作者はアジア各地のスポーツ競技の現場を歩いてきた。
巨大なスタジアムや体育館でプレーする選手たちの姿から、格闘技道場で体を鍛える人々、高速道路のわきの空き地、路地裏の公園などでスポーツを楽しむ住民や子どもたちなどさまざまである。
競技に夢中になっている人々のわきを、牛がのんびりと歩いて行く場面に出会ったこともあった。カンボジアのトンレサップ湖では、ボートの上に造られた移動式バレーコートで、中学生がひもをネットがわりにバレーに興じていた。
今の日本では公園でキャッチボールも自由に出来なくなってしまったが、作者は、アジアの人々にとってスポーツ競技が日常生活に深く根付いていることを実感した。アジアの各地でスポーツ競技は、人々の人生の中にとけ込んでいるのである。
日常のなかで、スポーツと出会った瞬間の作品である。カラー13点。
藤原氏は、アジア各地―インド、東南アジアの十数カ国―を巡って、スポーツに興ずる市民の現場を記録している。その表現の特異性は、タイトルにも示されているように巻物仕立てで、常識的な写真のフレーミングを逸脱する長大ワイド(タテ×ヨコ比 1:4~10)で捉えていることだ。カメラを起点として、ほぼ360°の画角の視野。表現の中心は、スポーツを興ずる人々と見えながら、その競技を取り巻く見物のギャラリーの表情、周辺の施設や市街が同次元に捉えられている。
そのスポーツの身体的な動きやかたちの発見以上にその背景として、それを支えている市民社会が見えてくるおもしろさがある。副次的なイメージのようではあるが、このような周辺部が丁寧に写し撮られているのが、この作品の核となっている。
スタジアム、競技場という空間でなく、市井の広場や路上で繰り広げられる愉しみの為のスポーツ、その周辺の情景を捉えた視点が、現在のアジアの現在をよく現している。スポーツが制度化、商業化される以前の生活と隣り合わせた楽しみとしてある姿に、日本でもそんな時代を経てきた体験を思い起こさせられる。
技術的に横に繋ぎ足していく優れた撮影テクニック、パソコンでの上質なフォトレタッチ作業などが作品を上質に支えている。
1987年静岡県生まれ。高校在学中、バスケットボール部でインターハイ出場。2009年日本写真芸術専門学校のフォトフィールドワークコースに参加し、180日間でアジア10カ国を巡る。10年日本写真芸術専門学校卒業。現在はブライダル撮影会社「美光写苑」に勤務している。