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第8回三木淳賞受賞作品展
石川 直樹展 [THE VOID]
三木淳賞奨励賞展
菱田 雄介展 [ぼくらの学校 Наша Школа]
田代 一倫展 [浮憂世代]
1/25 (木)~1/30 (火)
10:00~18:00
会期中無休 |
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<石川 直樹展内容>
撮影地は、ニュージーランドの北島、先住民のマオリの聖地として受け継がれるいくつかの原生林である。太平洋島嶼部には、海図やコンパスなどの近代計器を用いず、星や風、潮流や鳥などあらゆる自然現象を頼りに舟を目的地に導く古代航海術が受け継がれている。作者はその航海術を知るマオリの古老を訪ね、カヌーが生まれる神聖な場所を教えてもらった。そこは深い森だった。
原生林の奥へ入り込んでいくと、自分がどこへ向かっているのか、どこにいるのかさえもわからなくなるような感覚に襲われる。タイトルである『THE VOID』は、「空間」「無限」「すき間」といった意味をもっている。マオリの聖地は、そこを入り口にしてどこへでも伝っていける一種のエアポケットとして機能していた。すべての森はひとつの森であり、ひとつの森はすべての森に通じている。
人々を島へ導いたカヌーは、この地で生まれ、海を渡り、やがて朽ちて再び森へと還っていく。はじまりであり、終わりでもあるこの土地の先には、島の過去と未来、そして広大な海が常に在り続けている。そのような場所の存在をほんの少しでもわかちあえたらと、カラー約20点を発表する。 |
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<授賞理由> 受賞作品は、星や自然現象だけを頼りに自らの位置と進むべき方向を導きだす古代航海術の原郷といえる、カヌーを切り出す聖なる森を撮影したものだ。しかしそこに写しだされているのは森というより、私たちには見えず、聞こえず、感知するのさえ困難な、ある大きな力の循環であるといえるかもしれない。だから実は写真ではそうした力の存在などとらえられないのだが、ただその力に向き合う人の姿勢だけは写しとめることはできる。作者はこの姿勢のとり方を多くの過酷な冒険や旅のなかで学んできた。
あるとらえがたい瞬間や場所へ、大きな力のあらわれへ、真摯に心を向けてゆくこと、人が自然宇宙と交感し、自然宇宙とともに生きていくための道と知恵がこの森の記録には精妙に写し出されている。 |
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<作者のプロフィール> 石川 直樹(イシカワ ナオキ)
1977年生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士課程在学中。多摩美術大学芸術人類学研究所研究員。2006年、さがみはら写真新人奨励賞受賞。
個展:2003年「for circumpolar stars 極星に向かって」(エプサイト、東京)、05年「THE VOID」(新宿ニコンサロン、東京)
主なグループ展:2004年「On The Edge of Nowhere 二つの異なる“自然”」(kuspace wien、ウィーン)、「フォトドキュマン STILL & MOVE」(杜のホールはしもと、神奈川)、05年「SKY HIGH」(KPOキリンプラザ、大阪)、06年「New Visions of Japanese Photography」(雅巣画廊、上海)、「epSITE retrospective 1998-2006」(エプサイト、東京)
写真集:「POLE TO POLE 極圏を繋ぐ風」(中央公論新社、2003)、「THE VOID」 (ニーハイメディアジャパン、2005)
パブリックコレクション:上海視覚芸術大学 |
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<菱田雄介展内容> 21世紀に入り、歴史は急速にその歩みを速めた。
私たち日本人と同じように生まれ、育ち、学校へ行ったり仕事をしたりする日常が、かの国ではいつしかあっさりと、あまりにあっけなく崩れ去ってしまう。
2004年9月1日、ロシア南部北オセチア共和国ベスランでは、いつものような新学期。ちょっとおめかしして学校に集まるのはこの地方の習慣だ。
小さな町の古びた学校の「日常」は、突然乗り込んできた男たち、女たちによってあっけなく絶ち切られた。いつもボールを追いかけたバスケットボールのゴールポストには爆弾の導火線が仕掛けられた。クラスで威張っていた子も、勉強ができた子も、一番かわいかった子も、今ではただの弱い子供だった。
地獄の3日間。そしてバスケットボールのコートの上で、爆弾は爆発した。300人を超える子供と親と教師が、無残に死んだ。
それから1年。ベスランの街は強い西日の中で濃厚な影を伸ばしてたたずんでいた。
それでも買物をして、それでも学校に行って、それでも仕事に行かなくてはならない「日常」。双子のように育った妹を亡くしたザリエナの悲しみが、表情のない引きつった微笑みに刻まれていた。
バスケットボールのコートには、あの事件の前と同じようにボールを追う歓声がこだましていた。カラー約50点。 |
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<授賞理由> 作者はこれまでアフガニスタン、イラク、ブータン、ニューヨークなどを回りながら21世紀になって世界で起こっている大きな変容による亀裂を写し取ってきた。
「ぼくらの学校」は、ロシアのオセチア共和国ベスランで起こった、300人を超える子ども、親、教師が爆弾で死亡した惨劇の残骸と痕跡をその一年後に撮影したものだ。何事もなかったかのようにおさまりかえる日常、しかし事件の傷が今尚ざわめく人々の感情をとらえる真っすぐな、混じり気のない眼差しは、「忘れられないこと」を浮上させる写真の意味を改めて考えさせてくる。 |
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<作者のプロフィール>
菱田 雄介(ヒシダ ユウスケ)
1972年東京生まれ。96年慶應義塾大学経済学部卒業。民放テレビ局入社(主に情報番組のディレクターを務める)。2003年パレットクラブスクール参加。講師の森山大道氏に写真家瀬戸正人氏を紹介される。
写真展に2004年「3Roads 3Countries ~NY ・ Afghanistan ・ Iraq~」(Gallery Place M/新宿)、「未来ノ瞳 ~Afghanistan ・ Iraq ・ Bhutan~」(Days Photo Gallery/四谷)、05年「ある日、アフガニスタンで。」(日本女子大学/西生田)、「ある日、」(Gallery Place M/新宿)があり、写真集に『ある日、』(月曜社刊)、『BESLAN』(新風舎)がある。 |
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<田代一倫展内容> 現実と将来への想いが交錯し、「社会」を意識し始める世代、それが高校生だと作者は思う。
街で見かける高校生たちは底抜けに明るく輝いて見える。しかし、彼らが一人になったときに見せるふとした表情からは、複雑な感情が伝わってくる。
作者はそんな彼ら一人一人と対話しながらレンズを向けた。そこで感じた彼らの誠実さや純粋な心は、かけがいのないものであった。
この感受性豊かな年代は、社会や周囲の状況を敏感に受け止めることを強く認識した。カラー40点。 |
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<授賞理由> 受賞作品は、大人にも子供にもなれない奇妙な時間を生きる現代の高校生たちの浮遊感や鬱屈した感情、そして純粋な精神を、集団や社会から切り離し、まるで真空のなかのフィギュアのように削りだしている。何気ないポートレイトのなかに21世紀の日本という、よるべなき特別な時代を繊細に、多感に生きるティーンエイジャーたちの不思議な位相がこのシリーズにはピュアな形で描きだされている。 |
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<作者のプロフィール>
田代 一倫(タシロ カズトモ) 1980年福岡生まれ。2005年3月九州産業大学芸術学部写真学科卒業。4月同大学大学院芸術研究科写真専攻入学。06年第7回上野彦馬賞入賞。 |
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