内容:
不意に忘れていた光景が、はっと目の前に現れる。自分の奥深くに刻まれているものを掘り起こしているかのような、どこかに迷い込まされたかのような不思議な感覚。目の前にある風景がひと続きの風景ではなく、ひとつの“間”として見えてくる。そしてその中へ自分が入り込む。まるで“間”の住人であるかのように。
間と間に新たな“間”が現れ、その間を埋めるように写真を撮る。しかし、そこにできるのはまた新たな“間”。
ポカンと空いた自分の忘れていたスペースがそれで埋まればよいのだが、けっしてそうはいかない。そしてまた、間と間に(マトマニ)新たな間が現れ続けるのだろう。カラー22点。
授賞理由:
西岡潔氏の受賞作品「マトマニ」は、作者の心の中に潜む不定形な風景と、眼前にしている現実の風景との間隙を結ぶ心象風景といってよいだろう。日本各地の森や海岸線を歩き、そこに寝泊まりし、自身の心の襞に一つひとつ投影するようにして、数年間をかけて丁寧に積み重ねた集積である。それだけに、それぞれの写真の完成度は高く魅力的であるのだが、半面その内に向かい続ける精神の彷徨が社会との繋がりや出口を見えにくい閉鎖性にも重なっている。今後この仕事がさらに継続されるとともに、新たな可能性が切り開かれることに期待したい。
プロフィール:
西岡 潔(ニシオカ キヨシ)
1976年生まれ。大阪モード学園ファッションデザイン学科卒業。自然からのデザインの発想、民族の服飾デザインに興味をもち、98~2000年オーストラリア、東南アジアに滞在。それらの光景を撮影する。後に日本の自然と森を彷徨い撮り歩く。自分がその場に馴染む体感をするうちに“場”に対する意識が高まる。場の空間と時間を意識し、写真を撮る行為を続ける。
写真展に、01年「FRAGMENT OF MEMORY」(ギャラリー六式)、03年「まなざし」、05年「マホロ」(以上、BEATS GALLERY)、06年「樹海」平澤直治氏と2人展(BEATS GALLERY)、10年hitoto企画展 vol.3 4×5 hitoto Jam Session、「あをにそらい」小野ナホヨ氏と2人展(入江泰吉記念奈良市写真美術館)などがある。