今回作者が制作した「記憶の地図」の中の写真は地図(地表の状況を縮尺して平面に表したもの)であった。正確に言えば、作者の考える内面的な大地をペーパー上に投影した地図の断片である。
この作品の背景には、作者が生まれて育った東京都市という空間が密接に関わっている。時が忙しく流れ、平らな光が街を照らし、人々の顔には表層感が漂う。そしてノドがかわく…。
その対比として位置するものが今回の地図だと言える。その中で作者は、都市空間と異なった場所で暮らす人々の儚さ、強いては人間だけに与えられた特別な感情というものの偉大さを、静かな空気感の中で表そうとしている。
作品はネパール王国で撮影し、祈り、瞑想、横顔など自然の中で生きるネパールの人々の思想、存在感が強く感じられるもので構成されている。そして何よりも作者の出会った感動の記録こそがこの地図のインデックスとなる。モノクロ30点。
ネパールのルポルタージュものは、ここ数年他に多く見ることができるが、この作者の作品は、単なるエキゾチズムに魅せられたルポルタージュではない。
不可視な聖なるものに対峙し、祈り瞑想する人々の姿を通して、可視世界しか信じ得なくなってしまった我々の状況―高度情報化社会を逆照射しようとする試行が高く評価された。
1980年東京生まれ。2001年東京工芸大学芸術学部写真学科入学。現在同大学4年次在学中。2005年4月アマナ所属予定。