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2009年度 三木淳賞奨励賞
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内容:
満洲国の存在は歴史の教科書で習い、中国残留邦人のことも作者は子供の頃からニュースで知っていた。しかし、中国残留邦人は異国の地となった場所に取り残され、何十年後かにやっとの思いで帰国できた時には、言葉や年齢の事情もあり、いい仕事が見つからない。多くの人が今も生活保護を受けなければ生活できない状況だ。二世、三世の問題もある。
一方で、中国には今やたくさんの日系企業が進出し、多くの日本人が海を渡っている。かつて日本人によって造られた街や建物があちこちに残る満洲国の地も例外ではない。
「かつて海を渡った人の今」「今、海を渡った人」
同じ時間に存在するこれらが、どうも繋がって見えない。過去が切り捨てられてきたからではないか。国が積極的にこの問題に取り組んでこなかったため満洲国の後遺症は個人に押し付けられている。
過去の経験は共有し、未来へつないでいかなければいつかまた何か別の形で後悔する時が来るのではないだろうか。
カラー約55点。 |
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授賞理由:
中国残留邦人の帰国後の生活と、中国北東部、かつての満洲国に今も残る当時の面影やその地で働く日本人の若者たちの姿を並置させた「海を渡って」は、満洲国の存在からは遥か遠くに隔たった写真家の、幻のようにあてどなく、しかし確実に存在した国家に対する真摯なアプローチの成果である。
異国の地に取り残され、何十年後かにやっと日本に帰国できたものの、生活はうまくゆかず、高齢の身のうえや子孫の未来を案じながら暮らす人々の現実と、今や多数の日本企業が進出し、日本の若者たちが夢を求めて働いているかつての満洲の光景、それらに繋りや関係を見い出せぬまま、二つを対比させる作者の眼差しには、二つの国の間の、あるいは過去と現在の間の途方もない亀裂に対する無力感や苛立ちとともに、見えない歴史を見ようとする意志が秘められている。 |
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作者略歴:
鶴崎 燃(ツルサキ モユル)
1975年愛知県生まれ。中部大学土木工学科卒業。2003年名古屋ビジュアルアーツ写真学科卒業。卒業後1年間同校助手を勤め、その後写真家大石芳野氏の助手となる。現在大石芳野写真事務所に所属しながらフリーとして活動中。 |
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