『シン・キョンギュンの生と器』(図書出版デザインファクトリー)、03年『図鑑展』(図書出版プルンセサン)、08年『芸術でめし食う人々』(図書出版ヌンピッ)、09年『イ・サンイル写真集』(東江国際写真祭運営委員会)などがある。

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